【感想・ネタバレ】はじめてのプラトン 批判と変革の哲学のレビュー

あらすじ

プラトン哲学の「おもしろくて大切なところ」をあえて一言で表わせば、「批判と変革の哲学」だ、と言いたい。こんなふうに表現すると、プラトンを旧式の左翼の一員に仕立てているように聞こえそうだ。だが、これは特定の政治的立場を表わそうとしたものではない。

「批判」つまりクリティークとは、非難したり否定的な態度をとったりすることではなく、相手とする主張の論拠やそこからの帰結などについてよく考察し、事の是非を判断することを言う。

「変革」も、政治体制だけではなく、日常的な考え方や生活を含む人間の営みの全体がその対象となる。そしてプラトンは「批判と変革」を自身の思考についても実践していた。

これらすべての意味で、「批判と変革の哲学」なのだ。

プラトンは探究し、執筆し、そして教育した。そうしたなかで彼が直面していたのは、森羅万象を支える根本原理は何か、よい生き方とは何か、といった「哲学的」問題だけではない。

当時の人びとに人気を博したホメロスや悲劇・喜劇、あるいは幼年や少年時に施される体育や音楽の教育といった人びとの日常的営みに対してもプラトンは向き合っていた。いやむしろ、そこから哲学を考えていた。そして彼は、日々の暮らしから世界の根源にいたるまでの全体を相手に、批判的に、かつ包括的に考えたのだ。

同時に、そのような考察がたどり着いたところを広く伝えることに腐心した。彼は一般に人びとに何かを伝える媒体(メディア)のあり方にきわめて意識的だったが、とりわけ自分自身の思考が人びとに届くよう工夫を凝らした。

その著作に、それに触れる人びとの知性と感性にも訴え、反省的な思考だけでなく感情や想像力までも喚起し、そしてそれらを変更する力を与えたのである。

それが彼の哲学、「批判と変革の哲学」である。

【本書の内容】
第一章 プラトンはどう書いたのか、プラトンをどう読むか
第二章 プラトン哲学の原点
第三章 自己と他者を変える対話
第四章 魂・徳・知の関係
第五章 変革へと促すイデア論
第六章 魂の分割 『国家』その1
第七章 哲学者と善のイデア 『国家』その2
第八章 プラトン、その後に

知、真理、魂のあり方を徹底的に考え抜いたプラトンが導く、思考の冒険!

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

入門書でありながら、随所に筆者独自の解釈が打ち出されている。
・国家の中心巻を、批判と変革という筆者の立場と結びつけて国家の中に位置付ける手つきが個人的な読みどころ
・レオシュトラウスやネオコンのプラトン読解を、プラトンをどう読むかという問題と結びつけて論じるさまは、古典哲学研究者の面目躍動
・プラトンの魂論の解釈問題を解決すると同時に現代の哲学的行為論に示唆を与える箇所も唸らされた。

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2022年11月22日

Posted by ブクログ

「これちゃんと解説できてる!?」と不安にるほどわかりやすかった。別にプラトンはノータッチというわけではなく、以前に著作を何冊か読んではいたが、最近彼の思想の重大さがようやくわかり始めてきたため、入門書や解説書をちょくちょく手にとってはいる。ある程度落ち着いたら岩波文庫から出ている著作にまた再度挑戦するつもりだが、そのときのための心強い味方になってくれることに期待。

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2022年11月03日

Posted by ブクログ

プラトンの思想を、「批判と変革の哲学」として紹介している入門書です。

著者は「おわりに」で、アリストテレスにくらべると、「プラトンの場合は、たとえばイデア論にしても魂の理論にしても、プラトンの専門的研究者の間の熱心なやりとりを別とすれば、議論は少し寂しい状況ではないか」と語り、「本書のなかでも、イデア論は普遍や個をめぐる分析形而上学的考察にどのような意味があるのか、プラトンの魂の理論は現代の心の哲学に何を貢献しうるのか、といった、より理論的なことに触れようと思っていた」けれども、けっきょくそれは「断念した」と述べています。

とはいえ、本書の叙述の随所に、そうした観点からの切り口を見てとることができるように感じました。たとえば、ソクラテスの「対話のルール」について説明がなされているところでは、「ソクラテスの対話活動は、人が自分のもっている信念の網の目の全体をはじめから透明に見通せるものではないということを明らかにしている」と述べられています。またイデア論の解釈においても、われわれが感覚知覚において無意識のうちにイデアを感知しているという理解をしりぞけ、パトナムの双子宇宙の例を参照しつつ、「ある概念の内容や言葉の指示対象は、その使用者の頭の中にあるものによってすべて決定されるのではなく、外部の基準的存在によって制約されている」という解釈を打ち出しています。これらの議論には、現代の認識論、たとえば内在主義と外在主義のあいだの論争などの議論が踏まえられているようにも感じられます。

その一方で著者は、プラトンの議論を切り分けて、その現代的意義を示すのではなく、プラトン哲学の全体像を「対話と変革の哲学」として理解することができるという、鮮明な見通しを提示しています。また最終章では、レオ・シュトラウスなどのプラトン解釈を批判的にとりあげ、プラトンの哲学を読み解くということがどのような意義をもっているのかということについての考察が展開されています。

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2022年07月11日

Posted by ブクログ

 ただのプラトンの解説本かと思ったら、自分自身で考えようとか、当たり前に思っている日常を見直してみようとか、思考欲がわいてくる本だった。プラトンの教育者としての面が強調されているように思う。現代に生きる私にも気づきを与えてくれるプラトンと、その手引きをしてくれた著者にありがとうと言いたい。

 あと、哲学の本にしては読みやすい方だと思う。難しい話をしているが、「わかっちゃいるけどやめられないのではなく、そもそもわかっちゃいないのだ」みたいな口語や、例として出てくるBABYMETALに癒される。イデア論も「肉屋の1kg」、「H2Oとしての水」の例などで自分なりには理解できた。まさにプラトンのように感情、想像力まで喚起させる仕掛けがあって楽しく読めた。

 自分の頭で考えようという意識が持てた本。おすすめ。

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2022年05月07日

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