あらすじ
記念すべき50冊目を〈本〉を愛する皆様に贈ります。貴方の本棚に、どうか、もう一冊、闇色の本をお迎えください。本は、常に私たちの身近にあって、あらゆる「世界」を閉じ込めた存在でした。本を開きさえすれば、脳裏に飛び込んでくる「未知」の世界。そこには人生を変えてしまうような出会いもある筈です。記念すべき50巻目の《異形コレクション》を〈本〉に関わるすべての人々に捧げます。(編集序文より)
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Posted by ブクログ
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さてこうして本棚にひとつ闇色の背表紙が加わったわけですが、その一点はじわじわと拡がりやがて本棚全体を覆い隠す――って、そもそも「本棚」とか「書庫」ってのもホラーちっくな響きがありますな。なんか生まれないかなうちの本棚からも。
引っ越して納戸が出来たので本棚作ったんだけど、思ったより持ってる本少なかった。もっと沢山読みたいですなぁ。今年はがんばろ。
SF、ホラー、ミステリというなんとかトライアングルから抜け出せずに死んでいくんだと思う。はふう。
1997年から刊行されているダーク・ホラー・アンソロジー。そのシリーズ50巻のという記念すべき一冊を、本をテーマにして編むあたり、本の怖さというものをひしひしと感じるのでした。
本は本の創り手を増殖させてゆく、と序文にもあるけれど、作者の意図からも外れて自己増殖していくとも云える本はある種もう、生きてると云えるんじゃなかろうか。
全体的に百物語ちっくというか、語られる物語の端を捉えて次の物語が語られる…って雰囲気があるのも、そういうホラーの自己増殖感が出てて良かったです。にしても新旧問わずの名だたる作家が語り継ぐ百物語、なんて贅沢なんでしょう。
特に印象に残ったものをいくつか。
柴田勝家『書骸』
戦国武将みたいな名前の作家ランキング1位。御本人もネタにしてるというか由来がそうなんだからいいよね…? Wikipediaに大真面目に「この項目では、織田信長の部下について説明しています。現代のSF作家については「柴田勝家 (作家)」をご覧ください。」って書いてあるのまじで笑える。
圧巻の不気味さと着想。中盤からなんとなくラストの展開は読めてくるものの、解っていても怖い道をじわじわと進んでいって最後の角を曲がる感じはホラーの真骨頂でもある。その道程を語り口と豊かな筆でこうも読ませてくれるとなるともうお手上げである。ああ怖い! ってー開放感はなんなんでしょうね。
真藤順丈『ブックマン――ありえざる奇書の年代記』
岸辺露伴によるバトロワ系ホラー(笑 そもそも岸辺露伴が設定的にズルすぎるんだよね…みんななんとなく心の隅で思い描いているものをあんなに魅力的に形にされては。
緻密な文章と設定力と、広い世界観が読ませる。日常的な描写から物語内の物語にひと息にスライドする技量も見事。その上でミステリ的な展開もあって、とても楽しめました。
朝松健『外法経』
朝松健の〈室町ゴシック〉と銘打たれていますが、こういうの読みたかった! これは良い。
やはり怪異と云えば中世日本の不穏さが光る。大人の一休さん譚。たまらん。
ほんとに読み応えばっちりですが、ちょっと疲れます。良いホラー見たあとって疲れるのと一緒ね。
以下、澤村伊智『恐』からの引用になるけれど、ホラーというものを端的に表わしていて凄くしっくりきたので、まぁこういう気持ちで読んでください。
“こうしたアンソロジーの解説にありがちな「人間にとって最も恐ろしいものは不可避で未知なる『死』であり、怖い話はその恐怖を予習することで緩和させるための手段」といった趣旨の文章も、したがって三つの点で誤りだと私は考える。死を絶対的恐怖だと定義している点。絶対的恐怖というものがどこかに必ずあると見做している点。そして怖い話に、ビジネス書やノウハウ本のような社会的意義、有用性を見出そうとしている点。”
と、これが巻末の解説からの引用ではない、というのも面白いところ。左様にそれぞれ趣向を凝らされた短編のあつまりなので、きっと気に入る1編があるはず。
こりゃ新しい沼だな…
☆4つけときます。怖いんで。