あらすじ
日本を訪れたドイツ軍人とある“侍”が熾烈な戦いを繰りひろげる「一九三九年の帝国ホテル」。北の大地で使命を負った女性たちの矜持と運命を活写する「レディ・フォックス」。芸に打ちこむあまり加速度的に心身を崩壊させる漫才師を描いた「終末芸人」など、洋の東西を問わず、昭和、平成、令和の百年をつらぬいて生き抜くひとびと=「われら」の人生模様を、『宝島』で直木賞を受賞した真藤順丈が凄まじい熱量で描きだす作品集。
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Posted by ブクログ
異形コレクションのブックマンでハマった著者さん、単著一冊目
この方の物語は、それぞれがとても壮大な歴史観や、伝統、民族精神などのうえに成り立っているのだな、と。一作一作がドラマティックだった
そして、振れ幅…
歴史から芸事まで。
『レディ•フォックス』(アイヌ)『笑いの世紀』(演芸一座)『異文字』(アフリカ虐殺)に共通する戦争への憎悪。犠牲になるのはいつだって庶民、その悲惨さが通底して感じられた
ダントツ好きな二作
①一九三九年の帝国ホテル
ナチスがホテルに潜伏、人質事件
ホテルで働く女性と『最後の侍』が協力し、救出奪還を図る
ドラマか映画にして欲しい完成度!
ホテルの優美さ、上流階級の空気感
時代背景やナチス達の外見、振る舞い、緊迫感、闘い、描写が細かくて、引き込まれた
『恋する影法師』も原爆直後の広島で本当にあり得たのではないかと思わせる描写
影だけ残ってしまった想い人と永遠に寄り添うため
男は影になり、想いを果たす
②週末芸人
自分を痛めつける芸風も、お笑いそのものも今や嫌いな部類なんだが、
読み物になると、漫才の掛け合いってこういうものだっけな、と
口から発せられる言葉より、紙に印刷された言葉の方がわかりやすいし、本作はグロ部類だと思うが、それでも必死に生きて『笑顔への恐怖』を乗り越えようとしたジンボの壮絶さが、インパクトあった
Posted by ブクログ
短編集。戦時中の物語もあり、全体的に陰湿で薄暗い話が多いから低評価なのかな。
個人的には好き。多様な言葉で紡がれる独創性の高い世界観にいつのまにか夢中にさせられる。真藤順丈という人間が全く掴めないし、飽きない。
明るく幸せでハッピーエンドな話なんて読みたくない私にはどストライク。
この一冊で著者の高い能力と著者が生み出す独特の空気感を感じることができる。おどろおどろしていて触りにくいが、一度触ると中毒性が高い。また他の著書にも、おそるおそる触りに行きたくなる。
Posted by ブクログ
「宝島」で直木賞を取られた真藤順丈さん。初読。
過去のアンソロジー参加作品や雑誌掲載作品の中から、10編が収録されている、重量級短編集。
一作目の「恋する影法師」の原爆投下前後の昭和の戦中から、2020年令和の「終末芸人」まで、およそ100年を時代を追って書かれている。(集めたのかな?)
どの作品も短編とは思えない濃厚さ。数奇な人生を描ききってくる。文章も力強く多彩。一作ごと、深呼吸したくなるような。
最後の「ブックマン」は、少し異質で、ファンタジーでもある。人から流れ出てくる異文字(イラハカリマ)を読み取り、その人なりを理解した上で上書きすることができると言うウジャトの目を持つ血脈。その異文字を編んだ物を奇書と言う。物語は濃厚でこのウジャトの目を持つ日本人家族の数奇運命を辿る。これは、作者自身の作品への在り方、あるいは、作家としての希望が含まれているのではと思うのだけれど。
“笑い”についての作品も多い。人を笑わせるという行為に伴う芸人達の苦悩、思考、人生そのものを息苦しく表現する。「笑いの世紀」1930年代後半日中戦争時に、時間・死・戦争に笑いで抗うと命さえかけた芸人。壮絶な戦争体験に芸が戦争に負けたと。悪事に手を染めながらも笑いを追い続ける。
「ダンリリ」は、バブル期後あたり、演芸場を活動拠点とするお笑いコンビ。楽屋の支配人から見た芸人達の人生。この支配人の娘と甥の楽屋が結んだ恋と結婚の顛末が凶器の笑い。「終末芸人」は、2020年かな。二人のお笑いコンビの自滅型の笑い。なぜ、芸人を選択した理由が、笑顔が怖いから、その恐怖に打ち勝つ為という破壊力。
笑わせるという行為と小説を書くという行為に共通性を見ているのかなと思う。
文章も作品も太い筆で書いている様な。短編集とはいえ、濃厚な人生の目白押しですよ。