あらすじ
ウイルスハンター界のインディー・ジョーンズが未知のウイルスに挑む!
医学や科学技術が発展した今日でも、西ナイル熱、エボラ出血熱、豚インフルや鳥インフルといったパンデミックが発生するのはなぜか?人類は太古の昔からウイルスと共に生きてきた。問題は、世界がフラット化した現代では、変異した致死性のウイルスが瞬く間に世界中に拡散してしまうことだ。どうすればパンデミックの危機を防げるのか?若き科学者ネイサン・ウルフは、パンデミックの爆心地―ジャングルの奥地でウイルスが動物からヒトへと感染するその瞬間をとらえ、警告すべく、最新の科学と通信技術を使った地球規模の免疫系を作りあげようとしている。果たして人類は、このパンデミック新時代を生き延びることができるのだろうか?サルからヒトへの進化の過程で、ウイルスが果たしてきた歴史を紐解きながら、人類とウイルスの未来図を描く、パンデミック爆心地からの最新レポート。
第一部 たれこめる暗雲
第一章 ウイルスに満ちた星
第二章 狩りをする類人猿
第三章 微生物の大規模なボトルネック
第二部 大きな嵐
第五章 最初のパンデミック
第六章 ひとつの世界
第七章 親密な種
第八章 ウイルスの襲撃
第三部 予測
第九章 ウイルスハンター
第一〇章 微生物予測
第一二章 最後の疫病
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ウイルスが最近熱い。病原体としてもだが、進化や発生の過程でも大きな役割を担っている。しかも、歴史に与えた影響も甚大。スケールの大きい感じがいいなぁと思ってたら、某ジャレド・ダイアモンドと共同研究したりしていたみたい。道理で。
動物(ヒトを含む)はウイルスや細菌を保持しているもので、ある意味ウイルスや細菌の塊。
人類は(少なくとも)一度人口が激減したことがあり、その時に人類が保持している微生物の多様性も減少した。また、人類が熱帯雨林を出たことで、他の猿と接触する機会が減ったことも人類が接触する微生物の種類が減ることにつながった。これに加え、熱を使って調理することでも微生物との接触が減少した。
これによって安全になった一方で、微生物に対して脆弱になったと思われる。
この後、人口が増加し人口密度が増加したこと、牧畜を初めて家畜との接触が増えたこと、さらに道路・航路・空路などを通じて移動が激増したことが、未知の微生物との接触機会を増加させた。さらに、医療も微生物の拡散に貢献してしまっている。注射を通じてHIVやC型肝炎が広がったのが例だ。また、輸血も血だけでなく病原体も広げる。さらには、移植もそうだ。特に異種移植にはその危険性が高い。人から人へ感染することはない狂犬病だが、角膜移植を通じて感染したという事例が10件ほど有る。(!)
新型の病原体の発生は、動物からヒトへ感染するところから始まる。
最前線に位置するハンターに協力してもらうことで、パンデミックの発生を未然に防ぐことが出来るのではないか。
バイオテクノロジー、GIS、モバイルテクノロジーの発展がこの分野を大きく前進させている。(例えばCall data recordから、インフルがどう拡大するかの予測ができる)→デジタル疫学
感染防止にはワクチン・手洗いが重要
Posted by ブクログ
ネイサン・ウルフのパンデミック新時代を読みました。
人間と微生物やウィルスとのかかわりを解説した本でした。
人類の生い立ちを遡って類人猿とウィルスの関わりが解説されていて、人類が一度絶滅の危機に瀕するほど個体数が減少してしまったために、感染症に対する耐性が低くなってしまっていると解説されています。
また、昔は悪性のウィルスが発生したときに局地的に感染が広がる(アウトブレイク)だけだったのが、現在は世界が航空機の交通網によりつながったことにより、広く世界中に感染が広がってしまう(パンデミック)リスクが大幅に増加してしまったことが解説されています。
ジャレド・ダイアモンドの銃・病原菌・鉄と関連する解説もあって面白く読みました。
人間はたくさんの微生物と一緒に生きているので、微生物を絶滅するのではなく、身体の中に良い微生物を増やすことが重要だ、という解説は面白いと思いました。
腸の中の微生物の状態により肥満が発生するという研究もあるそうなので、「腸内微生物ダイエット」なんてものがそのうち流行るんじゃないかな、と思ってしまいました。
Posted by ブクログ
まったく便利な時代になったものだと思う。どこにいてもネットにはつながるし、様々なデバイスから目的のファイルにアクセスできる。重いPCを持ち歩かなくても作業は行うことはできるし、シェアも簡単。まさにクラウドさまさまである。
しかし、人類に先駆けること何百年も前に、同じような環境を手にしている生命体がいた。それがウイルスである。彼らは人間同士が相互に接続された世界を、まるでクラウド・コンピューティングのように利用し、自分自身をビットのように複製してきたのだ。
かつてパンデミックを引き起こしたスペイン風邪ウイルスや、HIV(ヒト免疫不全ウイルス=エイズウイルス)のような悪性のウイルスは世界中を席巻してきた。また、2009年に豚インフルエンザウイルスが人類を脅かしたことも、記憶に新しいことだろう。
このような猛威に対し、人類だって手をこまねいて見ていたわけではない。突発的なウイルスを絶滅するべく、強力な医薬品を開発してきたのだ。だがウイルスもまた、さらに強力な進化を遂げて対抗する。その関係は、まるでイタチごっこなのである。しかし、約800万年に及ぶ人類の長い歴史の中で捉えると、このような関係になったのは、ごくごく最近のことであるという。
著者のネイサン・ウルフは、行動力あふれる気鋭の生物学者。小さすぎて肉眼では見えないが、どこまでも広大なウイルスの世界に乗り込み、パンデミックの拡散防止に勢力を注いできた。ついた呼び名が、ウイルスハンター界のインディー・ジョーンズ。
本書の前半部では大部分のページを割いて、長い進化の歴史における人類とウイルスとの関係、その変遷を生物学的に読み解いている。
両者の運命的な出会いは、人類の祖先が狩りを始めた約800万年前に始まった。ひどく汚れ、血も流れる狩りという営みは、一つの種から別の種へと感染因子が移動するために必要な条件をすべて備えている。
それは獲物となる動物との接触が増えただけではなく、獲物の持つ微生物との接触が増えることも意味していた。狩りは、人類の祖先にとって画期的な出来事であったのと同じくらい、微生物世界にとっても重要な出来事であったのだ。
次にターニングポイントを迎えるのが、森からサバンナへ移り住むという出来事である。それは決まったテリトリーでの生活から遊動民の生活に移ることであり、そうした変化に伴い新しい状況に対応するということは、さぞやきつい体験であったことだろう。あまり知られていないが、人類の祖先にはその数を大きく減らした時期があり、絶滅寸前にまで追い込まれていたのだという。
人口が減るということは、微生物にとって大きなビジネスチャンスである。数が減り、同質性を増した集団になることは、保持する微生物の多様性が減ることを意味するのだ。これは一見良いことのようにも思えるが、諸刃の剣である。人類が、病気と戦う防御戦術の一部を奪われたという側面もあるのだ。さらにそこへ、熱を使って食べ物を料理するという歴史的変化も起こる。これら二つの要素は結果的に、人間と接するウイルスを、よりエンパワーメントされた状態に仕立て上げることとなった。
だが、最も決定的な役割を果たしたのが、1万年から5千年前にピークを迎えた飼育・栽培革命である。この革命が人類の祖先に与えた大きな影響は、大規模な定住型コミュニティを築けるようになり、かつては一過性のものだった微生物も長く存続できるようになったということだ。
その後の人口の増加と、相互に接続された世界は、私たちをパンデミックの時代へと押しやることとなる。都市化、交通手段の発達に加え、移植や注射なども広く行われるようになり、病原微生物が拡散し、被害を与えるためのまったく新しい経路が開かれたのだ。
このような一切合切が、ウイルス視点で考えると、クラウド環境が急速に整備されていくということにほかならない。人間による移動手段の革命は、微生物にとって接続性の革命でもあったのだ。これらのテクノロジーが作った結びつきは、人間の感染症の性質を永久に変えたし、それが広まる効率も決定的に変えたのである。
そして現在争点となっているのは、これらのパンデミックをどのように阻止することが可能なのかということだ。本書の後半部では、この点に関しての詳細な解説がなされている。
答えの一つに、デジタル疫学というものがある。たとえば、情報機関がどのようにテロ行為を予防するのかということを想像してみると分かりやすい。もっとも有効なツールは、見張り役となる小集団にフォーカスを絞込み、会話を傍受するということである。そのノウハウを疫学に活用するのである。
住んでいる場所や活動が理由で、どうにも微生物に感染しやすい人々というのが存在するのだという。アフリカやアジアの一部で、今なお狩りと獲物の解体に従事する野生のハンターたちである。彼らを注意深く観察することで、ウイルスの異変をすばやく検知することができるのだ。
検知の次は、感染経路をどう予測するかということになる。代表的なツールの一つに、GIS(地理情報システム)があげられる。テキストメッセージを利用した単純なシステムを築き、すべての重要な医療情報を位置情報とともに可視化・共有化することで、劇的な効果を産むことができるのだ。これらのツールを総合的に使えば、アウトブレイクを監視し、防止する方法を根本的に変えられるかもしれないというところまで来ているそうだ。
将来的には、アウトブレイクの検知をクラウドソース化するのが、理想であるという。各感染者から送られてきた少量の情報を集めて、アウトブレイクの発生とその後の拡大をリアルタイムに描ける日も、そう遠くはないだろう。
こうして見ると、ウイルスと人間とのせめぎ合いが単体同士に閉じた話ではなく、ネットワーク同士の問題となっている様子が伺える。そこに立ち向かうべく、著者が模索しているシステムは、まさに「地球規模の免疫系」を作るような試みとも言えるだろう。
よくよく考えてみれば、これほど見事なソリューションも稀有ではないだろうか。監視や予防という観点に立つことにより、生命科学の問題に対し、社会科学的なアプローチで答えを出せるということなのだ。
人間同士が結び付くことによって引き起こされたパンデミックを、更なるつながりを持って解決する。結果的に本書は、人間同士が相互に結びつくことの功と罪を、ウイルスを起点に描き出しているのだと思う。人類最古のパートナーは、やはり奥が深い。
Posted by ブクログ
ウイルスの人間への影響がとてもわかりやすく説明されている。HIVの歴史が比較的簡単な相互作用、中央アフリカでチンパンジーがサルを飼ったことがはじまりだと走らなかった。
ウイルスは動物、人間を移動しながら繁殖していく。動物の身体では無害だったが、人間の身体の中に入ると、害を及ぼすこともあるみたいだ。動物を生で食べることの危険性がよくわかった。他の動物と接触することは、新しいウイルスが人間の身体に入る可能性を高くするのだ。複数のウイルスが身体の中で出会い、遺伝子を交換する機会を増やす。ウイルスが遺伝子を交換する方法は2つある。遺伝情報を直接変えること(変異)と、遺伝情報を交換すること(遺伝子の組み換えと最集合)だ。変異は、遺伝的に新しいものを作るための重要なメカニズムで、確実だがゆっくりしている。一方、後者の遺伝子組み換えと再集合は、まったく新しい遺伝的特質をすばやく得る能力をウイルスに与える。HIVは寄せ集めのウイルスだ。2種類のサルのウイルスが、ある時一匹のチンパンジーに感染して、体内で遺伝子組換えが行われ、HIVの祖先が生まれたのだ。
深い内容がとてもわかりやすく説明されていてとても満足。
Posted by ブクログ
この本を読むと、見えないものが見えてくるというこの表現が比喩的でなくあてはまります。
ちょっと専門的になりますが、微生物というくくりを説明すると「顕微鏡でしか見えないあらゆる有機体」と著者は書いています。この中にはウイルス、細菌、寄生虫、プリオンなどが含まれるのですが、この本ではその中で最も小さいウイルスを取り上げています。ウイルスは「地球上でもっともすばやく進化する有機体」であり、他の有機体に依存し進化を遂げているので、副題にあるようにウイルスを研究することは人類の進化を知ることにつながるわけです。
著者のネイサン・ウルフはもともと中央アフリカで野生のチンパンジーを対象とした研究を計画していて、感染症の研究はその付随として始めたとのことですから、あの「銃・病原菌・鉄」の著者ジャレット・ダイヤモンドも研究仲間として登場します。人類の共通祖先と考えられるチンパンジーが、狩りをする能力を持っていたことにより、獲物となったサルが持っていたウイルスが種を超えて移動した出来事などは、とても興味をそそられる内容でした。
この本は、この先起こりうるパンデミック(感染症が世界的規模で流行することで、特定の地域や集団での流行はアウトブレイクという)の脅威は、想像しうる最悪の火山噴火やハリケーン、地震の脅威より大きいとして、それを予測、予防するための方策まで示しています。しかし、パンデミックの脅威を必要以上に煽るというような記述ではないため、著者の予防活動にも感心しましたが、微生物の知らざれる世界により惹かれました。人間の目に見えるか見えないかで判断される世界の何と狭いことか、またウイルスを有害なものとして見がちですが、多様性という物差しで見れば、ウイルスはどの生態系でも細菌がそこで支配的とならないような「独禁法の取締官」の役割を演じているということでしたので、これもあらたな知見でした。だいたい、人間の体を考えると細胞の数で言えば、約10パーセントが人間にすぎなくて、ほかの90パーセントは皮膚や腸内、口の中で繁殖する大量の細菌やウイルスで占められるという記述に多少なりともショックを受ける方が大半でしょう。微生物の世界は<新世界>であり、地球でまだ知られていない生命の最後のフロンティアという表現が印象強く残りました。
Posted by ブクログ
感染力と致死性が高いウイルスは、人間にとって脅威だ。この微生物は、一体どのようなものなのか?なぜパンデミックを引き起こすのか?気鋭の生物学者が、ウイルスの謎に迫る書籍。
ウイルスは、19世紀後半に発見された。ウイルスはラテン語で「毒」を意味し、既知の微生物の中で最小である。110年前に発見されたばかりなので、まだわからないことが多い。
ウイルスは、あらゆる細胞生命に宿っており、海にも陸にもどこにでもいる。その数は膨大で、海水1mlあたり2億5000万のウイルスがいた、との研究報告がある。
ウイルスは、既知の生物の中で最も頻繁に変異する。そして大量の子孫を作ることで、親よりも強い子どもが出てくるチャンスを増やす。それによって、新薬に勝つ可能性が高まり、種の異なる宿主に飛び移る能力も獲得しやすくなる。
SARS(重症急性呼吸器症候群)は、2003年に香港を訪れた中国・広東省の男性(スーパースプレッダー)から拡散した。香港の人口密度は高く、野生動物を食べる習慣のある広東省からの交通の便も良い。
このような、高い人口密度、野生動物などが持つ微生物との接触、効率的な交通網が重なる時、新しい病気が現れやすい。
現在の畜産は、大規模な飼育場に多くの家畜を詰めこむ形で行われている。この「工場畜産」は経済効率がいい反面、微生物に大きな影響を与え、パンデミックのリスクを高める。
これからはパンデミックの脅威がますます強くなる。これまで出会わなかった微生物同士が遭遇し、遺伝情報の組み換えが行われ、新しい病原微生物が生み出される可能性がある。
新しい感染症の波を予測し管理する方法を学ばなければ、私たちは手ひどく打ちのめされるだろう。
Posted by ブクログ
生まれ変わったら男がいい、女がいい。という話題を良く耳にするが、傲慢すぎる。生まれ変わったら、我々はほぼ100%微生物である。
そんな微生物の中でも特に小さいが、時にパンデミックを引き起こすウイルスについて、ウイルス研究の第一人者でもあり、世界各地の「新型ウイルスが発生しそうな場所」を巡り、パンデミックの兆候を常に調べている著者が書いたこの本。
私としては、無力以外の何者でもないので、ただ頑張って下さいと祈るぐらいしか出来ないのではあるが、もしもパンデミックが起こった場合に備え、正しい知識を持ち合わせておくために、この本を読んで損は無い。
Posted by ブクログ
まず著者Nathan Wolfe の圧倒的なバイタリティに敬服。スタンフォード大生物学教授という堅物そうな肩書きからは想像し難いが、ウィルスと人間の邂逅するフロンティアを求めて世界中の辺境を流転する冒険家なのだ。しかしその一方で、既存のネットワーク・インフラを駆使して世界規模のウィルス・モニタリングシステムを作り上げようと奮闘する夢想家でもある。
本書前半から中盤にかけては、人間の進化と生活様式の変遷に沿いつつ、さまざまな実例に触れながら、パンデミック - ウィルス感染症の爆発的流行 - が生じる素地がどのようにかたちづくられたかが語られる。終盤ではウィルスの便益的活用の可能性とともに、パンデミックの発生を如何に早期に感知するかが模索される。
個人的には、著者の思い描く「地球規模の免疫系」は素晴らしいと思う反面、いざこのシステムがワークしてパンデミック厳戒令が敷かれた場合に、我々の行動やコミュニケーションに課せられる制約はどこまでが許容されるのか、そして誰がそれをコントロールする権限を持つのか、が気になった。著者も述べているように、生活を維持するためにウィルスへの被爆の機会の多い行動を取らねばならない人々を責めることは難しいのだ。
ただ、そうは言ってもやはり本書の随所で指摘されるように、現代社会がパンデミックに対し脆弱であることは確か。やや繰り返しが多く読んでいて飽きる部分もあるが、日頃目にできないウィルスの世界の芳醇さが認識できるだけでも一読の価値ありといえる。