あらすじ
一九二八年にパリ近郊ポンティニーで行われた二つの講演をまとめた『時間論』(原文フランス語、九鬼の最初の著作)を中心に、九鬼周造の主要テーマの一つ「時間」に関する論考をまとめる。時間は可逆的か不可逆的か、時間はどのような構造をもったものなのかを明晰な論理をもって問う、九鬼独自の「永遠回帰」の思想。詳細な注解と解説を付す。
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Posted by ブクログ
先日読んだ論文集『人間と実存』が面白かったので早速これを買ってみた。
九鬼周造の「時間論」をテーマとした4編が収められている。最初のものはごくごく初期のもので、あまりおもしろくはなかった(「時間の観念と東洋における時間の反復」)。これは言語が仏語で、フランス留学中にパリで行った講演。
しかし時間論に関する基本線はこの最初期の頃からあまり変わっていない。横に一直線に、不可逆的に流れる西洋的時間に対して、東洋の輪廻説に見られるような時間軸の垂直方向への思考。ここに九鬼は東洋的「永遠」の契機を見る。
それはその後「永遠回帰」と呼称することになるが、九鬼周造のこの概念は「同一性」の永遠をうたうものであり、ニーチェの「永劫回帰」のような苦痛をもたらすものではない。
九鬼周造はベルクソンやハイデッガーを参照しており、そこに深まりはあるが、最終的な弁証法的解釈にはやや甘い感じを受ける。
本書の中では最後の「文学と形而上学」が面白かった。映画のような「時間芸術」の側面をもつ文学は、しかしながら結局は「重層的な時間」をしめしているという思想。
これから音楽に関して「時間」を探究してみようと思っている私にとっては、参考になった。
「音楽が音の知覚そのものとして時間的には単層性を示すに反して、文学は言語によって観念的時間を産むことにおいて時間の重層性構成するのである。」(P172)
さてそのように対比される音楽の時間とは、本当にそんな単純なものであろうか。それは私が自分で考えていかなければならない。