あらすじ
現実と非現実の交錯を描く芥川賞受賞作。石に異常な執着を示す男の人生。長男の死、妻の狂気、次男の学生運動、夢と現実の交錯のなかで描かれる奥泉光の芥川賞受賞作。他に「浪漫的な行軍の記録」所収――太平洋戦争末期、レイテで、真名瀬は石に魅せられる。戦後も、石に対する執着は、異常にも思えるほど続くが、やがて、子供たちは死に弄ばれ、妻は狂気に向かう。現実と非現実が交錯する、芥川賞受賞作「石の来歴」。兵士たちの、いつ終わるとも知れぬ時空を超えた進軍、極限状況の中でみたものは……。帝国陸軍兵士の夢と現を描く、渾身の力作、「浪漫的な行軍の記録」所収。
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Posted by ブクログ
『浪漫的な行軍の記録』は南方の戦線で孤立無援になった日本軍兵士の行軍の記録だ。とはいっても著者は戦後の生まれのなので、もちろん体験談とは一線を画す。
主人公は弾の出ない大砲(故障ではなく張りぼての大砲。もともと出ない)を上官の理不尽な命令により運び続けなければならない。大砲の名は「国体の精華」…なんと皮肉に満ちた名前だろう。『悪魔の辞典』に載せたいくらいだ。
夢と現を行ったり来たりする描写が、「奥泉さん、またこんな書き方で煙に巻こうとして」と突っ込みたくなる。収束させる気があるのかいつも疑う。でもそこが面白い。
扱っている内容は重いので、もしかしたらもっと深い読み方があるのかもしれないが、たぶんない。笑ってしまう表現が随所にみられる。
「浪漫的」という言葉が冒頭にくるのだから、全体主義的なイデオロギーへの痛烈な皮肉として、こういった物語の手法をとったのだと思う。
戦争文学ととらえるとふざけ過ぎているので、あくまでテーマを表現するのに題材として戦争が適していたと考えて読んだ方がいい。
(『石の来歴』は別レビューで)