あらすじ
川端康成文学賞受賞作を含む秀逸な短編7編。
「もう来たらあかんよ。ほんまに来イへんな」
昭和11年、大阪の置屋で出会った若い娼婦は、男が深みにはまってしまいかねない魔性を秘めており、実際に6人の男が破滅に追いやられていた。〈私〉ももうしばらく一緒にいたいと願うが――。
和歌山、大阪をめぐる旅に出た男が40年前の一夜の記憶を辿っていく「なぎの葉考」のほか、70代の老夫婦が重い病気を抱えながら命を長らえていることにささやかな幸福を感じる「しあわせ」、〈私〉と確執のある父とその2番目の妻、子が入水自殺してしまう「耳のなかの風の声」など全7篇を収録した名作短編集。
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Posted by ブクログ
紀伊白浜へ再訪の旅をする著者は、現在から40年以上前の2.26事件のあった昭和11年、新宮、浮島遊廓で一人の娼婦とひと時を共にする。その女の体に自分の肉体にぴったり合う感触を覚えた作者は、一時間伸ばし、さらにもう一度伸ばそうとするが、女から、自分に溺れた男が何人も身を持ち崩した、「もう来たらあかんよ。ほんまに、来イへんな」と涙ながらに約束をさせられる。遠い昔を思いながらの追憶の旅を綴る『なぎの葉考』。
待合の女将や芸者の悲哀人生の一断面を描く『新芽ひかげ』や『老妓供養』、早いうちから離婚した両親と共に暮らしたことのほとんどなかった作者が、母について語った『石蹴り』、父について語った『耳の中の風の声』、70を超えた老夫婦がお互い病魔を抱え病院付き合いをする日常を描いた『しあわせ』など、戦前の作から最晩年1990年の作品、7編が収められている。
最後までしっくりいかなかった父が、2番目の妻と末子を道連れに無理心中した顛末を描いた『耳の中の…』を除けば、各作品ドラマティックな展開はほとんどないものの、読後しみじみとした気持ちが喚起される。