あらすじ
第12回日経小説大賞(選考委員:辻原登氏・髙樹のぶ子氏・伊集院静氏)受賞!
鎌倉幕府滅亡から建武の新政へ。人が生きる甲斐のある世をつくる――後醍醐帝と志を同じくする楠木正成と足利尊氏。三人はその志をかなえるためにともに戦い、志をゆがめぬために敵味方に分かれた。やがて南北朝の動乱を経て、室町幕府による武家政権に移る混沌とした世の人間ドラマを、最新の研究成果も取り込みながら描き、まったく新しい足利尊氏、楠木正成、そして後醍醐帝を造形。選考会では確かな歴史考察と文章の安定感、潔いまっすぐな作柄が評価された、歴史小説期待の新鋭の登場だ。
「利生」とは「《「利益衆生」の意》仏語。仏・菩薩が衆生に利益を与えること。また、その利益」(大辞苑)。本作では「上下の別なく、民が国を想う志を持ち寄って各々の本分を為せば、きっと日本は悟りの国になれる」と後醍醐帝と尊氏、正成は理想の世にかかげる。
<あらすじ>
時は鎌倉末期。討幕の動きが発覚し後醍醐天皇は隠岐に流されるが、幕政への不満から、治世の主体を朝廷に取り返すという近臣たちの討幕運動は幕府内にも広がっていく。幕府の重職にあった足利高氏(尊氏)が、帝方の楠木正成に呼応するように寝返り、鎌倉幕府は滅亡。後醍醐帝が京に戻り、建武の新政がはじまる。
しかし、武家も公家も私利私欲がうごめく腐敗した政治は変わらず、帝の志を実現しようと心をひとつにする尊氏と正成の運命は、陰謀に翻弄され、引き裂かれていく。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
【「利生とはなんでしょうか」-「衆生に神仏の利益をもたらすことと申します」】(文中より引用)
後醍醐天皇、楠木正成、足利尊氏の3名を軸としながら、動乱の世とそれぞれの身の処し方を描く歴史小説。著者は、本作で日経小説大賞を受賞した天津佳之。
時代を切り開いた人物であるにもかかわらず、足利尊氏ってどこか明確なイメージを結びづらい人物だなと感じていたのですが、本書を読んでその理由が那辺にあるかつかめたような気がしました。
後醍醐天皇ってやっぱり異能の人だったんだなと☆5つ
Posted by ブクログ
太平記など南北朝時代を書いた名作は数多くありますが、この本はそれらに勝るとも劣らないと言えるでしょう。
足利尊氏、楠木正成、後醍醐帝らをこれほどうまく的確に表現したのはありません。
皆が明日の皆を生かすために役割を果たすのです。
Posted by ブクログ
足利尊氏と楠木正成、後醍醐天皇の日本をよくするためにそれぞれ三者三様の行動が興味深く、思ったようにいかないなぁと思いながら読みました。簡単に主君を裏切る様が面白く、わずかながら3人の人物について理解が深まり勉強にもなりました。
Posted by ブクログ
以前、こども版「日本の歴史」で、この時代のものは読んだことはあったのですが、改めて、楠木正成・足利尊氏の復習という思いもあって読んでみました。
後醍醐天皇が隠岐から出てからとは言え、1冊にまとめるのは大変だっただろうと思います。後醍醐天皇が理想を追い、正成と尊氏も「利生」という点で一致して、気持ちの上では通じ合っていたという「建付け」です(ただ、ここは「そうなのかな~」と少々疑問でした)。尊氏も、とても良い感じで描かれています。
戦闘シーンもありますが、オドロオドロシイところはなく、全体を通して文章がとても綺麗です。最後の「終 利生」では、湊川の戦い以降を淡々と書いていますが、ここのおかげもあって読後は清涼感ありです。楠木正成を知っている人はドンドン減っていくのかと思うと、改めて読み返してほしい1冊です。
Posted by ブクログ
あまりの難しさに、一度は断念しましたが、「極楽征夷大将軍」を読んだ後に、・・読めるかも・・と読み始めたら、読めちゃいました。
尊氏と正成の描き方の違いなんかを比べながら、興味深く読めました。
正成の、そこまで後醍醐天皇に忠誠する気持ちが、理解できませんでしたが、志を同じくする人たちが戦い合わなければいけない、そんな時代の哀しい思いがあふれている気がしました。
Posted by ブクログ
物語の構造として、主従や善悪がわかりやすいものが普通は好まれる。そういう意味では非常に描きづらい時代を敢えて選んで描いていく筆者の技術は卓越している。また、起こったとされた史実を「利生」という一つのテーマで物語にしてしまう着眼点は見事である。混沌の世の中に、人は何故生きるのか?という問いに対する筆者なりの答えとメッセージを託した作品と受け取った。それが故に単純明快を望む人には読みづらい点もあるだろう。