あらすじ
ヒトによる適度で多様な自然の利用と管理によって維持され、多様な生きものたちを育んできた豊かな「さとやま」。なぜいま消滅の危機にさられているのでしょう。古代遺跡や万葉集をたどりながら人類誕生からその成立の過程を考え、再生の試みを紹介。さとやまの現在・過去・未来を描きます。
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Posted by ブクログ
さとやま――生物多様性と生態系模様。鷲谷いづみ先生の著書。里山の実態、里山の衰退と崩壊によって絶滅の危機にある動植物の存在、生物多様性の大切さが理解できる良書。自分勝手で身勝手であたかも地球の支配者のような振る舞いをしている人類の横暴によって他の生物、動植物を絶滅させるようなことがあってはならない。中学生や高校生を含めた学生向けに里山や生物多様性の大切さをわかりやすく伝えているけれど、年齢に関係なく大人も子供も読む価値がある一冊。
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鷲谷さんの本としては2冊目に読んだ。本書もやっぱり,「安曇野ちひろ美術館」の売店で購入。本書が出版されたのは2011年で,ちょうど,東日本大震災が起きたときだ。日本社会が現在の経済活動を優先してきたことのしっぺ返しがいっぺんに出てきたのが,この震災だった。本書は,そうなる前にやることがあるだろう…という提案だったのだが,間に合わなかったのだ。
あれから10数年経って,日本はまた,〈今さえ良ければいい経済〉に逆戻りしているようで,寂しい。
本書の内容だが,生物多様性や生態系サービス,SATAYAMAイニシアチブといった言葉について,中学生にもわかりやすく述べられている。これらの言葉は,現役時代にも少しだけ耳にした言葉だったけれども,この本を読んでおけば,もっと自分の授業にも生かせたかもしれないなと,今更ながら反省。
ただ,ここに書かれていることは,今後の能登半島のあり方にも大いに関係するし,わたしの所属しているNPOが行っていることも,まさに,里山の再生に向けての活動に他ならない。
子どもや大人向けに「生物多様性の持続可能な利用」についての学習の機会を与えること…それは,座学だけではなく里山での体験活動も含んでいる…を目的に,これからの少しずつ「できること」をやり続けていきたいと思う。
Posted by ブクログ
この本は、日本学術会議が、中学生にも理解できる水準と優しい表現で、最先端の学術情報を提供しようという意図で出版している岩波ジュニア新書の中の、<知の航海>というシリーズの1冊。ジュニア向けとはいえ、使われている用語は専門的で、私にとってはどちらかと言えば学術的な内容と言える。
衰退の危機にさらされている「さとやま」を様々な角度から眺めることにより、人類の起源からその進化の過程において、生活や文化と密接に結びついた必需品の供給地として、大変重要な役割を果たしてきたことがわかる。とはいえ、「かつては普通にみられたのに、今は絶滅危惧種となっている生物が多く生息・生育する場所」というシニカルな表現は、さとやまが今日いかに危うい状況にあるかを、残念ながら見事に言い得ているといえよう。そうした状況下ではあるが、最終章において、持続可能な保全や再生へ向けての国内外の取り組みも紹介されている。どちらかといえば地道なこうした活動が、各地に広がっていくと同時に、今後も確実に続いていくことを願わずにはいられない。
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ジュニア新書なので、さらっと流すつもりで読み始めたが、とても充実した内容だった。水田が両生類やトンボ類に理想的な生息環境を与えていることや、洪水時の遊水池として機能することなど、日本人にとっての原風景ともいえる里山が自然環境との共生システムとして機能していたことがよく見えてくる。また、冬季も水田に水を張る「ふゆみずたんぼ」の取り組みによって水鳥が利用できるようになり、除草効果や施肥効果も得られるようになったという事例も興味深い。
日本学術会議との共同企画である「知の航海シリーズ」としてジュニア新書となったらしいが、読後感は岩波新書としてより多くの人に読んで欲しかったと思う気持ちが強かった。
・動物に食べられるのを防ぐ作用を持つアルカロイドやプリミンを含む植物がある。シカが増え過ぎている奥日光では、シカが食べないイケマが繁茂し、幼虫が食べるアサギマダラが乱舞する森や、サクラソウ属のクリンソウが増えている森も見られる。
・地下水が停滞する樹木が育ちにくい場所では、ヨシ原やスゲ原などの草原、スゲ類やミズゴケが主体の湿原が発達する。それよりも乾いた場所にはオギ原、さらに乾いた場所にはススキやササが発達する。
・水田のまわりの灌漑用のため池や水路、樹林や草原といった水と樹林の組み合わせは、両生類やトンボ類の理想的な生息地。日本列島には、61種類の両生類、200種近いトンボ類が生息している。近代になって、水田の中干しの時期が早まったことや、収穫後の乾田化によって全滅することが起きている。
・スウェーデンのロックストロームの研究チームが2009年にネイチャー誌に発表した結果によると、人為的な気候変動、生物多様性の損失、窒素循環の改変の3つはすでに「安全圏」から逸脱しており、逸脱の程度は生物多様性の損失が最も大きい。
・宮城県大崎市の蕪栗沼を治水のために掘削する計画が持ち上がったことをきっかけに、近隣の白鳥地区で耕作放棄されていた水田を遊水池とするために湿地に戻した。また、冬季の耕作水田に水を張る「ふゆみずたんぼ」によって水鳥が利用できるようになり、除草効果や施肥効果もあることがわかった。
Posted by ブクログ
気になった点2つ
・アリー効果について復習しようと思ったこと
・愛知目標という生物多様性に関する目標が2010〜2020に掲げられており、その達成率はわずか10%に収まるということ
Posted by ブクログ
著者の視点から日本の”里山”とはどういったものなのかを纏めてくれている一冊。大人の私が「難しいけどなるほど~」といった感覚で読んでいたものの出版社の解説をみると本書はどうやら中学生向けらしかった...。
印象に残ったのは「野」、「牧」という土地の概念、あまり知らず考えたこともなかったのですが現代でいえば公園や市街地といったものと同類レベルの位置付けで存在していたと思うと面白いなあ。
ともあれ里山の良し悪しは実際に身を置いて生活しないとわかりっこなく、一度きりの人生、まずは住んでみて、色々知って感じたい気持ちでありましょうか...。(里山はすこし憧れでそういった環境下に一度住んでみたかったり。)