あらすじ
野生の木苺を食べたことがきっかけで、男爵の心と体が二重の感覚に支配されていく「木苺のなかの魂」、〈真実の口〉ドン・ペッピーノの忠義心が試練の数々に直面する寓話風の「三匹のカタツムリ」ほか、世紀をまたいで魅力が見直される9作家の、粒ぞろいの知られざる傑作を収録。全9作、本邦初訳。
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Posted by ブクログ
タイトルの通りに全て作者の異なる9作品を収録しているのですが、どの作品も面白くて、かなり充実したアンソロジーでした。
以下、特に気に入った作品の感想を記します。
「木苺のなかの魂」
男爵が見た目はそのまま急に乙女になってみんなが戸惑うというお話で、幽霊ものではあるのだけど少しコミカルな感じもあってこのパターンは昔から定番なんですね。
書き出しのところの、人から聞いた話だけど、仮にKとするみたいな感じのパターンも定番ですよね。
「ファ・ゴア・ニの幽霊」
これが一番好き。
ある人物の命と引き換えに幸福を手に入れた主人公の前にその人物の霊が現れるお話。
何がすごいって、このタイトルになっている名前の人物が日本人っていう設定。京都に住むこの日本人はシヴァ神に祈っちゃうし、登場する日本人の名前がみんな変だし、異国情緒あふれる不思議の国という扱いもここまではちゃめちゃだと面白いです。まさか作者も150年後に日本語に翻訳されるとは思ってなかったんだろうな。
今の時代こんな書き方をするとクレーム殺到だろうけど、創作は自由にイマジネーションを働かせて良いものなんだというのをすごく感じました。
「黒のビショップ」
白人と黒人によるチェスの勝負が人種を代表する争いとなり狂気を呼んでいく様子がスリリングに描かれていて面白かったです。チェスの駒が人の形を模しているからこその展開で将棋だとこうはならないよなとか思って読んでました。
「夢遊病の一症例」
ベルギーの警察官が夢遊病状態で真夜中に書いた手記がとある事件を解決する鍵となるというお話。
夢遊病の状態で犯罪を犯すのかなと思いきや、逆だったので、結構面白く読みました。主人公の症例を記した手記を紹介するという構成も面白かったです。
「未来世紀に関する哲学的物語
西暦二二二二年、世界の終末前夜まで」
23世紀に書かれたという設定で、19世紀末から23世紀までの人類の歴史を語っていくお話。
未来予測で全ての民族が初めて一堂に会する会議が21世紀の終わり頃に開かれるのだけど、アジア、アメリカ、ヨーロッパだけなところに作品が書かれた時代を感じました。
ロボットが実用化されるのが22世紀で、科学技術の発展に関しては割と実際の歴史と近い予測になってるのが面白い。
最後、いろいろなことを乗り越えて平和と退屈を手に入れた人類は、やることがなくなり、無気力になり、衰えていくという終わり方にいろいろなことを考えさせられました。