あらすじ
人間の生のいとなみは、いかに脆いものか。微妙な心理の揺曳をすくいあげる短編傑作選。永遠の生命を求め現実を照射する――生死の極限に立たされたとき、人間は何を観るか。たゆたう心の奥底から、日常生活では把みえぬ真実の相貌が、少しずつ浮かびあがるにつれ、生のしたたかさにおののく。沖縄での戦争体験を語る神父の懊悩と回心を描く表題作から、戦争・病い・孤独な老境など、それぞれの裸にむかれた人間の内面を描く12編。
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Posted by ブクログ
短編集。裕福ながら冷めた老夫婦、戦争の思い出話をする老人が多く、細やかな心理描写はあるものの大きな展開がないので段々どれも似たような話に思えてきてしまい最後は少し飽きた。一つ一つの話自体の繊細さ、余韻はすごいと思うのだけど。一日一篇くらいで読むのがいい小説だったかもしれない。
世代がかなり離れている上に自分は貧乏育ちだったので、作中の裕福な家庭の戦後の暮らしや上品なお付き合い、差し挟まれる古典教養はなんだかおとぎ話みたいにふわふわして見える。話の中に灰汁のように浮かんでくる人間の欲や嫌らしさはとても生々しいのに乖離した感じがまったく無いのは、やはり作者自身の育ちの良さに裏打ちされた設定だからなのだろう。
夫の友人である牧師があっけらかんと「僕たちは虫けらのようにこの土地に湧いて来て、虫けらのようにどこかで死んで行く。それでいいんでしょう」と語る「河岸郡棲」が面白かった。