【感想・ネタバレ】ルポ「命の選別」 誰が弱者を切り捨てるのか?のレビュー

あらすじ

本書は毎日新聞のキャンペーン報道「優生社会を問う」をベースに、
担当した2人の記者が書き下ろしたものです。

旧優生保護法が改正されて四半世紀近くが過ぎましたが、
障害者への社会の理解は深まったのでしょうか?
障害者を取り巻く環境は改善されたのでしょうか?

新型出生前診断(NIPT)が拡大するのを利用した数多のクリニックの「検査ビジネス」は急成長中で、
「不安ビジネス」として社会問題化しています。
障害者施設が建設される際、いまだに周辺住民の反対運動が、最初の大きな壁となります。
そして、実の親による障害児の社会的入院、治療拒否……。

障害者入所施設・津久井やまゆり園(相模原市)での大量殺人が世間を震撼させている今日、
いまだ弱者が切り捨てられるわが国の現状を検証します。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

出生前診断、障害者入所施設建設、社会的入院や治療拒否、ゲノム編集と受精卵診断、相模原殺傷事件と優生思想、遺伝差別、コロナによるパンデミックが起きたことから考える総障害化という分岐点。など様々な「命の選別」が起きている、起きてきたであろう状況からむしろ現代は優生社会化しているのではないかと世に問う一冊

第1章出生前診断に関する章の中で、病気や障害を理由にした選択的中絶についての統計が取られていないということが書かれていて驚いた。あえて取っていないのだろうなと思われた。p52「現状を直視せず、タブー視して議論しないことが一番問題です」その後のどの章の問題についても言えることだと思う。

第2章障害者入所施設建設を反対する住民問題というのも今でもどこででもあるのだろうと思う。
p122ピンチをチャンスに変えてきた
そういう熱意ある関係者の努力や思いで支えられていて、行政や周囲の地域が及び腰になっているところもまだたくさんあるのだろうなとも。
関心がなく知りたくもないという人たちに理解を求めるのは本当に骨が折れるし心も折れそうになることだろう。p125いつかは自分のこと、とはなかなか思えない人のほうが多いのは現実だ。

この章の中では、福祉経験のない不動産業者などが障害者入所施設運営に参入する事例が増えていることがあげられているが、自分も「障害者入所施設に投資しませんか」という不動産業者などの広告を最近よく見ることが増えていて、不穏だなというか不信感を感じることが増えた。今後もそういう業者が増えそうで懸念事項だなと思った。
福祉は金になる、という文言を見たこともあり、出生前診断のところでも診断後のフォローのない医療関係機関の金儲け主義が問題としてでていたが、国にはこういうところへの監視やチェック、対応もきちんとしてもらいたいと思う。

第6章p245重度知的障害がある息子さんがいらっしゃる大学教授の話には胸が詰まった。p262の親御さんの話にも。
施設へ入所させる親や家族はそれが必ずしも最良と思ってしているわけでもないし手が離れたと喜んだり安心したりできるわけでもない。
p263相次ぐ障害者虐待 にあるような事例や問題が起こったあとの検証の突然の終了や隠蔽など少なからず起きていることを知れば、懸念事項として言わなくても自分の子供や肉親も同じ目に遭っては居ないかと頭の隅にある入所者家族はかなり多いのではないだろうか。

p274にあるように、施設関係者にとっては入所者の安全のためと疑いなくしていた処遇が、虐待に当たると認定されるようなことは実は少なくないのかもしれない。(一生懸命対処している現場の職員の人たちがこれで心折れたりしなければ良いなと懸念する)現実的にはグレーなことが多く判断が難しい状況もたくさんあるように思う。
制御の難しい行動障害があったり、重度で処置に手間がかかったり、より人手が必要だったりする人ほど入所しづらくなっている現実にはその辺りの状況を避けたい関係者の考えもあるのかなという気もする。

最終章で乙武さんが言っていたことにとても考えさせられる。考えがまだまだ及んでいないところがたくさんあるんだなと思い知らされた。
2020年出版の本だが、むしろこれから読まれて欲しい一冊だと思う。

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2025年02月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

優生思想をめぐる近年の主な出来事を取材した内容である。
障がい者施設の設立反対運動は明らかな差別であるから、間違いであり到底共感できないが、その他の事案については、自分の立場が違えばどう考えるだろうか。特に自分が遺伝病を持っていて子どもに受け継いでしまう可能性が高い場合などは。
やまゆり園の施設内の実態は目に浮かぶようであった。精神科病院や高齢者施設でも同じようなことを目にしている。管理者の責任は大きいと思う。
技術が発達すればするほど、使う人間の品格が問われるのだと思った。技術革新や拡がりを妨げることはできないだろうが、海外ではOKなのにという安易な考えはやめたい。現在進行形な規制などと並行して、(この問題に限ったことではないが)子どもたちへ考えさせる教育をしていくことが、誰もが暮らしやすい世界につながるのではないか。

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2022年03月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この本の前に読んだ出生前診断より個人的な思想や意見は示されていなかったので、より考えさせらた。優生思想=悪、そう思っていたけど、その裏側には多くのしがらみが存在していた。でもやはり、論理として成り立っていると決めてしまったら人間社会というものが崩壊すると思う。マジョリティがいつも正しいとは限らない、優先されるべきでもない。でも私はマジョリティの中にいて、マイノリティの世界に気付けない。いつもマイノリティの中に放り込まれた時にようやく社会の生きづらさに気付く。人は当事者にならないと何もわからない。経験がモノを言う。

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2021年04月16日

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