あらすじ
東京でのドブ浚いの仕事中の事故をきっかけに故郷へと戻ったクザーノは、砂漠のむこうの幻の町へ旅立った――回帰する灼熱の旅が、一族の風景を映し出す。第57回文藝賞受賞の一大叙事詩。
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Posted by ブクログ
東京で失敗して故郷の町に戻ってきたクザーノがらくだのカサンドルとともに砂漠へと旅立ったのは、「東京から運んできた悲しい水分を全部蒸発させる」ためだった。やがてたどり着いた町で新たな暮らしを始めるクザーノを中心に、ホヨー、ラモン、クザーノ、コイーバ、ロメオ(すべて葉巻の銘柄)の5代にわたる父と子の系譜。日本であり日本でないふしぎな世界で彼らが生き見た景色が、差異と反復の語りによって何度も塗りなおされていく。マジックリアリズムのゲーム的な焼き直しのようにも読めて評価が割れそうだけど、個人的には楽しく読めた。
【メモ】
・読み始めてしばらく、クザーノはニコラウス・クザーヌスにちなんでいるのかなと想像していた。
・変幻自在なキャラとしてくり返し登場しなおす甲一の存在がおもしろい。クザーノ(たち)を旅へと駆り立てる甲一のあり様は、人間を善へと導く神話的な人物のようにも思える。
・簡潔で歯切れのよい短文のつらなりにヘミングウェイっぽさを感じていたら、まさに『老人と海』への言及があった。サンチャゴの度胸とはまた別の、ホヨーによって生きられた男らしさの物語。
・町の人々とちがって、外から来た人間は「やろうと思えば、何ものも捨てられる人間」という指摘にハッとした。
・「人と人を繫ぐのは旅」という台詞に、ティム・インゴルドの『ラインズ』をふと思い出した。『ラインズ』また読みたいな。