【感想・ネタバレ】イエスの意味はイエス、それから…のレビュー

あらすじ

#MeToo運動が起きたことで、いろいろなことが明らかになった。個人的な出来事だとされてきたことが、そうではなかったことがわかった。暴力と見なされていなかったことが暴力だと認識されるようになってきた。セクハラを受けた側が居場所を失い、声を上げたことで社会の期待を裏切る存在となる。加害者の言うことが信用され、被害者の言うことは思い込みとされる。この論理のすり替えはなぜ起きるのだろう。著者エムケは系統だって論じるのではなく、つぶやくように、自問自答するように、暴力とそれが見過ごされるメカニズムを掘り下げていく。子供の頃に言われた言葉、職場での出来事、友人の家で起きたこと……違和感とともに記憶の彼方にあった出来事の意味が明らかになっていく。私たちは、そう思わされているように、無力でも孤立してもいない。暴力を支える仕組みを問い直し、私たちのものの見方、言葉、イメージ、その共有のしかたをひとつひとつ考え、小さな声で世界を変えていく一冊。

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Posted by ブクログ

旧西ドイツに生まれた著者、カロリン・エムケは、日本ではまだメジャーではないジャーナリストだ。
現在は議論の場を設けたり、幅広いテーマで著作活動を行なっており、精力的な活動を行なっているという。
彼女、そして本書に出会えたことは、大変良い出会いであった。

日々、私には何ができるのだろう、とか、なんとなくの違和感とか、不快とは言えないけれど、モヤっとすることがある。
それは会社での会話だったり、新聞の投書だったり色々なのだが、こんなことが一例としてあげられる。
ある日の新聞のオピニオン欄で、女性の生理用品を買えないことについて、識者や読者の意見が載っていた。
読者である年配の男性は、たかが数百円のものが買えないなんておかしい、生活を見直せ、という意見を述べた。
その意見は、この事を矮小化しているように感じた。
そんな意見を読んで感じたモヤモヤを、本書の一節が私の思いを端的に言い表した。
「他者の体験に耳を傾けること。彼らの話を、自身では一度も体験したことがないというだけの理由で、即座に「あり得ない」と否定しないこと。」(62~63頁)
例の投書の男性を責めるつもりはないが、どうか即座に否定せず、想像力と、聴く姿勢は持って欲しい。

著者はこうも述べる。
「多様な関係性を常に自覚」することを大切にし(68頁)、「尊重は、誰にも与えられてしかるべきもの」(91頁)だと。
私たちは互いに尊重しあい、自分自身の事も尊重していい。
誰かの価値観で自分を縛らなくていい。
私の価値をなぜ、他人が決めるのか?
相手の思い込みで「私」を取るに足らないもの、なんて思う必要はないのだ。

じわりじわりと響いてくる著者の言葉は、地下水脈のように私を潤す。

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2021年06月13日

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