あらすじ
網の中(インターネット)にひそむ悪魔をあぶり出せ!
『13・67』の著者、渾身の勝負作
自宅アパートの22階から飛び降り自殺した女子中学生シウマン。
彼女は通学電車の中で痴漢事件に巻き込まれ、犯人と目された男の甥からインターネット上で攻撃を受けていた。
ネットの誹謗中傷が彼女を死に追いやったのか?
自分の知らない世界で妹を脅かすどす黒い悪意の存在を知った姉のアイは、変わり者だがネット専門の凄腕探偵・アニエを説得し捜査を依頼した。
だが、アニエの調査の結果、次々に意外な事実が判明し、事態は混沌としていく――。
貧富の格差著しい香港を舞台に、ネットリンチや痴漢冤罪やダークウェブなどなど、我々日本人も同じように抱える社会問題を背景に、現代社会における人間の善悪を問う。
前作『13・67』で香港の現代史を俯瞰した著者が〈いま現在の〉香港の光と影を描き切った、華文ミステリーの最高峰!
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
果たさなかった復讐の果て、死んだ妹の「本当の姿」に出会う姉の物語。ギリシャ神話の復讐神ネメシスの名を冠する、復讐代行ハッカー「アニエ」が、とにかくかっこよかった。
現代の香港、広州から香港への移民三世にあたる「アイ」は、相次いで父と母を失い、妹の「シウマン」と二人、公営住宅で暮らしていた。しかし、妹のシウマンは、地下鉄での痴漢被害がきっかけとなったネット掲示板への書き込みにより、自殺してしまう。妹を死に追いやったネット虐めの犯人を見つけ出すため、「アイ」は、裏稼業の探偵ハッカー「アニエ」に、犯人の捜索を依頼する。
いわゆる義賊モノで、「アニエ」が、その犯罪を暴き、復讐という私刑の形で罰を与える人々は、法では裁くことのできない、あるいは、裁いたとしても、軽い罰則で揺らされてしまう人々である。著者自身もあとがきで語っているように、違法なやり方ではありながらも、正義を実行する「アニエ」には、アルセーヌ・ルパンのイメージが重ねられているようだ。
何よりも印象的なのは、やはり「アイ」が妹の「シウマン」が生前にfacebookへと書き残した言葉を読むシーンだった。「妹のため」に犯人への復讐を果たすことだけを生きがいに、ついに犯人を自殺させる寸前まで追い込んだところで、「アイ」は、それまで知ることのなかった妹の本心をそこに見ることになる。
「どうして『妹の敵』なんだ? 『あんたの復讐』だろ。あんたは家族を失った苦しみから、その怒りをぶつける対象を見つけて憂さ晴らしをしたいだけなんじゃないか。妹さんにその責任を押しつけるな。妹さんの敵は、『あんたの復讐』だ。あんたの妹さんはもういない。なのにどうして、あんたは妹さんが『敵を討って』もらいたがっていると思うんだ? 死人に口なしだからって、そいつはあまりに虫がよすぎるんじゃないかね」(p456)
「アニエ」の言葉は辛辣だ。「誰かのため」は、いつでも「自分のため」というエゴのカモフラージュになる。「アイ」は、「妹のため」に敵を討とうとしたが、妹の思いは別にあった。
「その自撮り写真は、左側のほとんどをシウマンの顔が占めていて、右側には、バスルームから出てきたのか、タオルで髪を拭っている女性の姿がある。それは紛れもないアイ自身だった。アイの隣には夕食の準備をしている母がいる。二人はお喋りに夢中で、シウマンが隠し撮りをしていることに気がついていないようだった。」(p472)
ほとんどのデータが削除された、自殺した妹「シウマン」のスマホに残された二枚の写真のうち一枚は、おそらく好意を寄せていたのであろう友達とのツーショット。そして、もう一枚は、姉と母に気が付かれないように撮られた家族三人の「家族写真」だった。
「アイ」は、その写真とfacebookに残された遺言を読んで、初めて妹が何を思い、何を望んでいたのかを知ることになる。突きつけられたのは、一番身近にいたはずの妹に対する、自分自身の無知だった。
「アニエ」は、高度なコンピュータ技術を駆使し、他人のデバイスをハッキングし、ネット上から個人情報を奪いだしていく。インターネットに残された個人の足跡は、一人ひとりの、現実以上に現実な姿を、ときに死人の生前の姿さえも留めている。
それらは、誰に向けてあるのだろうか。少なくとも、「シウマン」のfacebookは偽名であり、「アニエ」が「アイ」に見せなければ、誰の目に触れることもなかったであろう心の内だった。
誰にも向けられていない言葉。インターネットには、そういう言葉が溢れかえっていることを思う作品だった。
Posted by ブクログ
ネット上で中傷され、自殺した妹。
姉とハッカーでもある探偵が、その中傷者を追い詰めていく。
事件自体、家庭環境も含め、暗いが、徐々に犯人に迫っていくのは面白かった。
シリーズ化の予定とのことで次回作に期待。