あらすじ
「ビル・ゲイツは2012年に『イノベーションがこれまでにないペースで次々に出現しているというのに‥…アメリカ人は将来についてますます悲観的になっている』と指摘し、これは現代のパラドックスだと語った。(本書序章から)
「仕事の半分が消える」――2013年、オックスフォード大学の同僚マイケル・オズボーンとの共同論文「雇用の未来ーー仕事はどこまでコンピュータ化の影響を受けるのか」で世界的な議論を巻き起こしたカール・B・フレイによるテクノロジー文明史。 フレイによるテクノロジーの観点から見た人類の歴史はこうだ。新石器時代から長く続いた「大停滞」の時代を経て、アジアなど他地域に先駆けて、蒸気機関の発明を転機としてイギリスで産業革命が起きる。「大分岐」の時代である。労働分配率が低下する労働者受難時代であり、機械打ち毀しのラッダイト運動が起きる。
その後、電気の発明によるアメリカを中心とした第二次産業革命が起き、労働者の暮らしが劇的に良くなる格差縮小の「大平等」の時代がやってきた。テクノロジーと人間の蜜月時代だ。 ところが工場やオフィスへのコンピュータの導入を契機に、格差が拡大する「大反転」の時代に入る。さらにAIによる自動化が人間の労働に取って換わることが予想される今後、人類の運命はどうなってしまうのか。著者フレイは膨大なテクノロジーと人間に関する歴史研究を渉猟し、「ラッダイト運動」再来の可能性もある、と警告する。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
まさに「自動化」の渦中にある現代テクノロジーにおいて「人々の仕事は機械に奪われてしまうのか?」「社会経済は、人々は、どうなってしまうのか?」という大問に、真正面から対峙した重厚な一冊。
古くは先史時代から技術革新の歴史を顧みながら、特に近代以降の大変革ーーイギリス産業革命並びに第二次産業革命ーーを敷衍し、これらがいかにして起こり、特に労働者に対してどのような影響を与えたのかについて考察を重ねていく。またこれらの決定因子として、2つの労働の型ーー「労働置換型」と「労働補完型」ーーを提示し、補助線とすることで、難題を柔らかく解きほぐしていく。
著者曰く、特にブルーカラーで起きている自動化はまさに「労働置換型」であり、これはかつてない規模で広範に起きていくということ。そして「労働補完型」のテクノロジーを活用する者のみが富む世界が、目前まで迫っているということ。
これらを整理した上で、終盤では特にアメリカ社会にフォーカスし、現在進行形で起きている格差の拡大、中流階級の喪失およびポピュリズムの台頭といった地殻変動へ論展開しながら、解決策を教育、"戦略的"BI、インフラ、住居規制等に求めていく。
日本社会でも同様に起き始めている世界的な構造変化であるだけに、世界最先端の論者の思考に触れることができて、月並みだけどものすごく勉強になりました。
Posted by ブクログ
民主主義社会である以上、テクノロジーの進退は大衆がその恩恵を享受できるかどうかによって、ゆっくりと決まっていく。
蒸気や電気など、汎用的な過去のテクノロジーは発明されてから広く受け入れられるようになるまで時間がかかった。
また、受容されてから大衆にそのメリットが及ぼされるには数世代の時間がかかる。
人々はテクノロジーのメリットを短期的には過大評価し、長期的には過小評価する。
キーワード:資本家、国家、政府、労働者、中流階級
鉄、鉄道、蒸気、自動車、電力の発明
Posted by ブクログ
しばらく前に、会議で投げかけられた「テクノロジーは人を幸せにするのだろうか」という問いがずっと頭にあった。私たちは何の問いを解こうとしているのだろう。
未来を考えるために過去を知る。かなり分厚いけど、かなり面白かった。
Posted by ブクログ
機械が登場して仕事を追われた職人が暴動を起こし、便利になるはずの機械を破壊する。結局人間は個人としての利益のために動くのであり、機械化が世の中を豊かにする、などと楽観的な思考にはならない。
とあるアーティストが、サブスクリプションは利益がないから無くなって欲しい、との発言をして話題になった。程度こそ違うがまさにラッダイトの一つではないだろうか。
長期的に見ればプラスだろうが、職を追われる側からすればマイナス以外でない。AIによる技術革新は止まらないのだから、先を読み行動するしかないのだろう。
Posted by ブクログ
◯ 政治的支配力をすでに握っている者にとって、ほとんどの場合、創造的破壊という不安定化プロセスには何の利益もない。(48p)
◯ 短期の問題には政府が慎重に対処すべきだ。イギリスの産業革命を生きた多くの人々にとって、短期とは一生を意味した。(524p)
◯ 自動化がまだきわめて困難な対人サービス業は多岐にわたる。そうした仕事は、お金に余裕のある人が多い高スキル労働者の集まる都市で創出されると考えるのが自然だ。(543p)
★技術の進歩は万人にとって良いことであり、ラッダイト運動は誤解に基づいた間違った行為というふうに思い込んでいた。しかし、進歩の恩恵に与れない人々にとっては、当然に合理的な行為であったのだ。
★AIの発展も、何の政治的な対策もしなければ、社会に混乱をもたらす。
Posted by ブクログ
具体の話が少し頭に入ってきにくい感じがあったので、機会があれば再読を頑張りたい。
第一次産業革命では、ラッダイトと呼ばれる機械を壊して抵抗する労働者が現れたりして、イノベーションに対するアレルギー反応ようなものがでたりするが、最終的には全ての人に技術革新の恩恵が行き渡ることもあり、受け入れられてきた。
ただ労働置換技術によって仕事を失ってしまった人たちが、恩恵を受けずに人生を終えてしまうようなことが第二次産業革命の際にも起きており、政治経済の面からのフォローが必要である。
自分個人としては、イノベーションにいち早く適応し、自身のスキルとして使っていかなければ、ならないと思う。
Posted by ブクログ
とても分厚く読み応えがある
過去のイギリスとアメリカの産業革命からテクノロジーが人々の生活にどのような影響をもたらしたかを分析し、今のAIによる自動化の影響を考察している
初めて自動化してもそれによるダメージの大きさを知った。昔のイギリスでは産業革命が起こっても人々の賃金レベルは変わらず、上位の人々だけ恩恵を被ったこと、アメリカでは対して労働補完型のテクノロジーという受け入れ方のため、受け入れられ、生活レベルの向上をすぐに促したことがかかれている。しかし現在のコンピューターの出現により、高卒などの賃金は下がっており、格差がどんどん広がっていることを知った。
そのため、一概にAIによる自動化を喜べるわけではない。ただ、最終的にみると生活水準を上げているため、そこに達するまでの間の職を失った人々をどのように守るか、そしてその人々が織りなすポピュリズムを防ぐかを考えなければならない。
生涯勉強あるのみ…
Posted by ブクログ
AIに代表されるテクノロジーは生産性の向上により人間を不要な労働から救う救世主なのか、それとも低付加価値の労働者の仕事を奪うことで失業率を押し上げる悪魔なのか。論争が尽きぬこの議論に対して、主に産業革命以降のテクノロジーの歴史を紐解くアプローチを取ったのが本書である。
本書では、産業革命以降、労働生産性を向上させたテクノロジーを2つに分解する。1つは”労働補完型”であり、こちらは労働者を存在とするがその労働をより簡易にできるようにし、労働者自身の安全性向上というメリットももたらす。もう1つは”労働置換型”であり、こちらは労働自体をテクノロジーが自動化することで不要としてしまうタイプであり、産業革命期のラッダイト運動の対象となったのもこちらである。
よって、テクノロジーが労働に与える影響を考えるためにはそのテクノロジーがどちらに該当するものなのかを見極める必要がある。”労働置換型”のテクノロジーの場合、歴史を紐解けばそこには必ず不要とされて職を喪失した労働者の存在がある。もっとも様々なテクノロジーによって失業した労働者のデータを追って見れば、年齢が若いなど再学習のチャンスがある労働者は再雇用に成功するものの、そうでない人間にとっては失業が長く続くというのが一般的な傾向である。
結論はシンプルであるが、テクノロジーを巡る長い歴史を押えた上での議論ができる良書。