【感想・ネタバレ】今昔百鬼拾遺 月 【電子百鬼夜行】のレビュー

あらすじ

昭和29年春から夏にかけて続く怪事件。

「先祖代代、片倉の女は殺される定めだとか。しかも斬り殺されるんだという話でした」 昭和29年3月、駒沢野球場周辺で発生した連続通り魔・「昭和の辻斬り事件」。七人目の被害者・片倉ハル子は自らの死を予見するような発言をしていた。ハル子の友人・呉美由紀から相談を受けた「稀譚月報」記者・中禅寺敦子は、怪奇と見える事件に不審を覚え解明に乗り出す。(「鬼」)

複雑に蛇行する夷隅川水系に、次々と奇妙な水死体が浮かんだ。3体目発見の報せを受けた科学雑誌「稀譚月報」の記者・中禅寺敦子は、薔薇十字探偵社の益田が調査中の模造宝石事件との関連を探るべく現地に向かった。第一発見者の女学生・呉美由紀、妖怪研究家・多々良勝五郎らと共に怪事件の謎に迫るが―。山奥を流れる、美しく澄んだ川で巻き起こった惨劇と悲劇の真相とは。(「河童」)

是枝美智栄は高尾山中で消息を絶った。約二箇月後、群馬県迦葉山で女性の遺体が発見される。遺体は何故か美智栄の衣服をまとっていた。この謎に旧弊な家に苦しめられてきた天津敏子の悲恋が重なり合い―。『稀譚月報』記者・中禅寺敦子が、篠村美弥子、呉美由紀とともに女性たちの失踪と死の連鎖に挑む。天狗、自らの傲慢を省みぬ者よ。憤怒と哀切が交錯するミステリ。(「天狗」)

解説 綿矢りさ

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Posted by ブクログ

ネタバレ

全編通して中禅寺敦子と呉美由紀が出てくる。
そして美由紀がとにかく通快。
【鬼】
因縁がキーワード。結構突拍子もない名前が出てきた。犯人はまあそうかなという感じ。そこに至るまでがぐるぐるしてる。
【河童】
河童のことが色々知れて楽しかった。
久々に多々良先生に会えた。
【天狗】
この時代では革新的というか、今では当然の考えを持ち合わせている美弥子がとてもかっこいい。
理想に軸足を置くか(美弥子)、現実に軸足を置くか(敦子)というのが印象に残った。
実際この時代にこういう方がいたかどうかは分からないが、いてほしいという三人の女性陣だった。

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2021年09月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最初に3話3冊の文庫で出版された時点では、まだ本編を全部読めてなかったこともあって、買いそびれていた。
図らずも合本、しかも講談社文庫で出てくれたのは単純に嬉しい。
やっぱり京極堂シリーズは講談社文庫がしっくりくる。

本編好きなので、スピンオフは(大抵中禅寺も榎木津も出てこないので)いつもちょっと物足りなく感じてしまうのだけど、本作品は予想より面白かった。
やっぱり中禅寺も榎木津も出てこなかったけど。特に主人公気質の榎木津は主役の座を奪っちゃうから、出せないのは分かる。
その代わり、準レギュラー(青木とか益田とか鳥口とか)は惜しみなく登場してきて、中禅寺、榎木津の気配を常に感じることができたのは良かった。
で、噂では、敦子と美由紀のバディモノで敦子が真相に辿り着くけど自分が分かった時点で気が済んで解決しようとしないので美由紀が困る、みたいに聞いていたけど、実際はちょっと違って、敦子は持ち前の誠実さで事件に真摯に向き合ってた。
敦子、理詰めなところが中禅寺に似てる。

それにしても、3話3冊を並べてもこの厚さにはならない。京極夏彦、さすがに加筆し過ぎだと思う(笑)。
(比較してないけど)
ちょっと堂々巡りみたいな会話シーンが目立った。


・鬼…美由紀と敦子の初顔合わせにして、無差別辻斬りの話。鬼の刀に斬られる家系の血塗られた過去と、土方歳三の話の絡ませ方が、上手い。
十二階の歴史も興味深い。
妖刀に取り憑かれた、みたいな感じだけど、まず刀ありきで人間の狂気が表出してしまうのは、『邪魅の雫』の原理に近い。
賀川刑事はまたどこかで会えそう。
榎木津は日光で『鵺の碑』で触れられるべき事件に巻き込まれ中な様子。

・河童…冒頭の、河童で盛り上がる女学生同士の会話が面白い。
京極堂シリーズの登場人物の中で唯一積極的に嫌いな多々良が出てきて、萎えた(笑)。
事件はかなりややこしくて、京極堂シリーズぽい。「高貴な」人の持ち物だった宝石をめぐる話。こういう、史実を取り入れた事件の構築は、京極夏彦のオハコですね。

・天狗…篠村美弥子にまた逢えるとは思っていなかった。キップのイイお嬢様だったから、京極夏彦は好きそう。
友人が高尾山で行方不明になり、解決を依頼しに薔薇十字探偵社を訪ねた美弥子に美由紀は気に入られ、事件の解明に巻き込まれてゆく。
『邪魅の雫』で私の中の青木評価がだだ上がりなので、青木が出てきただけで楽しく読んだ。
青木の敦子に対する感情がお子様な美由紀にまでバレバレで、笑ってしまった。隠せや。
事件の真相は、本当にヒドイとしか言いようがない。
あなたは海軍だけど自分は歩兵、みたいな兵役経験が男性社会の共通の話題として成立してる悲しい時代に、男尊女卑的な考え方は余裕で大勢を占めてたと思うけど、一方で令和の世でもまだ完全に行き渡ったとは言えない超リベラルな平等主義を、昭和29年の女性が堂々と発言することの意外性というか、令和の世に生きる自分が読んでも感銘を受けちゃったりして、この物語世界のそういうところがすごく好き(語彙力)。自分は同性愛にはそんなに抵抗ないけど、この時代から65年経ってもやっぱりまだカミングアウトするには勇気がいる現状を知ってると、明るい未来に期待する美弥子の発言に謝りたくなる。
旧態然とした老害に、通じそうな言葉を選んで冷静に語りかける敦子は、やっぱり中禅寺の妹である。
榎木津は河口湖に出かけている。このあたりまで京極夏彦の脳内にプロットが出来上がってるのか(期待)。


これで物語世界が昭和29年の秋まで進んでしまった。
「ゴジラ」の封切りもすぐそこだ(笑)。
個人的には、やっぱり時間軸は本編に先導してもらいたい。
しかし、京極堂シリーズが講談社ノベルズ/文庫に戻ってきて、きっと大幅に加筆した京極夏彦の意識下にも物語世界が戻ってきて、『鵺の碑』の刊行もいよいよ現実味を帯びてきたのではないか。
めちゃ期待してるんだけど。
歴史的瞬間(大袈裟)に立ち会えますように!

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2020年10月03日

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