あらすじ
「いまや、物質のとりうる形態の数は、無限になった。」凄腕の理論物理学者とその仲間たちが、物質科学の新たな可能性を追う。「ペンローズ・タイル」のこのうえなく魅惑的な幾何学に触発されて著者たちが考案したのは、禁じられているはずの対称性をもつ、新しい形態の物質──名付けて、「準結晶」──の理論だった。準結晶のコンセプトは単純で美しく、その意義はいまだに計り知れない。ゆえに著者たちの探究はとんでもない熱量のプロジェクトへと発展していく。幾何学、物性物理学、鉱物学、etc. etc. を渡り歩いてカムチャツカに至り、その旅路の先は宇宙へも通じていて……まさに「ありえない」ような知的アドベンチャー。30年がかりの研究全体を貫いているのは、リチャード・ファインマンの薫陶を受けた著者が指針とする、「第二の不可能」への挑戦である。本書では不可能を可能にするような優れた科学者たちが、プロフェッショナルならではの離れ業を連発する。不可能に挑む研究は、最高に面白いのだ。上質な研究のスリルと興奮を凝縮した胸躍る科学ノンフィクション。
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Posted by ブクログ
第一の不可能とは、1+1=3のようもの。それに対して、まるで見込みがないが、実現する妥当な手段がどうにかして見つかれば、探求する価値が確実にあるようなものを「第二の不可能」とし、その中で結晶でも、アモルファスでもない、準結晶という固体の物質の形状を提唱・発見したのが著者です。
理論物理学から、結晶学から多岐に渡る研究で、重要な科学的な発見をしてから、さらに追い求める姿や、それらの過程、また、研究者同士のつながりなど、波瀾万丈です。
今や伝記として読むようなファインマンから教えを乞っていたエピソードも本書の魅力を掻き立てます。
研究姿勢で重要だったのは、自分たちを「青チーム」とし、一流の科学者でかつ、自分の意見を常に批判している立場の人も「赤チーム」として、共同研究者に巻き込み、常に建設的な議論を進めようとする姿勢は素晴らしいの一言です。
専門的でやや難しい面もあるものの、物理学者のインディジョーンズ、といわれるもの納得。時間のある時に集中して読むのに良い本と思います。
Posted by ブクログ
科学的な記載はアベンジャーズのヴィブラニウム程度に読み流してしまったが…
ペンローズタイルを物質の配置に当てはめたような準結晶を理論的に思いつく下り
(科学的な読みものとしてはここが1番面白かった)
それを現実に発見していくところ(科学者たちが連携して発見していくところが面白い。最先端の発見ってこうやってなされるのか)
自然に生成された準結晶を捜索していくところ(あとがきにあるようにダ・ヴィンチ・コードを思い出した。ハリウッド感がすごい。人捜しの面白さ)
カムチャッカに冒険に行くところ(また別のハリウッド感がある。理論物理学者が何をやっているのか)
各パートがそれぞれ面白く、とんでもない科学本だ
Posted by ブクログ
理論物理学者が、準結晶の可能性を追求するうちに、天然の準結晶の鉱物を探して、カムチャッカまで探索に行く事になった話。
科学界の様々な問題や、常識を乗り越えて新たな発見を成し遂げていく様子は非常にスリリングである。
Posted by ブクログ
「第二の不可能」とは何なのか?
本書では『何かの考えが「不可能」と判断されながら、その前提が、それまで考慮されたことがない条件のもとでは成り立たないこともある。私はそれを、「第二の不可能」と呼んでいる。』とある。
この「第二の不可能」をめぐる研究の過程は、まさに事実は小説より奇なりを地で行くサイエンス・ノンフィクションだ。
地道な作業の繰り返しが科学的発見に繋がる。何かを成し遂げるにはその時の運も大事であり、何よりも周りにいる人達が大事である。
著者の諦めない精神力もさることながら、運も人も両方にとても恵まれていたのだろう。
Posted by ブクログ
30年もの長い期間、情熱を失わず、「第二の不可能」だから可能性はあると信じ、これだけの成果を挙げたことに敬意を表したい。
遠征の成功は実施したタイミング、異なる専門性を持つメンバー、全員が自分の役割を最大限に発揮、など、多くの要素が正しい方向に働いた結果だと良くわかる。全ては著者が長い年月を捧げてきた情熱、それが関係者の心を動かして、著者に大きなご褒美をもたらしたのだと信じたい。事実、別のチームによる遠征は、同じ道案内を起用したものの、同じ結果は発見できなかったという。
それぞれのステージだけでも、特にカムチャッカへの遠征は、一冊の本になる内容。わかり易く説明されているものの、素人には直感的に理解できない部分も多い。理解度と興味に合わせて、強弱をつけながら読むことをお勧め。
18世紀後半に築かれた結晶学の土台は、次の3つの原理からなる。「鉱物など、あらゆる純物質は結晶を形成する」、「あらゆる結晶は、原子が周期的に並んだものである」、「原子のどの周期的な並び方も対称性によって分類でき、考えられる対称性の数は限られている」。例えば、正五角形は3つ目に当てはまらず、三角形、四角形のほかは六角形しかない。
著者は1985年にペンローズタイルという二次元のパターンから、異なるまとまりが異なる間隔で原子のまとまりが繰り返される「準結晶」という構造を発表した。急冷や、緩冷など特殊な環境で造られた合金に、準結晶のパターンが発見され、著者は自然界に存在する準結晶を、鉱物サンプルから探すことを始めたところから、カムチャッカ遠征までの長い研究が著されている。