あらすじ
母のレシピは、幸福の“おまじない”。
姑とのトラブルから婚家を飛び出した高坂美月は、自活するため、学生時代の先輩・北條を頼って学習塾で働き始めた。ある日、家庭教師として派遣された先で出会ったのは、中学受験生の倉橋理穂と弟の悠太。絵本作家だという母親は、海外留学中で不在にしているらしい。母親のレシピイラストが飾られた家は、一見、幸福そのものだ。だが、理穂は美月に壁を作り、心を開いてくれない。
美月は北條の力を借りながら、理穂に少しずつ歩み寄っていく。ようやくその距離が縮まったとき、理穂と悠太から、一緒に夕食を食べようと誘いを受けた。だが、その言葉に美月は臆してしまう。料理研究家の姑は、美月に“きちんとした”料理を強いた。そのあまりの強硬さに、美月の心は怯え、萎縮し、閉じこもってしまった。そして、包丁を持つことができなくなってしまったのだ――。
母親不在の食卓を囲むことになった美月、理穂と悠太。それぞれ、どうしても言えない“秘密”を抱えた三人は、絵本に描かれた幸せになるための“おまじない”を探してゆく。
「第1回日本おいしい小説大賞」隠し玉。良い嫁とは、良い母とはなんだろう……。号泣必至、悩み多き女性たちに送る救済の物語。
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Posted by ブクログ
月のスープって、何だろう。
タイトルと、あらすじにある主人公の悩ましい状況が心に引っ掛かり、手に取った。
姑との軋轢から婚家を飛び出し、中学受験生の理穂と弟の悠太の家に家庭教師としてやってきた美月。銀のスプーンをくわえて生まれてきたような一見裕福な二人、裕福な家庭と思いきや、理穂と悠太にも辛い記憶や思いが存在していた。
理穂の言葉遣いは年相応には思えないほど大人びているが、やっぱり中身は小学六年生。家族を取り巻く様々な「事情」を前に、子供だからこそその奥深く暗いものを黙って隠してきたのだろう。美月がこの家に訪れなかったら、きっかけがなかったら……。一方、子供だとか大人だとか関係なく、“おまじない”を唱えられる魔法は誰だって見つけることが出来る。婚家や大学時代の出来事を通して己の内面に囚われ悩んでいた美月は、逆に理穂と悠太と向き合っていなかったらどうなっていただろうか。窮屈でどうしようもできないと思い込みながら毎日を送り続けていただろうか。
奈美の「幸せってさ、案外簡単でしょ」という台詞は最初いまいち理解しきれなかったが、なるほど最後まで読むと『簡単で、誰もが知っている。けれど、とても美しいおまじない』を知ることが出来た主人公には一番しっくりくる台詞になる。
生きづらい性格なんてないのかもしれない。誰だっておまじないを口にすることが出来るのだから。