あらすじ
「本書は新たに始まった冷戦の中心にマーシャル・プランを大胆に位置づけ、ソ連が苦労のすえに勝ち取った中欧と東欧の緩衝地帯にこのプランが脅威をおよぼす可能性について、スターリンがいかに真剣に考えていたかに焦点を当てる…プラハでのクーデターやベルリンの封鎖など、冷戦初期の劇的なエピソードのほとんどは、マーシャル・プランを挫折させ、欧州全域におけるアメリカの影響力弱体化を狙うスターリンの強い決意が原動力だった」「マーシャル・プランがアメリカ外交の最大の成果のひとつとして記憶されるのは、先見の明があったからだが、実際に効果を発揮したからでもある…政治的手腕が素晴らしい成果を発揮するためには、高い理想を掲げながらも現実に目を向けなければならない。私たちは、それを教訓として再び学ぶ必要がある」(本文より)この巨額かつ野心的な欧州復興イニシアティブは、いかにして冷戦という世界秩序を形作り、アメリカの戦後の大戦略に資したのか。アメリカ、ロシア、ドイツ、チェコの新資料を駆使して、その全貌を描いた決定版。
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Posted by ブクログ
【スターリンにとって軍事化は、マーシャル・プランの副産物だったが、トルーマンにとってNATOは、計画実行に伴う予想外の悔やまれるコストだったのである】(文中より引用)
アメリカ外交の成功譚として語られることも多いマーシャル・プラン。史上空前の「寛大な」外交政策はいかにして生まれ、対抗するソ連にはどう捉えられていたのか。著者は、米外交問題評議会のシニア・フェローを務めるベン・ステイル。訳者は、重量級の作品を数多く翻訳している小坂恵理。原題は、『The Marshall Plan: Dawn of the Cold War』。
圧巻の一言。今日まで続く誤算と誤解の積み重ねを、マーシャル・プランというターニング・ポイントに立ち返ることで丹念に紐解いていく筆が凄まじい。なぜマーシャル・プランという経済支援の外交政策が、ソ連にとって安全保障上の強い意味合いを持つものだったかがとてもよくわかりました。
尋常ではなく分厚いですが☆5つ
Posted by ブクログ
欧州の共産主義化や全体主義化、社会主義化を阻止するため、米国は主導しマーシャル・プランを通じて欧州に資本供与することで欧州内の商業的なつながりを復活させた。今ではピンとこないが、各国の国内で共産党が草の根的な活動していた時代である。そして、西ドイツと欧州各国の繋がりを強化し西ドイツの市場経済を発展させた。
一方、市場経済の発展を背景に、ドイツをめぐる米国とソ連の綱引きはNATO同盟とワルシャワ条約機構の対立となるが、東西ドイツの統一に向かう時代の流れがつくられ、1989年のベルリンの壁の崩壊、そしてワルシャワ条約機構の解体、そしてソ連の崩壊へとつながった。
冷戦時の緊張感がよく伝わってくる読み応えのある一冊だ。
そして…
米国とソ連(ロシア)の対立が、2001年9月11日のイスラーム過激派テロリスト集団アルカイダによる米国同時多発テロ事件につながり、経済では「新自由主義(ネオリベラリズム)」が貧富の格差を生む一方で、欧州経済の弱体化を招き、貧富の格差を背景に宗教や民族の対立による難民やテロの問題が生じている。
そして、本書で中心的な役割を担っていた国が今では自国Firstと声高に叫び、次の覇権を狙う大国は、世界の各大陸で金を貸し首が回らなくなると利権を手に入れ、貪欲に自国の経済発展を進めている。
まったくイヤな御時世だが、いつの時代も時世とはそんなものなのだろう。