【感想・ネタバレ】どこから行っても遠い町(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

これはタイトルが猛烈に好きで中身も知らずに買った本。東京のどこかの町の、商店街を中心とした11の連作短編集だった。読む前から絶対に好きだと分かっていたけれど、最後まで読んでみてやはり大好きだった。
ただ続いていく日常と積み重なっていく過去。この町で働く人、買い物に訪れる人、住居としている人。主人公が代わっていっても一様に温度の低さが心地よく、誰も無理をしていないように見える。
この町の人々は、自分の心と孤独に向き合い、隣人に心をさらけ出したり隠してみたり、付かず離れず生きている。どこにでもいそうだけれどここにしかない、はかない繋がりがあって、それがどうしようもなく心を惹きつける。
特に忘れられないのは「長い夜の紅茶」。姑の弥生さんの一言一言にドキッとさせられる。男にも家にも、どこにも縛られていない彼女の自由な瞳を見てみたい。どんな眼をしているんだろうとふと思うのだ。きっと眼がすべてを語っているんじゃないだろうか。
女の友情を超えた関係性が生まれる「貝殻のある飾り窓」も切なくて好きだった。
共感できることはほとんど無いのに、この本に出てくる人たちのことを、誰一人嫌いになれない。どれもこれも、分かりそうで分からない。人間の魅力ってそこにあるのかもしれないと思えてくる。

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2023年01月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ある商店街の魚屋、そこに少し関わる人たちと、更にその人たちにちょびっと関わる人たちのそれぞれの物語11編。
こういう、ある場所でのさまざまな人のあれこれ的な連作短編が好きだ。
電車で長距離移動すると、見える家々のほぼすべてに人が暮らし、それぞれにそれぞれの時間があることに、うわーって気持ちになるけど、それの規模小さく高解像度で見ている感じ。

商店街で少しだけ関係している人たちにも、当たり前だけどそれぞれに色々なことがあり、他の人が思いもよらないことを経験し、自分が1度も気にしたこともないことを考えながら生きている。
それらを俯瞰的にみることは、通常ない。それぞれ色々なことは事実としてわかっているし、幾つかのエピソードを知っていても、そのときの心情とか細かいところまで考えが及ばない。
しかし、事実として、すべての人にそれぞれ違う色々があり、考えていることはわからない。

川上弘美さんの小説の多くで感じることだけど、この人の本に出てくる人(人以外も)の言葉にドキっとさせられることが多い。
日常の中ではすぐ消えてしまう、そう思ったり感じたことすら忘れてしまうふわふわと曖昧な気分を言葉にしてくれる。
そういう言葉に触れるたびに、言葉にならなかった感触に言葉を与えられた気持ちよさを感じる反面、自分も感じていたそういう感覚を忘れてしまっていて、そのちょっとしたひっかかりとか気づきについて考えたり言葉にしたりすることをやめていることに気づかされ、さぼっているのがばれたみたいな気持ちにもなる。

毎日同じようなことをして、同じようなことを考えているようで、実は微妙にちがうことを感じたり思ったりしている。毎日同じ、とすることで楽になる部分もあるのだろうけど、毎日微妙に違ったり、言葉で分けられない感情や感触を実は毎日味わっている、というか、分けられないその場かぎり、しか実はない。
雑に言葉を当てることで、毎日が同じになってしまう。
そんなようなことを思ったり。

あと、女性の名前がなんだか味わい深い。
佐羽 時江 あけみ 衿子(えりこ) 央子(なかこ)など。

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2021年01月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

都心から私鉄で20分ほどにある小さな町。その町の商店街を舞台にした11の物語は、それぞれがゆる~く繋がりながら、人と人が暮らすなかで起こる、小さな心の動きをさりげなく描く。

何か特別なことが起こるわけでもなく、それぞれの物語の終わりはなんとも中途半端で、だからこそ、わたしたちの日常は、決して物語のように切り取られて完結するものではなく、平凡に続いていくことに思い至る。

前の物語で脇役だった人物が、あとの物語で主人公になるとき、最初に見えていた景色が違う色彩を帯び、立体的になる。最後まで読むとまた、最初に戻って読みたくなるようなそんな配置もgood。解説の松家仁之さんの文章も秀逸。

どの物語もなかなか良かったけど、一番好きなのは「長い夜の紅茶」かな~。なんだか、お姑さんとしみじみ語り合いたくなった。

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2019年03月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

タイトルにひかれて手に取りましたが、どうも、想像していたのと違いました。
とてもざっくり言ってしまうと、明るい日常の裏にある、暗いもの、が、テーマの短編集という印象でした。語り手も内容も全部違うのですが、わずかにつながり、ある下町の商店街に関わりながら、進んでいます。
何か結論を出そうというのでなく、一人一人のささやかな物語という感じです。あまり悩まないタイプの私にはわからない心情が結構あって、モヤっとしてしまいました。勉強にはなったかな…?

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2021年09月27日

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