あらすじ
金(カネ)を発明したときから、人類のさまざまな不幸せは始まった――。ひとの儲けを皮算用する「他人の懐」や相続をめぐるドタバタの「被相続人」ほか、恋愛、結婚、形見分けと、お金が生みだすペーソスを、明るく笑いのめす12編。読み出したとたん、お金の摩訶不思議な力に搦めとられていた自分を発見。笑うしかない! お金に換算するから悩みが始まる。人生をカネで眺めたパスティーシュ。人生を金に換えるといくらになる?
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Posted by ブクログ
※ネタバレ注意
お金をテーマとした短編集。この中の『事の初め』が、今受講している貨幣がテーマの公開講座でおすすめされたので読んでみた。
清水義範という作家は全く知らなかったが、面白かった。
各話で登場人物も舞台もバラバラだが、現代日本を舞台として一般庶民の生活を感じる話が多く、クスッとくる。出版年が1990年で時代を感じる。バブル期の日本で書かれた作品だと思うと、また趣がある。
『事の初め』、『黄金狂い』、『愛と希望』、『被相続人』が良かった。
・『事の初め』
社会に「貨幣」というものが生まれて広まっていった瞬間はこういうものだろうという風な寓話。小説なのに、読んでいると頭の中でコミカルなアニメが浮かぶ感じがする。セリフなどの言い回しが軽妙で面白かった。世にも奇妙な物語でこれを原作にしたものがありそう。
海の民の族長ヨシンバが主人公。お金のない時代には、不漁が続けば子供達は死んだ。お金があれば山の民や里の民との取引を円滑に進め、食糧を手に入れられ、飢えで苦しむことは無くなった。しかし、次第に労働がお金のためになり、お金絡みの犯罪も生まれる。お金目的の族争い(侵略戦争)まで発生しかねない。それでも、もうお金は独り歩きしており、お金のない世界には戻れない。
そんな悲観的な流れに、ラストの意外なオチ。売春は人類最古の職業のひとつだと言うが、それは貨幣経済を前提としたものだった。
・『黄金狂い』
人類はなぜ、黄金に魅せられるのかという説明の形で話が進む。人間には「向金性」とでもいうような、黄金狂いの性質がある。金を作り出したいという欲望で錬金術が生まれ、やがてそれが化学の母胎となった。黄金の国ジパングやエル・ドラドの噂が大航海時代のきっかけとなり人を未開拓地へ向かわせた。アメリカのゴールド・ラッシュで人が移動し栄えた都市を作った。
作中では金1グラム2千円とされているのが時代を感じる。
・『愛と希望』
貧困層の7歳の子どもトブルが主人公。1束1ペールで仕入れた花を観光客に2ペールで売り、母親や兄弟に屑パンや残飯ミルクを買う。日本人観光客には高く売れる。医者との会話や、ラストの日本のマスコミとのやり取りが悲惨な生活を見せつけてくる。
巻末の解説で、本作のタイトル『愛と希望』の希望とは何かと考察しており、ラストのトブル少年の怒りこそが希望だと書かれている。
・『被相続人』
相続ドタバタ物語を書くとしたら、どういう設定にしたら面白いであろうか、と小説のネタを練る形式で話が展開する。
相続の仕方、相続税、法定相続分、路線価、etc。話の過程で様々な遺産相続に関するルールが説明される。こんなことまで決まっているのかと感心する。全体を通してコミカルな雰囲気。