【感想・ネタバレ】羽ばたき Ein Marchenのレビュー

あらすじ

堀辰雄の傑作少年文学『羽ばたき Ein Marchen』を壮麗にコミカライズ。
二人の少年――ジジとキキをめぐる美しく残酷なおとぎ話。

“ジジは普通の餓鬼大將とちがつて、ただ誰よりも腕力が強いだけではなく、それと同じくらゐに誰よりも美しかつた。その慓悍な眼ざしと、その貝殼の脣とが、他の仲間たちの上に異常な魅力をもつてゐるのだ。ジジは彼の貧乏なことをも彼の魅力の一つにしてゐるやうな少年だ。”

“ジゴマのジジをキキといふ少年が追ひかけてゐた。キキは身體の小さなくせに、頭の大きい少年だ。そのとき、突然ジジが石につまづいて、はげしく倒れた。そして死人の眞似をした。するとキキは、彼を捕縛すべき警官の役割を放棄して、ジジの肩に手をかけながら、女の子のやうにやさしく聞いた。
――ジジ、どこも怪我をしない? ”

原作小説と鳩山郁子の描き下ろしあとがきのほかに、文筆家・長山靖生氏による堀辰雄が生きた時代と本作の作品世界を楽しく学べる解説文も収録。
『羽ばたき Ein Marchen』という名作を多角的に楽しめる一冊。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

鳩山郁子の本は8割がた読んでいる。
毎回ため息をつくほど好きなのに、どこか走り去りゆく作者の背にタッチできないような、隔靴搔痒を感じていた。
が、今回は確実に、少しだけ触れた。
もちろん読後、その感触だけ残していつものように作者は逃げていったのだが、触れた瞬間の喜びと、走り去られるに違いない喪失感の予感とが、同時に感じられたこの読書体験だけは、憶えておきたい。

内容についてはもう、わざわざ書かない。
何度でも読み返すだろうから。

原作小説の展開のあとに、18ページほど、鳩山郁子なりの解釈が描かれているのだが、
ここだけで萩尾望都「残酷な神が支配する」の達成に、届かんとしていると思う。
鳩山郁子も、誰かの背を追っているのではないか。
今回は確実に堀辰雄の背に触れた、いや堀辰雄を背後から抱き留めた、と感じているのではないだろうか。

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2020年08月02日

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