【感想・ネタバレ】鉄の時代のレビュー

あらすじ

反アパルトヘイトの嵐が吹き荒れる南アフリカ。末期ガンの70歳の女性カレンは、庭先に住み着いたホームレスの男と心を通わせていく。差別、暴力、遠方の娘への愛。ノーベル賞作家が描く苛酷な現実。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

ネタバレ

クッツェーは読みやすいのに深くて、文章を書くのがものすごく上手いなといつも思います。

同じ都市にいきながら、若くして未来を奪われる黒人の若者たちと、病気に蝕まれているとはいえ長い生涯を終えようしている主人公の2つの世界が一つに交差し、自分の国の現実は知っていたものの、身近なところでショッキングな形で傷つけられる黒人少年を目の当たりにして衝撃を受けた女性が、手紙という形で自らの体験とその無力さを言葉にして残すというのが、小説全体を手紙形式にしていることも含めてすごく緻密に作られているなと思いました。

この作品、後の時代から振り返って書かれたものではなくて、アパルトヘイト後期の時期に書かれたということが結構衝撃で、「鉄の時代」というタイトルをつけてリアルタイムな自国の現実を描く骨太さにしびれました。

0
2026年03月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

はじめて読んだ クッツェーの文章は、
解説にくぼたのぞみさんが、「アリュージョン(暗示)とことばの連載」と書いているように とてつもなく知的で美しく、詩的にも感じられるところもあり、読むのはすてきなことでした。

南アフリカ、ケープタウンに住む白人の元大学教授の女性(ミセス・カレン)が アメリカに住む一人娘に宛てて書く手紙、書簡体で描かれています。

手紙は、家の通路で浮浪者が眠っているのを見つけてしまったことから始まる。その日は医師から末期の癌であることを知らされた日だった。
この浮浪者の男ファーカイルと彼の犬は ミセス・カレンと深く関わってゆくことになる。

カレンの家には黒人の家政婦フローレンスがいる。休暇から帰ってきた彼女は小さな娘ふたりだけでなく、黒人居住区の治安が悪くなっていると、15歳になる息子ベキ を連れてきた。
これこそがまさにアパルトヘイト、黒人たち自身による解放運動と警察からの暴力、そして悲しい現実(私はこの事を全くわかっていなかった。アパルトヘイトの複雑さを)白人に金で黒人を売るような組織『自警団』により、黒人同士が分断していた。
ベキは友人ジョンと共にこの運動の犠牲になってしまう…
フローレンスのためにベキを助ける手助けをするカレン。彼女の古いイギリス製の車で。

ミセス・カレンはラテン語教授というインテリジェンスだけども、南アフリカの元教師として、家政婦のフローレンスと彼女の子どもたちを助ける義務というか、アパルトヘイトを引き起こした白人としての責任を担おうとしたのか、残りの人生を彼女なりに捧げ この手紙にありありと遺した。

心も身体もすり減らす彼女を癒すのが、ファーカイルの存在

_その肩からはらりと上着が落ちて、大きな翼が生え出すときはいつやってくるのだろう_

そしてこの手紙を自分が死んだら娘に届けと欲しいとファーカイルに託す。
きっとどこにも届かない手紙を。

_戦争は年長者が若者を犠牲にするものだということは、れっきとした、事実として残る。_

0
2026年03月10日

Posted by ブクログ

アパルトヘイト末期の南ア。末期ガンの70歳女性が娘に綴る手紙。恥や真実のない鉄の時代で幻の絆の為に死ぬ子どもたちを救えぬ絶望、娘に会えない孤独感。刺さることばに漂う内に迎える最後の場面。鉄の時代の足音が聞こえる現代に読むべき傑作

0
2025年09月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

南アフリカに住む母親が、アメリカにいる娘に宛てた手紙の形式で物語は進む。南アフリカの環境と娘が住む環境、自身の立場と、貧困にあえぐ人々の立場。その違いが彼女を苦しめもする。(彼女自身の病気もあるが)全体的に暗いトーンで、そのトーンからくすんだ彼女の気持ちや、南アフリカの抱えていた問題が感じ取れる。

わたしの肉の肉、わたしの血の血(p93)など印象的なフレーズがいくつもあった。

0
2026年07月20日

Posted by ブクログ

アパルトヘイト時代の南アフリカを舞台にしているから、アパルトヘイトの実態を告発し批判する意図ももちろんあるのだろうが、それだけにとどまらず、受け入れられない状況の中でいかに生きるのか、いかに引き裂かれるのか、について問うているのだと思う。なぜ、ガンを告げられ余命いくばくもない主人公が祖国を捨てた娘に残した手紙は、主人公の家に住み着いたホームレスであるファーカイルに託されるのだろうか。新しい世代から拒絶される旧世代の過ち、恥をファーカイルに託しているようにも思う。

0
2021年10月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

比喩、悲観的な詩、自己憐憫、独白
まさにファーカイルや家政婦が感じたように、死にゆく老人が「手紙を読む娘」という視線を意識しながら書く文章は重くて湿っていて偽善らしいように感じた

オランダ系入植者、白人目線からの「人はこうあるべき」という理想論を長ったらしく垂れたり
冷酷な黒人に嫌悪感や畏怖を感じながらも擁護者の役割を演じ続けたり
それでいながら安全圏に戻りたいと願ったり
アメリカに逃がした娘を気遣っているフリをしながら、死により責任を逃れたあとは自分の苦しみを理解してほしがったり

何度も安心と保護を与えてくれる母親的なものを求め、庇護者、少女になりたがっていた自分の本心と、白人であり富裕層であり擁護者、大人である社会的役割と葛藤していた

ファーカイルだけは老人に何も期待をせずに、尊敬もせず、政治的な思想ももたずに老婆のヒステリックや高慢をからかったり、素直に侵害されたと感じたり、遠くとも直球に関係を築いていた
それでも激動の時代、加害者側である白人の老婆に愛情が与えられることはなく、打ち解けた憐憫をもったファーカイルに抱きしめられるも鉄のように感じるだけだった

老婆がやっと社会的役割の上下関係を、優しく寛容で老婆を矮小な子供として扱ってくる警察の介入により、理想の庇護者に位置することができたシーンが印象的
拗ねた子供のように、荒らされた家、無視された理想論的姿勢、婦警に諦められながら荒れた地域に歩を進める老婆
そこから、ファーカイルの子供のような素直さと打ち解けることに成功した

分かりやすく善悪の構造で分けず
反乱側も、政府側も、白人側も、どこと対比するかで善悪の構造が変わってくる
簡単に読めない本だった
独白がしめっぽすぎることによって、楽しくも、気持ちよくも読めず、それでも激動の時代を背景にした老婆の葛藤はページを進めてきて、重々しく退屈でも徒労とは感じないという不思議な読後感だった

0
2026年07月20日

「小説」ランキング