あらすじ
●日本人が理解していないエコノミック・ステイトクラフトの時代
エコノミック・ステイトクラフトとは「経済をテコに地政学的国益を追究する手段」。貿易政策、投資政策、経済制裁、サイバー、経済援助、財政・金融政策、エネルギー政策の7分野で構成されます。日本ではあまり関心が寄せられてはいませんが、2019年8月に米国において国防権限法が大きく改定された問題意識には、中国が巧妙に展開しているエコノミック・ステイトクラフトへの危機感の高まりがあります。
米国はAIや自動運転技術などのハイテク技術の中国への流出を最小化し、中国の成長スピードを遅らせることこそが国家安全保障政策の要と位置付け、同盟国の企業の意識改革まで念頭に置いた制度設計を検討していることを明らかにしたのです。防衛産業に関係ないからといってのんびり構えてはいられない時代になったのです。
●日本企業のリスクシナリオも明示
経済環境が大きく変わることになったにもかかわらず、日本政府ならびに日本企業の危機感は弱いままです。米国ならびに米国の同盟国と円滑に経済関係を維持していくためには、国防権限法という規制の網に準じた経営体制を構築することが愁眉の急となっています。
筆者はルール形成戦略という切り口から企業経営、国家戦略にアドバイスを行ってきた研究者。米国当局への取材も丹念に行っており、経済学者も政治学者も押さえていない分野の権威。国防権限法のインパクトは日本ではきちんと理解されておらず、本書はその全貌と日本の戦略を明示した初の書籍となります
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Posted by ブクログ
日本政府、そして日本企業で働く私たちにとっても、2020年に出版された本の中でも最も重要な1冊なのではないか。
経済ツールを活用して地政学的国益を追求する手段とされるエコノミックステイトクラフト、そして株価や為替操作による経済活動の混乱、国内法の国際展開、政府首脳陣のスキャンダルによる信頼の失墜、身の回りの製品を武器に変えさせる戦争行為を志向する「超限戦」という非軍事の戦争行動コンセプトによって、今後想定される戦争形態が根本的に別のものとなっている今、安全保障の形も変化を余儀なくされている。
そうしたグローバルな安全保障環境の変化、そして今後起こりうる市場環境の変化に対して、ルール形成やそれに向き合う議論や人材や組織構造を持たない日本がどうしていけばいいのか、について記されている。刺激的な一冊。
個人的にはGDPRに関する記述も目から鱗で、米国のクラウドに支配されることで情報が筒抜けになることを前提として巨額の制裁金を科すルールを形成することによって情報を盗み見ることを躊躇させる手段、つまり、GDPRは個人情報の保護を錦の御旗にしつつ、真の目的はEUの機密情報を盗み見ることを防ぐ安産保障戦略そのものだという話は勉強になった。
Posted by ブクログ
この本を読み始めて、大前提として「米中冷戦は2018年から始まっている」という認識に変わった。どこまで自分はお花畑な頭をしていたのか。。
以下学び
・安全保障における考え方の原則は「国防は経済に優先する」。合理で動く企業にとっては売上減など不利に働くことも多いが、かつての軍(国政)→民というテクノロジーの流れが逆転している中では、法規制の成立に先んじてルール作りに踏み出す必要がある。
・米国としては最低でも20年間というスパンで中国との覇権争いに突入したとの認識。ビジネスにおける時間軸とはズレがある。
・中国の一帯一路政策の根幹、AIIBに代表されるようにインフラを抑えることは国際関係・地政学上重要。かつ建設後のテロ対策・警備のための軍派遣に繋げられるかどうか。米中と日本の大きな違いはここ。日本は防災ノウハウの輸出が一つの戦略シナリオ。
・IoT時代における擦り合わせの要点は、ハッキングによる誤作動と復元シナリオ。ここでは開発段階での攻撃を受けるフェーズが重要だが日本国内では違法。海外市場での競争同位を築くためには、例えばオーストリアなどとの連携が必要になってくる(SC制度の有無も含めて)。
・逆に非ハイテク市場には日本の余地あり。超低燃費ガソリン車や介護産業など。環境面の問題を考えると、ここは中国との連携も必要に。
Posted by ブクログ
新規政策分野である経済安全保障。経済と安全保障(含むインテリジェンス)とは相互排他的とは言わないが、これまで別々のものとして少なくとも日本では捉えられ、政府内も官民もそれぞれのアクターは噛み合って無かった。
情報通信技術の飛躍的発展と米中対立の煽りを受けて、物理的分野から経済的分野に競争の主戦場が移ってきた。
本書では、経緯、技術、枠組み、産業、提言など幅広く経済安全保障について扱う。入門用啓蒙書として良いのではないか。カバレッジが広すぎて個々の議論が薄くなっている点は仕方無い。