あらすじ
徳川瓦解により禄を離れた幕臣の娘が、湯葉商の養父を助け奮闘する。その半生を細やかな筆で描く、女流文学者賞受賞作「湯葉」。浅草の高級呉服店を舞台に、大正期の趣味人を彷彿させる「隅田川」、ほかに「丸の内八号館」を収録。明治・大正・昭和三代の女の系譜、庶民の生活と時代を見事に描き上げた代表三部作。
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Posted by ブクログ
著者の祖母、父、そして自身をモデルにした連作ですが、それぞれ全く趣の違う物語です。「湯葉」は明治の商家の妻の生き様を、「隅田川」は大正から昭和初期の浅草の伊達男を描いています(この父親が自分で図案も描く高級呉服商ということで、本筋には関わりありませんが、着物好きとしては楽しかったです)。「丸の内8号館」は続編に「華燭」と「今生」という二作があり、合わせて読むと、昭和初期から戦時中のいわゆる青春がどんなものだったかが窺えます。
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父権的なるものを失ったとき、ひとりの女としてどう生きるか? 母娘3代の生き様のちがいを描くことで、この3部作はあざやかに明治から大正、そして昭和という時代を映し出す。
3作通じてif(「もし…」)の用法を使うことで、「男」の死、あるいは消失によって「女」の生を描くという手法がおもしろいが、同時にそれぞれの時代を象徴するものとして、独自の工夫で一目置かれる湯葉屋、芸術的な染織にこだわりをもつ呉服商、そして当時「一丁倫敦」などともてはやされた丸の内ではたらく「タイピスト」といった仕事がえらばれているのが興味深い。
海野弘にならって1910年代、20年代、30年代という区分で読んでゆくと、またひと味ちがう眺めがひらけてくるのも印象的。第3部『丸の内8号館』の主人公・恭子は、じぶんの母や祖母とちがい、最後にはみずから父権的なるものに引導を渡すことでみずからの人生を歩き出そうとする。物心ついた時分に、浅草という当時の東京の「へそ」で道楽者の父親に溺愛されて育つことで大正デモクラシーの甘い蜜の味を知ったいかにも30年代の女らしい生き様だし、またそういう道しか選べないことでひとつの時代の終焉をまざまざと知らしめるのだった。