あらすじ
2009年発売の『企業の研究者をめざす皆さんへ』の新版。前書から十年の間に著者が経験した東京大学工学系研究科技術経営戦略専攻での技術リーダーシップ講義、統計数理研究所での知見、スタートアップ企業PFNの企業文化、政府関係の委員会や学会で得た情報を加えて、内容をさらに充実させている。
前書は日本IBM東京基礎研究所所長時代に研究員に宛てたレターを解説する形の構成をとったが、本書はレターだけでなく著者が講義で使用したケース事例、ブログや学会誌に寄稿したエッセイも紹介している。
研究の方法、論文の作法、キャリア、マネジメント、知財問題など研究職を希望する学部生や修士・博士課程の学生にとって興味を引く情報が揃い、現役の企業研究者・技術者にとっても読みごたえのある一冊となっている。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
工学は物を作る設計型学問のため難しい。工学研究の成功は、社会がどのようなモノに価値を見出すかという社会的価値観すなわち哲学に依存する。工学は科学と哲学の要素を同時に内包するdisciplineであり、双方の洞察が不可欠。なお設計型研究は論文は書きにくい。
日本発Chainerは、当初製品価値や差別化要因のため社内に留める説とOSS化説があったが、後者が取られ、結果として技術力で差別化したいPFNに世界から優秀な研究者が集まるに至り、その意味で正解だった。
IBM、キャノン、PFNのような研究開発力の高い企業においても研究を「まとめる」力を持つ人は少ない。論文、製品化、標準化、OSSなどいずれかのアウトプットにつなげる力が求められており博士はそうした一定の力の保証になっているはず、という著者の見解(ただ、この認識は個人的に甘いと思う。博士号取得にはビジネス(製品化・事業化)や標準化の観点まで意識するインセンティブ設計は無い)。PFN Valuesの Motivation Driven / Learn or Die / Proud, but Humble / Boldly do what no one has done beforeは4つとも強く共感。各人が常に学習意欲を持っていればその組織は外の変化に追従できる。
知の鎖国と言われる日本。英語力はもちろん、異なる意見を取り入れてより高いレベルの合意を創り出す議論力が不足。日本では英語力だけでグローバル人材と勘違いされがちだが、その上でビジネス力が当然必須。多様性を受け入れるには努力が必要、自分の詳しくない考えは、自分が詳しいものより優れていると考える(=アファーマティブアクション)。解が存在しないならあらゆる前提条件を疑う。変化の速い情報通信では年初に立てた達成目標にこだわっても無意味なので人事評価は多元的・主観的な加点法にならざるを得ない。人事評価におけるマネジメントグループの総意を部下に伝えるときは自分の考えとして伝えないと後に禍根を残しかねない。(うちも部門単位での研究開発のポートフォリオマネジメントすべきでは。)結局フロー経営が成功の秘訣(Motivation Drivenと関係が深そう)。
特許制度の弱点として、利用にペナルティがあること、無制限の請求を認めていることの2点がある。パテント・トロールの手に特許が渡るとユーザに高額な賠償請求をしてくる。この対策としてLOTという概念がある。
SOX法。研究者は専門家として技術にできること・できないことを等身大で伝えていく義務がある。
Posted by ブクログ
研究を始めたばかりの方や研究者というキャリアを考える方にとって非常に有用な書籍であると思います。また、研究者としてキャリアを積んだ方についても改めて自身の研究の意義や貢献について考える機会を与えてくれる内容だと思います。
Posted by ブクログ
研究者ならずとも、企業という枠組みでキャリアを形成する人間にとっての重要な考え方が詰まっている一冊。
研究者向けとしても、R&Dポートフォリオの組み方や知財の重要性などポイントがおさえられている。
若手エンジニア必読といってもいいだろう。