あらすじ
「ゲノム技術」が当たり前になる時代。私たちの生活には、どんな影響があるのか? ゲノムとはDNAに記された全遺伝情報である。その解析と利用が今、急ピッチで進んでいる。遺伝子検査サービスに、がんゲノム医療、ゲノム編集食品、さらには刑事事件の捜査や生態系の改変まで……。それはまさに「ゲノム革命」とも呼べる劇的な展開だ。特にゲノム編集では、画期的な治療法の開発や農作物の品種改良が進む一方で、安全性や倫理問題など深刻な懸念も噴出している。本書は、その全貌を描き出し、生殖医療や食糧、環境問題など、さまざまな分野に波及するゲノム革命の光と影を論じる。
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Posted by ブクログ
ゲノム革命がはじまる DNA全解析とクリスパーの衝撃
著:小林 雅一
集英社新書 0997G
本紙は、3部構成になっています。けっこう分かりやすかったです。
1:ゲノム:遺伝子とはなにか
2:ゲノム編集について
3:ゲノム編集の応用
気になったのは、以下です
■遺伝子
・人間の食欲を制御する遺伝子:MC4R
満腹になると、MC4Rのスイッチがオンになると、食欲が抑えられて、もう物を食べたくなくなる
・全体の6%の人は、MC4Rのスイッチは常にオンになっているので、あまり物を食べません。そのために全員がやせ型であり、糖尿病や心臓病にかかるリスクが標準的な人にくらべて低い
・逆に、MC4Rが常にオフになっている人は、物をいくら食べても満腹にならず、過剰に食料を摂取してしまいます。こうした人は極度の肥満と、成人病に悩まされています。
・このような遺伝子を「私たちにとって切実な意味を持つ遺伝子」とよばれていて、その遺伝子を見つけるためには、GWAS という調査手法を使っています
・不眠症に関係する遺伝子は、1000個近くしられていて、ある種の体質や病気などには、たった1つではなく複数の遺伝子が関与しています
・厳密な遺伝子検査をすると、100万円以上かかるが、現在は、DTCという、一般消費者向け遺伝子検査があり、数千円から数万円程度の手軽な費用で検査ができる
・優性遺伝子 片親から、その遺伝子を受け継いだだけで、子にその形質が出るもの
●〇で、●の形質がでる
・劣勢遺伝子 両親から、その遺伝子をともに受け継いだときにだけその形質がでるもの
●●でしか、●の形質がでない
・キャリア 劣性遺伝子を発症しないままもっている状態
劣勢遺伝子●をもっているが、●の形質が発症していない状態
・ヒトゲノム計画 ヒトの全ゲノムの解析プロジェクトのこと
■ゲノム編集
・GMO (Genetically Modified Organism) 遺伝子組み換え作物
・遺伝子組み換え作物に反対する理由
①怪しげな微生物の遺伝子が、農作物のDNAに組み込まれたこと
②遺伝子組み換え技術のいい加減さ、特定の場所をねらって、組み換えることができなかった
・ゲノム編集
第1世代:ZFN
第2世代:TALEN ここまでは、特定の場所の組み換えができなかった
第3世代:クリスパー 特定の場所の組み換えができるようになった
リバース・エンジニアという手法をもちいて、クリスパーをつかって、特定遺伝子薬を創り出す
■応用
・ゲノム編集食品:糖質が高い小麦などをゲノムを使って生み出せるようになった
・食の安全について、各国ごとに規制が違う
米国:農務省、FDA、EPA
日本;環境庁、厚労省、農水省 日本は米国以上に緩い規制:事実上の野放し
・ヒトゲノムを犯罪捜査に用いる FBI
・遺伝子ドライブ:ある遺伝子を特定種の個体全体へ速やかに広めるための遺伝子操作技術
・不老不死:ゲノム編集で、人間の寿命を延ばす試み、長生き遺伝子の発見
目次
はじめに
第1章 ゲノムから私たちの何が分かるのか?―遺伝子検査ビジネスの現状と課題
第2章 ゲノム編集とは何か?―生物の遺伝情報を自在に書き換える技術の登場
第3章 見えないゲノム編集食品
第4章 科学捜査と遺伝子ドライブ、そして不老長寿―ゲノム技術は私たちの社会と生態系をどう変えるか
おわりに―ゲノム編集は二一世紀の優生思想につながるのか
参考文献
ISBN:9784087210972
出版社:集英社
判型:新書
ページ数:240ページ
定価:840円(本体)
2019年11月20日第1刷
Posted by ブクログ
最近、遺伝子編集食品が出回っていると聞き、それって遺伝子組み替え食品と何が違うの?との疑問から読み始めた本。
ノーベル賞受賞で一躍有名になった遺伝子編集技術、クリスパー・キャスナイン(以下クリスパー)の登場により、誰でも簡単に遺伝子編集することができるようになった。クリスパー以前は、何十万、何百万もの実験を繰り返して、やっとノックアウト遺伝子(欠損した遺伝子)がつくれた、という状況だったのに、クリスパーは数時間でつくりだしてしまう。なんたって切り取れぱいいだけだから。超簡単。
遺伝子組み替え食品というのは、もともとある遺伝子に、外来の遺伝子を付け加えたもの。例えばトマトに苺の甘味情報の遺伝子を加えるとか。自然界には存在しない。
一方、遺伝子編集食品は、もともとの遺伝子から特定の遺伝子を切り取ったもの。トマトの酸味をつくる遺伝子を取り除くとか、そういう考え方。(あくまで例えで、そんなトマトがあるかどうかは知らない)
自然界でも突然変異として、そういったことはまあまあ起こっているので、不自然なことではない。
最近、近大が養殖した‘近大真鯛‘’’が東京でも食べれる、というテレビ報道を見たが、あれも真鯛の肉質が増えるように遺伝子編集したものだったはず。報道ではそのことに触れてなかった。遺伝子編集食品は表示義務がないから、伝える必要はないのだ。
なんか、不安は残る。
アメリカでは、簡易的なゲノム編集キットが200ドルで買えるらしい。日本でもそのうち夏休みの自由研究で、ゲノム編集で在来種のカブトムシをヘラクレスオオカブトくらいデカくしてみました!なんて時代がくるかもしれない。
遺伝子編集で一番懸念されるのが、言うまでなくヒトゲノム編集だ。
遺伝的な病気にかからない子どもを産めるとか、アトピーになる子どもを減らせるとか、もちろんメリットは多いけれど、デザイナーベイビーの問題は当然、優性遺伝子の問題として浮かびあがる。今でも出生前診断で、障害の可能性があると指摘されて堕ろす選択をする方もいるのに、頭が良く、容姿が端麗になる遺伝子編集ができるなら、そうする人は増える。そうなると、そうじゃない子どもは劣った人間ということになる。命の選別が当たり前になってくる。ディストピアだ。
ゲノム編集は、人類に計り知れない恩恵をもたらす福音でもあり、カタストロフへの弾きがねかもしれない。
正直、怖い!
Posted by ブクログ
DNAを人間が操作できる時代が来て、今までの常識がまったく通用しない状況が多方面で出現してきている。それを理解するための基本的な情報を与えてくれる好著。わかりやすい内容になっている。
DTC[Direct-to-Consumer]というDNA検査を我々が低コストかつ手軽にできる時代がきたこと。これによってさまざまな社会へのメリットがもたらされると同時に予想外の事態が発生していること。アメリカでは非常に盛んに行われいている実態がありこれは知っておくべきことだろう。
この検査結果などを活用することで通常ならば非常に高額になる遺伝子治療薬が現在では特別の専門機関でない企業などに於いてもAIやコンピュータの活用を行うことで作り出すことが可能となってきている。
身近ではゲノム編集食品の販売が始まろうとしている。このことを理解する手助けにもなる章立てもある。複雑な内容を含んでいるが我々全員がすでに直面しており基本的なことを知り、判断してゆくことが迫られている。
遺伝子ドライブ問題や不老長寿のことなどの最終章もおもしろい。