あらすじ
「勤勉は美徳」ではない。人類は農耕を開始する前の20万年間、今よりずっと少ない労働時間で、ずっと豊かな暮らしを送っていた。はたして私たちの「労働」「豊かさ」に対する考え方は正しいのか? 気鋭の人類学者が、現代文明の“常識”を根底から問い直す意欲作。
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Posted by ブクログ
コイサイマンとも呼ばれたブッシュマンについてはこのブログでも何回かとりあげている。「人間にとってスイカ とは何か」とか「ブッシュマン・シャーマン―エクスタティックなダンスでスピリットを呼び覚ます」などである。また「ボーントゥーラン」も記憶に新しい。この本で驚いたことはたくさんあったが、その一つは人類の分化と拡散の遺伝子による研究の結果である。アフリカの大地溝帯で生まれた人類は一方は北に拡散し、ヨーロッパ人やアジア人、アメリカ人となり、一方は南にいきコイサン人となった。コイサンの住むところでは哺乳類は絶滅しなかったが他の民族のところろはマンモスやオーロックスをはじめ多くの野生哺乳類が絶滅していいく。狩猟を基本とするコイサン人は昨日のことも明日のことも考えない。そして週に15時間働くだけで幸せに暮らす。この本では新石器時代以降に人類が獲得した知恵や技術が環境に悪影響を与え、人類を不幸に導いている側面に光を当てる。飽食、未来への不安、見栄、欲望、土地を占有するという考えなどケインズやマルクスより資本主義の課題をより始原にに立ち返って考えている。難しい箇所もあったがなかなかの好著でした。
Posted by ブクログ
ブッシュマンが太古の昔から、「豊かに」暮らす生活様式を確立していたというのが気になり読んでみた。地球環境や貨幣経済至上主義が行き詰まる社会に生きていて新しい価値観を求めていたこともあって、本書は沢山のヒントをくれた。
フィールドワークで25年も現地に通ったスーズマン博士の描くジュホアンたちの描写はリアルで力強く引き込まれ、アフリカの荒野で自ら教えを乞うているような感覚を味わえた。
特に神聖な狩りの描写には息を呑んだ。
自分たちの存在を自然の一部だと捉えていているからこそ、自然を信頼し、捕食する生き物を前にしずかになる謙虚さには、日本の「ただ足るを知る」にもつながる精神も感じて恐れ入った。
そんな彼らが育んできた営みが貨幣経済の侵食とともに混乱に陥り、物理的な活動範囲の制約を受け、「後からやってきた文明」に否応なく飲み込まれ、誇り高いかつてのブッシュマンの多くが「スラムの落伍者」に甘んじている現状には心が痛む。
だが、肥大する欲が原動力となって拡大してきた「今の文明」を地球はもはや持て余し始めている。地球の破滅か、地球との共生を選ぶのかの曲がり角に立たされる今、必要以上に欲しがらないという「心の豊かさ」に目覚め、分け合おうという精神に基づいて社会を再構成できるのならば、ブッシュマンの精神は世界を救う新たな「ニューノーマル」として力強い復活を遂げる。
その選択を間に合ううちに私たち今を生きる人間は選べるのだろうか。
気づきを行動につなげたいと改めて強く感じた。
Posted by ブクログ
アフリカのブッシュマンと呼ばれる人々について、著者が現地にて知り得たことを書かれています。その過去から現在までの軌跡、外部とのかかわり方の変化など、非常に興味深い歴史を知ることができます。彼らと、それ以外の人々(私たちなど)の違い、価値観や物事に対する認識が違っていることを通して、私たちが考えている豊かさについて振り返るための示唆を与えてくれます。日本語訳のタイトルでは分かりにくいのですが、原題を訳すと「豊富さの無い豊かさ」とでも訳せるものであり、物が豊富な物質社会には無い豊かさを、資産などに拘らない生き方の考え方をすることで手に入れることができるということを彼らを通して学ぶことが出来る内容になっていると思います。これから人類が迎える時代では、働き方が間違いなく変わらざるを得なくなります。その中で仕事を持つことに拘っているために不幸にならないための方策がここには書かれていると思います。