あらすじ
人は親や出生地を選べない。ますます多元的になる社会で、複数の国籍を持つ人は必然的に増えていく。蓮舫氏問題で脚光を浴びた「二重国籍」だが、国籍法の運用は旧態依然かつ不透明で、ナショナリズムに絡めた一方的なバッシングも目立った。外国出身者を親に持つ有望なスポーツ選手へ送られる拍手喝采の大きさとは、あまりにも対照的だ。国籍法の規定で外国居住の日本国民が国籍を剝奪される「悲劇」に抵抗する訴訟も起きている。国籍と日本人。私たちはどう考えればいいのか。いま、国民的議論が求められている。
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Posted by ブクログ
二重国籍と日本
編者:国籍問題研究会
発行:2019年10月10日
筑摩書房
カルロス・ゴーン騒ぎで、彼が三重国籍であることについて、レバノンやブラジル、フランスといった国々は、大らか、あるいは、いい加減だと感じている日本人は少なくないかもしれない。しかし、実は逆なのである。国連の調査によると、2018年末時点で複数国籍を認めているのは実に75%に達し、しかもそうした潮流はむしろ大きくなっている。
単国籍しか認めていない日本が、少数派、あるいは、“異常”とも言えるのである。
本書編者の「国籍問題研究会」は、弁護士、学者、ジャーナリストからなる任意団体で、蓮舫問題を契機に2017年に結成された。2018年に開催されたシンポジウム及びその後の研究を踏まえて書かれたのがこの本だが、書いている9人のうち5人が弁護士。それぞれが別々に執筆しているので、同じ説明があったりするが、細かいところも含めて丁寧に調べ、研究している。
だから、細かな説明は頭に残る訳ではないが、底流にあるのはこういうことだ。国籍を変えるということは、当然、“相手国”がある。いくらこちら側が法律で手続きを決めていても、相手国にそういう決まりがなければ成立しない。つまり、一方の国内法をいくら整備してもだめ、かといって200を超える世界国々共通のルールを決めるなどというのは、ほぼ不可能。要するに、単国籍主義には無理があるということだ。
蓮舫問題が起きた時、法律や国籍問題の専門家であるこの本の執筆者たちも、法的に問題があるかどうかよく分からなかったらしい。それどころか、法務局によって、あるいは、同じ法務局でも担当者によって見解(解釈)が統一されておらず、何が“正しい”のか誰にも確信がなかった状態だった。もちろん、マスメディアも知識を持っているはずがなく、曖昧な報道を重ねていった。
ルールを決める方がバラバラなのだから、当然、蓮舫氏本人もよく分かっていなかった。記者会見で歯切れよく言えなかったのは当然。そこにまたつけ込まれた上、政権によるちょっとした嫌がらせもあって、ネット上や右派メディアがバッシングをしていった、というのが真相のようだ。
この件をきっかけに専門家が調査研究した結果、蓮舫問題に関してはなにも問題なし。戸籍を公開するどころか、彼女は一切の手続きをしなくてもよかった、ということが判明したらしい。
当時、軽率なメディアの情報に乗せられ、ネット上でヘイトに近い軽率な行動をした保守派の人たちの中には、いまだにSNSなどで蓮舫うんぬんと書いたり拡散したりしている人がいる。自身の行為を大いに恥じて欲しいものである。
蓮舫問題と並び、この本でもう一つ大きくクローズアップされている問題が、日本の国籍法による日本国籍剥奪主義だ。日本生まれ日本育ちの人が、外国で仕事をして頑張り、その中でどうしてもその国の国籍を取得しないと仕事ができない状況となり(不動産取得など)、長年住んでいるので取得できる状態だったため取得するが、日本はその時点で彼らから日本国籍を剥奪してしまう。こんな制度のある国の方が珍しい。本人たちはそれを知らず、その国の国籍を取得、現地の大使館はそれを知ると即座にパスポートを取り上げてしまう。そして、日本に帰ろうとしても彼らは外国人となる。そんな悲劇が起きている。国籍法11条1項の違憲訴訟が起きている。大変に注目だ。
大坂なおみ氏の件でも話題になっているが、国籍は本人のアイデンティティと密接に関係するものである。22歳だとか20歳だとかで、どちらかを選べ、というのはあまりに酷だ。その面でも、日本の単国籍主義は異常だと思える。
Posted by ブクログ
大阪なおみ選手の活躍をきっかけにした訳ではなく、蓮舫議員の二重国籍騒ぎをきっかけとして起こった議論を出発点とした新書。
野島さんが執筆陣に含まれていることから手に取ったのだが、残念ながら各執筆陣の記述内容を編集側がうまくコントロールできてないようで、同じような話しが延々続くという感じの内容になってしまった。
また、タイトルに「二重国籍と日本」とあるわりには主要な議論の焦点は台湾との二重国籍に絞られている。台湾は現在の日本では国として認められていないということから、様々な法的に難しい点が生まれているということは、本書から十分伝わってくる。だが、台湾との問題にこれだけページを咲くなら、もう少しタイトルは工夫すべきだったのではないだろうか。