あらすじ
この本は、人工知能技術の雇用・労働条件・生活に対するインパクトについて考察してみよう、というものではありません。むしろそこから一歩引いて、「我々は人工知能技術の発展が社会に、とりわけ労働に及ぼすインパクトについて考える際に、どのような知的道具立てを既に持っているのか?」を点検してみる、というところに、本書の眼目があります。――「はじめに」より *AI(人工知能)が人間の仕事を奪う――これは「古くて新しい問題」です。馬車は自動車になり、工場はオートメーション化される。技術(テクノロジー)は、いつの時代も仕事を変えるのです。では、AIのインパクトは、これまでの機械化と同じなのか、決定的に違うものなのか。「労働」概念自体から振り返り、資本主義そのものへの影響まで射程に入れて検討します。
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Posted by ブクログ
昨年のコロナ禍の下で、取り組もうと思った「働くこと」についての本の読みつなぎ、こんな難しい本にまで届いてしまっています。題名に「AI時代〜」とは付いていますが、2014年のマイケル・A・オズボーン准教授らの論文『雇用の未来ーコンピューター化によって仕事は失われるのか』的な職業の浮き沈みの話ではなくて、そもそも「労働とはなにか?」という基礎の確認を行う、とても教科書として有効な本です。なので、アダム・スミス、ヘーゲル、ロック、マルクスまで遡っています。そこで、明らかにされるのは資本主義における「生産要素市場」の意味みたいなことになって、大きくピケティの『21世紀の資本』や斎藤幸平『人新世の「資本論」』という最近の読書も横糸として編み合わされてきます。一回読んで、理解出来ていないところ、多々ですが、自分が今、もやもや感じていることのアウトラインはこの薄い本に示されているような気がしています。もう一回。
Posted by ブクログ
経済の構造について述べた本。理系の書というよりは文系に内容が寄った書である。
AIが導入されることで結局世の中ってどのように変わるの?という点をマルクスなどを引用しつつ考察していく。マルクスのいう資本に知識を当てはめたり、機械化をAIに当てはめるなどの応用をしていくさまが見ていて楽しかった。
AIが発展していっても、結局その影響としては産業革命による機械化のときの影響の延長線上であるという点が自分にはない発想であった。結局のところ、AIが導入されることで生じることは、AIによる雇用減とAIによる生産性増大のみである。後者の影響が前者を上回れば問題としては生じないというスタンス。ただ、後者の利益が平等に配分されるような社会システムでないと不平等が蔓延してしまうという点には自覚的でなければならない。
他に、人-物の図式の中にAIが収まればいいが、人にも物にもAIが収まらず、その中間に位置し始めると身分制の再来が危惧されるという点が興味深いと感じた。AIよりも能力が上である人間と、能力が下である人間の両方が生じてしまうような状況下では、身分制が起こってしまうのは必至であろう。不平等を拡大させるという性質がAIにあるのだろうということに気づいた。すると、AIが人口に膾炙している現在・そして広く流布していく将来において、社会主義的思考が必要なのかもしれない。ただ、社会主義ではイノベーションは生まれにくい。従って、国民一人一人が不平等を是正する姿勢を見せることが大切なのかもしれない。
AIは、我々の善性を確かめる試金石となるのかもしれないと感じた。
Posted by ブクログ
人工知能の発達によって人間の仕事がうばわれるのではないかという問いかけがなされる現在において、あらためて労働をめぐる経済学や社会哲学における議論の蓄積のなかから、この問題について考えるための手がかりをとりあげなおし、人工知能がわれわれにもたらすインパクトの本質について考察をおこなっている本です。
著者は、ロックやスミス、ヘーゲル、マルクスなどの思想を渉猟し、資本主義における労働や疎外について彼らがいったいどのような思索を展開してきたのかということをたどっていきます。そうした枠組みを踏まえたとき、人工知能が人間の仕事をうばうという問題は、それが管理業務のようなものにまでおよぶことになるかもしれないとはいえ、従来の社会哲学において議論の対象となってきた枠組みのなかに収まるのではないかという見通しが示されます。
他方で、人工知能が道具以上の存在になって、人間の「内面」や「意識」にあたるものをそなえるようになったとすれば、現実には人びとに大きな葛藤をもたらすことになるとはいえ、それは人工知能を人間社会のメンバーに迎え入れることに対する抵抗感にもとづくものであり、本質的にあたらしい問題が生じるわけではないとされています。そのうえで、むしろ人間の「心」をもたないような人工知能にわれわれがかかわっていく場面において、人と物の二分法という枠組みそのものが問いなおされるという新たな問題が生じるのではないかという展望が示され、倫理学的な問題にまで踏み込んで考察がなされています。
人工知能についての問いを切り口にした、労働の思想史という印象です。