【感想・ネタバレ】昭和十七年の夏 幻の甲子園 戦時下の球児たちのレビュー

あらすじ

正史から抹殺された甲子園大会の「謎」に迫る!
昭和十七年夏の甲子園大会は、朝日新聞主催から文部省主催に変更。さらに、戦意高揚のため特異な戦時ルールが適用され、「選手」としてではなく「選士」として出場することを余儀なくされた。そして、大会後は「兵士」として戦場へ向かった──。球児たちの引き裂かされた青春の虚実を描くノンフィクション大作。

解説・岡崎満義

【目次より】
序章 開幕迄
第1章 満州のハーモニカ
第2章 とある予科練生の憂鬱
第3章 応召した監督
第4章 台湾から来たチーム
第5章 少年航空兵に憧れた主将
第6章 幻のホームラン
第7章 海軍航空隊の現実
第8章 戦時下の大記録
第9章 シベリア抑留
第10章 撃沈
第11章 真の最多得点記録
第12章 焼け落ちた優勝旗
第13章 一通の戦死公報
第14章 キノコ雲の下
第15章 最後の熱戦
第16章 それぞれの青春と戦争

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Posted by ブクログ

日本の夏の風物詩と言える高校野球が大戦の影響で中断された時期があるという事を知ったのは、中学生の頃に読んだ「紀元2600年のプレイボール」という大和和紀が描いた少女漫画だった。
昭和15年は神武天皇から始まった天皇の御代の皇紀2600年目にあたり、記念大会として盛大に開催された。「紀元2600年の〜」はそれを目指す若者たち(少々時代錯誤なメンバーなのだが)を描いていて、最終的には記念大会には出場できず、翌16年の大会が大戦の影響で中止され、選手たちも兵隊として招集されて・・・というストーリーだ。高校野球の再開は戦後昭和21年からである。
ところが、16年に中止となった高校野球は17年に1回だけ復活開催されていた。但し、主催が朝日新聞から文部省に変わり、「大日本学徒体育振興大会」という戦意高揚の国策が見え隠れする行事の一部としての復活開催であった。そのため朝日新聞主催の所謂夏の高校野球の「正史」には記録されていない「幻の大会」ということである。
本書はその幻の大会に代表校として出場した16校が戦った15試合の進行を辿りながら、選手や関係者に対するインタビューと残っている新聞記事を元に当時の選手や監督の想いを探って行き、当時の球児達の姿を浮かび上がらせる。
「野球は敵のスポーツだから、英語使うなとかの規制があったんでしょう」と安易に考えるのは歴史の複雑さというか機微を知らない。
もちろん、ユニフォームのローマ字表記が禁止されるなどの規制はあったが、まだ英語の使用は許されていた。そして、何よりも球児も観客も一体となってこの「野球」というアメリカ生まれのスポーツを楽しみたいという強い想いが戦争という陰鬱さに勝てていた時代だった。そういう時代の微妙なバランスを描けているのも本書の特徴かもしれない。
本書の中では、出場した選手たちがその後どうなったかについても語られている。もちろん、多くの選手は兵隊として招集され、あるものは命を落とし、ある者は生き残った。しかし、彼らにとっては戦争が幻ではなかったように、甲子園でも戦った大会も幻ではない。インタビューに答える人々の話は、皆等しく明るく、大好きな野球を思い切りで来た喜びに満ちている。
兵庫県の滝川中学の選手として出場した人が、戦後に進駐軍の米兵と野球の交流試合をした時に感じた感想が感慨深い。
「なぜこの人たちと殺し合う必要があったのだろう」

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2012年07月16日

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