【感想・ネタバレ】大尉の娘のレビュー

あらすじ

心ならずも地方連隊勤務となった青年グリニョーフは、要塞の司令官の娘マリヤと出会い、やがて相思相愛になる。しかし実父には反対され、プガチョーフの反乱が起こり、マリヤも囚われ、グリニョーフも捕虜になってしまう……。実直な老従僕、憎き恋敵、謹厳な“義父”とおおらかで勇敢な“義母”、情に厚い反乱の首謀者プガチョーフらを配し、最後に劇的な結末が訪れる歴史ロマンス。みずみずしい新訳で甦るプーシキン晩年の傑作。

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Posted by ブクログ

新訳のため主人公の口調が若者らしく軽さがあってとても読みやすいのですが、そんな語り口の中にも内乱の残酷さやその後の混乱などが直接感じられます。

【ロシア人名を覚えるための自己流三原則】
①個人名(洗礼名)+父称+名字
②愛称や名前の縮小がある。
③名前も名字も、男性名と女性名がある。
一人の人間に対していろいろな呼びかけが出てきますが、お互いの立場や親しさにより変わります。
 ●名前+父称は畏まった呼び方
 ●名字は一般的な呼び方


===
地方地主の息子ピョートル・グリニョーフは少年時代を「どら息子」としての生活を送り、軍務に就いたらペテルブルグで面白おかしく暮らすんだ☆と思っていた。だが16歳になった時、厳しい父アンドレイにより辺境で反乱が多発する地域、オレンブルグ地方のベロゴールスク要塞(架空)に送られる。
世話係として付き添うのは馬丁の老従僕のサヴェーリイチ。
慣れない荒野で彼らは大吹雪に合って遭難しかけたが、たまたま一人旅の男と一緒になったことから乗り切ることができた。ピョートルは旅の男に古外套を与える。


ベロゴールスク要塞の守備隊長はイヴァン・クジミーチ・ミローノフ大尉で、彼の女房ヴァシリーサ・エゴーローヴナはこの辺境の地の守備隊員の肝っ玉母ちゃんといった位置づけで、軍の会議なんかにも参加している。二人の間の一人娘がマーシャ(マリヤ)で、ピョートルは、大人しく恥ずかしがり屋だが感受性が豊かな彼女に恋をする。


この要塞にはピョートルと同年齢のアレクセイ・イヴァーヌイチ・シヴァーブリンがいる。彼は殺人によりこの要塞に左遷されていて、明るく強いんだけど、ピョートルはどこかいけ好かないところを感じている。シヴァーブリンがマーシャを馬鹿にしたことで二人は決闘騒ぎを起こす。どうやらシヴァーブリンはマーシャにいいよっていたけれど断られていて、ピョートルがマーシャに近づくことを阻止したかったらしい。


そんなころベロゴールスク要塞に「亡き皇帝ピョートル三世の名を語るプガチョーフ率いる反乱軍が攻撃してくる」との知らせが入る。


えーっと、一度時代背景確認。
❐ロシア帝国 皇帝、女帝
●1730年から1740年:アンナ・ヨアーロヴナ
●1741年から1961年:女帝エリザヴェータ
●1762年の半年間:ピョートル三世
妻のエカテリーナ派から朝廷クーデターを起こされて殺害される。
●1762年から:エカテリーナ二世


❐反乱
●1741年 バシキール地方の反乱
●1772年 ヤイーク・コサックによるロシア帝国への反乱
●1773年から1775年 プガーチョフの反乱
プガーチョフが、死んだピョートル三世の名前を僭称し、農奴や労働者、地方民族(キルギス人、タタール人など)を率いて反乱を起こした。


そんな時代背景で、次々勃発する反乱軍を抑える辺境要塞を率いるミローノフ大尉とヴァシリーサ・エゴーローヴナ夫妻の素朴な家族経営的軍隊運営、そして戦いになったら覚悟を決める強さと、悲惨な結末が印象的です。
このあとプガチョーフ反乱軍は要塞を攻撃し、多勢に無勢の要塞はあっけなく崩れて警備兵たちは囚われ、プガチョーフに従わない者たちは処刑されていく…。


この翻訳は現代的な読みやすい若者口調であるんだけど、事実を事実として残酷な処刑やら捕虜の身体に見える拷問の痕跡やらを語る…。酷いもんだ、僕の手記を読む君たちよ、思い出してくれ、<最良の、最も確実な変革とは、習俗の改良から生じるものだ。暴力による変動なんて一切いらない。(P108)>


しかしピョートルは処刑を免れた。なんと、要塞に向かう途中の大吹雪で道を共にした旅人がプガーチョフ本人だったのだ!
プガーチョフは、大吹雪で自分に親切にしたピョートルに個人的好意を持ち配下になるように言う。だがピョートルは「僕は貴族として女帝陛下に忠誠を誓っているから、あんたの配下にはなれない。僕のことを思ってくれるならこのまま行かせてほしい」と申し出て、二人は今後敵として出会うかもしれないけど、今後のことは神様の思し召し、ってことで別れる。
その時、マーシャは農夫の娘のフリをして神父に匿われていた。だがさっさと裏切ってプガーチョフの配下に入ったシヴァーブリンはマーシャに「助かりたければ自分の妻になれ!」と迫っていたのだ。


プガーチョフの元から、ロシア帝国軍のいる要塞に合流したピョートルだが、マーシャが強引にシヴァーヴリンの妻にさせられそうだと知って、老従僕サヴェーリイチと共にベロゴールスク要塞に戻る。
あっさり捕まって再度プガーチョフの前に引き出されたピョートルは覚悟を決めて「私の婚約者がシヴァーヴリンの妻にさせられそうだ。ここから連れ出させてほしい」と伝える。
シヴァーヴリンは腹いせ?に「この娘は農夫の娘じゃなくて、要塞のミローノフ大尉の娘だ!」と暴露。
でもプガーチョフは、コソコソしているシヴァーヴリンよりも、正直なピョートルを信じて二人を開放する。


…冒頭のピョートルは「都会で楽しく暮らすぜ☆ ついつい掛けで失っちゃったけど気にしない騎士にない☆」という見通しの甘いどら息子だったけど、道中で行きあった男(プガーチョフ)にお礼を渡すなどの貴族としての礼儀とおおらかさを見せ、マーシャを助けようとしてからは、ロシア帝国と女帝に忠誠を誓った軍人として自主的に行動を起こすようになっている。
しかしこの時点で、題名になっている大尉の娘であるマーシャは控え目すぎてあまり個性がないんだよなあ。(両親処刑され、自分の身も危ないとなったら隠れたり倒れたりするのは当然だけど)


ピョートルは、老従僕サヴェーリイチをマーシャに付き添わせて、自分の両親の屋敷に送らせる。そして自分はプガーチョフの反乱軍との戦いに加わるために要塞に戻った。


戦いはやはり数と統制で有利なロシア帝国軍の勝利に向かっていく。だが行く先々でピョートルは残酷な暴力の痕跡、その後の無秩序な状態を見るのだった。


※※※※最終原稿には残らなかった「省かれた章」がここに加わる。
そこではピョートルが自分の父の領地に行くと、農夫たちはぽがーチョフに同調して反乱に加わり、ピョートルの屋敷は焼き払われ、処刑された土地管理人の死体がぶら下がっている光景を目撃する。
そしてピョートルの両親とマーシャは捕らえられて納屋に閉じ込められていた。そしてぽがーチョフ反乱軍の指揮官はシヴァーヴリンだった!積年の恨みが重なり、ピョートル一家に「降参するか、焼き殺されるか」を迫る!
マーシャは「自分が彼のもとに行って話をする」と言うが、ピョートルの父が「貴族としてそんなことはできん!戦うぞ!」と決意。
これがうまくいき、ピョートルと父がシヴァーヴリン相手に戦っている所に要塞から援軍が間に合い、シヴァーヴリンは捕縛される。
この部分が最終原稿には残らなかった※※※※※※


さて、反乱は鎮圧された。
だがピョートルはプガーチョフの客人であったことからスパイと疑われて裁判にかけられることに。ピョートルを讒言したのは先に捕まっていたシヴァーヴリンだったのだ。
ピョートルは、プガーチョフとの関係は正直に答えたが、マーシャのことは彼女の名誉のために黙秘した。それが疑われてしまう。


知らせを聞いたマーシャは、帝国の宮廷に行き、女帝陛下に直訴すると決意する。


…それまで受け身だった(状況を考えると仕方ないけど)マーシャが決意の行動に!
女帝の女官とうまく知り合うことにも成功。やるじゃん!
マーシャが宮廷の庭を散歩していると優しそうな貴婦人がいて話を聞いてくれた。そして「私から女帝陛下にお伝えしましょう」と協力を申し出てくれる。
…大半の読者が想像した通り、この貴婦人が女帝エカテリーナ御本人でした。
マーシャの訴えが聞いてもらえたのは、両親ミローノフ大尉とヴァシリーサ・エゴーローヴナ夫妻が命懸けで戦い一歩も惹かずに処刑されたことが認められていたからだった。そして田舎の気の良い初老の大尉と女将さんが、「ミローノフ大尉といえば、あの!」と言われるくらいの大人物だった。辺境を守る軍人のことは中央集権でもちゃんと分かってるのね。




さて、あとは大団円へ向かうのみ。
女帝はマーシャの訴えを聞き入れピョートルを放免。
それから割とすぐにプガーチョフは捕らえられ処刑された。その場にいたピョートルとは目と目で通じ合った。


そして間もなくピョートルとマーシャは結婚したのだった。


===
プーシキンはプガーチョフの反乱、そもそも戦乱自体には批判の目を向けているだろう。
都合の良い側に就くシヴァーブリン、反乱だと言われれば乗っかって残虐行為に及ぶ農奴たち(だが領主が戻ってくると割とあっさり元に戻る)、そして反乱が収まったあとにピョートルが見た無秩序の国土への嘆き。反乱軍、鎮圧軍が入り乱れるために地方の統制は混乱状態、誰の命令を信じたら良いのかも不明。
<このロシアの反乱、無意味で無慈悲な反乱は、神様、もう二度と見たくありません!(P219)>
しかし小説でのプガーチョフ本人には個人では相手の名誉や友情を認める気っ風の良さを書いているんだよなあ。


「省かれた章」を入れても300ページ程度の中編なのにかなり濃厚だし、スパスパと話が進んで読みやすいし、登場人物たちは印象的、お硬い話だと思っていたら新訳だからかもしれないけどとても読みやすく、その読みやすい口調でありながら戦乱の酷さも書かれていてとても良かったです。

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2026年10月07日

Posted by ブクログ

昔宝塚で舞台になったと知り、そちらを先に観て面白かったので読んでみました。
主人公ピョートルは幼いながらも肝が据わっていて、貴族としての矜持も持ち合わせており、プガチョフもやっていることは残忍だが義理堅く強い男で、二人がこの戦いとは違うところで出会えていたらなあ。
この頃の物語は女が添え物のように扱われがちだけど、大尉の妻も娘も芯がありピョートルと同じく肝が据わっていてかっこいい。

こういう外国小説?を読むと、注釈で現地の習俗を知れて面白い。翻訳もピョートル視点の若々しい文体で読みやすいが、ロシア特有の似たような名前が多くて時々混乱する。

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2026年01月27日

Posted by ブクログ

ロシアの大家、プーシキンの戦争、そして恋愛を描く作品。序盤は平和な雰囲気だが、恋人マリアどの出会いの後、ならず者のプガチョーフが攻め入って来るところからいきなりシリアスな展開に。主人公、グリニョーフの勇気と信念、可憐なマリア、主人公との複雑な関係を形成するプガチョーフ、恥知らずで悪役のシヴァーブリン、そして主人公に忠実な召使いで大活躍するキーマンのサヴェーリイチ。皆キャラがたっている。展開も単純明快、ダイナミックかつとてもスピーディだし、風景描写もよい。
注釈がふんだんに記され、小説の背景となった史実である「プガチョーフによる農民戦争」に興味が高まり、解説を読むととこれがまた深い考察と取材によるもので、興味深い。
本小説で主人公とシヴァープリンとの決闘シーンがあるが、残念なことにプーシキンその人も決闘により若い命を散らしているのに驚く。

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2023年01月21日

Posted by ブクログ

ドストエフスキーを読んでいると、解説にプーシキンの話がよく出てきて、やはり プーシキンが当時 非常に 評価されていたということで 読んで 見たんです
あと 宝塚で黒い瞳というのが この本を 原作にしていたというので。
中身としては非常に流れがよく盛り上がりがあり 文章も流麗でいいと思うんです。ドストエフスキーのような難解さはなく、読みやすい。ただし、グロい。ロシア人さんの行動がそうなのか、表現が強いのか分かりませんが、コサックが暴れる場面は容赦ない描写です。姫を助ける騎士の冒険みたいな、やや古風な中身は、キラキラ感がありつつも、ドストエフスキーの深さというかぶち込み感とは全然違う世界観だなあと思いました。
ただ、リアリティという点の人間模様に関する着眼は非常に鋭い。文章力や構成力が強いと、するする読める流れの良さで、ついつい出来過ぎ感が出てきてしまうのですが、フィクションという虚構世界に温かみも残虐さも含めて納得のリアリティ感が併存しているのが、プーシキンの良さなのではないかと思います。

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2025年08月04日

Posted by ブクログ

必要に迫られて読んだが、とっつきやすくてホッとした。
(岩波の同書も入手したのでいずれ読み比べます)
プーシキンはおそらく初めて読んだ。
ロシア文学自体、あまり熱心に読んでこなかったジャンル。
今後も長編には手を出せないと思うが、米原万里のおかげでロシア文学のイメージはかなり向上した。

ロシア文学といえば、雪と血と酒とカネのイメージで、本作もだいたいそんな感じだ。
粗筋のわりには、読後にはなぜか悲壮さが薄まっているのがプーシキンの手腕かもしれない。歌や恋や友情、忠義がうまく入り込むからだろうか。

前半は危なっかしいおぼっちゃまの任地への旅で、大丈夫かこれ、の連続。
話そのものはスルスル進む。章のはじめの歌の引用が効果的。
マリヤの登場でいきなりロマンスに舵を切ったと思ったら、プガチョフの乱で物語は急転する。
容赦なく激しいバイオレンスと、主人公サイドの綱渡りが続く。

全編を通して、じいや役がいいキャラクターで気に入った。
お金にうるさく、主人公のことを何より気にかけている。
隻眼の老軍人もいい。実質、要塞のボスだった老女もいい。(だからこそ、淡々と処理されるあのシーンは辛かった。)
プガチョフも非常に筋が通っていて、清々しいほど。最終章での彼もヒーロー役の最期のよう。
この性格は、昨年よく読んだ海賊ものでみかけるアウトローたちに通じるものがあった。(雪のせいで外界と閉ざされやすい状況になるのか、力関係が一瞬でひっくり返る怖さがある。)
アウトローたちは、力に恃むところがある一方で、義理堅く、信心深く、純粋な子供のようでもある。
簡単に裏切るものも多い一方で、内通者が二重スパイのようになり、マリヤの手紙を届けてくれるなど、意外といいやつだったする。

それにしても、主人公の流れを見て、行きずりの人にも親切にしておいたほうがいい、とよく分かった笑。

光文社では新訳で噛み砕かれていて読みやすい上に、注釈が親切でありがたかった。
ロシアものといえば、名前がわかりにくい、名前と愛称の離れっぷりも読みづらいという印象があったが、この本ではそのあたりを丁寧に説明してくれた。

プガチョフの乱は、この作品が書かれた時期より50年ほど前の史実で、プーシキンはこまかく取材をして書いてきたらしい。30代で決闘で死んだプーシキンにはもちろん生まれる前の世界だ。プガチョフの乱をメインにしたプーシキンの史記もあるとはじめて知った。
今で言えば50年前は、キューバ危機とか万博、オイルショックくらいか。十分昔だと思える。

本書はこまかい注釈のほか、巻末の解説も楽しい。
解説にあるように、中国作品ぽさが三割、ヨーロッパ作品の味が七割、と大昔の翻訳者が言うように、ところどころ、三国志でも読んでいる気がした。そこを生かした大昔の翻訳ネームが苦心の跡が見えて興味深い。

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2021年07月10日

Posted by ブクログ

主人公は貴族出身の将校。
コサックの発起を鎮圧する立場で、捕まった時には首をはねられる運命だった。
敵と味方。人として関わりがなければ物事は単純だが、首領と主人公は顔見知りで助かる。という話でオケ?
結局コサック達のいきつくところってのは決まっている。征服。それは死ぬまでやったやられたで、終わりがないんだよねー。そういった意味で自分は絶対嫌だし、それゆえに遊牧民、その話に大きく惹かれてしまうんだよー

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2020年02月20日

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