あらすじ
――私の考える心理学的経営とは、いわば経営リアリズムであって、まず、人間を人間としてあるがままにとらえるという現実認識が出発点なのである。――(序章より) 人間をあるがままにとらえる「個性化」と「活性化」のマネジメントとは。江副浩正氏のもと、リクルートで30年にわたり組織における人間の「感情」や「個性」を深く追求した著者の、実務と研究に基づく全く新しい経営論。1993年に刊行された本書は今なお、「人材経営」の原点として求める声が多い。四半世紀の時を越え、電子書籍・プリントオンデマンドで遂に復刊。
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Posted by ブクログ
心理学経営、行動心理学のなかでも非常にコアであり、上級者向け。
基礎的な心理学を覚えていないと、振り落とされるハードな一冊だった。ほとんどの説明はすっ飛ばして、深い考察がメインになっている。
書にも書いてあったが、心理学には知って損するものがない。
▼心理学的経営とは
人間の行動は、いわばノイズとしての無駄な情緒や感情を根底にもつことに本質がある。
矛盾に満ちた不合理な存在としての人間を知り、心理的事実を受け入れることから心理学的経営は始まる。
▼心理学をあるがままに受け止めない。
有名な心理学は、まま受け止めるのは本質からずれている。学ぶことは重要だが、十人十色である。
XY理論のような有名なモチベーション理論はあるが、それは人間をあるがままに捉えていない。人間は多面性を持ち、どちらの性質ももっている。
▼とはいえ動機付けの本質はアカデミック通り
仕事において、人々を内発的に動機付けるのは、ハーズバーグのモチベーション理論を基礎として抑えておきたい。
・自分に仕事を自分なりのやり方でと取り組み、
・枠組みの中でも、自分なりのチャレンジを行い、
・自分でスタートからゴールまで統制している気分をあじわえ、
・責任を持たされ、
・成長を実感できる
・それが上司や同僚に認められる
ーリクルートの動機付けー
リクルートの若者の優秀さはハーズバーグの動機付け要因や5つの職務次元の中に見出せる。自由な風土のなかに心理学的な仕組みがある。
(1)自己有能性:仕事を通じて自分の効力を実感できる
(2)自己決定性:自分で考え計画し実行する
(3)社会的承認性:職場の仲間や上司に理解され認められる
▼職務特性モデル
人々を強くモチベートするのは、仕事の環境的条件ではなく、仕事そのものにあり、特に内発的動機付け設計にある。
その設計と、達成感・成長感、他者からの承認が得られる仕組みがあることが重要である。
ー職務設計の中核的5次元ー
(1)スキルの多様性
その仕事を遂行するために、どれくらい様々なスキルが求められるかという観点。
そなわち、ほとんどの誰にでもできるような仕事ではなく、必要とされる能力や技能が多いほどに内発的動機が高まる。
(2)業の一貫性
自分の仕事が大きな流れの1つに過ぎないか、はじめから終わりまで一貫して携われる一定のまとまりのある仕事なのか。
自分の仕事はこういう仕事である。と自覚を持てる仕事は内発的動機が高まる。
(3)仕事の有意義性
自分の仕事は、いかほどの意味のあるものなのか。周囲にどれほその影響を与えているのか。
組織にとってなくてはならぬ仕事なのか、とるに足らないしごとなのか。
自分の仕事は価値があり重要だと感じるほどに、内発的動機が高まる。
したがってマネージャーは、それがどのようにチームや組織、会社や社会に影響を与えているかを話し、示す必要がある。
(4)自律性
自分の仕事を、どれほど裁量をもって自分で進められるのか。
人からあれこれ言われずに、自分の考えや意思によって段取りできるか。
自律性をもつほど内発的動機が高まり、さらにその効用は責任感を生み、責任感が高まるとさらに内発的動機が高まる。
(5)フィードバック
他者からの称賛や評価はもちろん、自分自身で、自分の仕事の成果を確かめられるのか。
ー職務事象の満足・不満足要因ー
・職務事象の満足度は「達成→承認→仕事そのもの→責任→成長」が要因となり高まりやすい。会社の制度や上司、給与などは大きく起因しない。
・職務事象の不満度は会社の制度→上司→上司との関係性、作業条件の順に高まる。
・最強の動機付けは、仕事に自分なりのやり方で取り組み、達成し、さらに重い仕事を任され、自分の成長を体験。結果を上司や同僚に認められる、人事上の評価につながる、成長のフィードバックを受ける という一連のループ。
▼組織活性化の5原則
固定化した階層組織、型にはまった役割、規則・制度・ルールなどの「管理」された組織をつくることはとても重要、そしてそれを壊そうとする状態こそが最も組織が活性化している状態である。
ルールやマニュアル、ビジネスビジョンなどを自分たちで創らすことが秩序を良い意味で壊す無秩序であり、この秩序と無秩序のループこそカオスであり、カオスは活性化を生み出す。
・まず「採用」
採用こそが、組織活性化の要である。
採用するという行為だけではなく、リクルーティング活動そのものが組織にとってまたとない活性化につながる。
必要な人材の洗い出しは、課題や強みのわかりやすい再認識に繋がる。さらにリクルーティング活動は、あらゆる方法論の検討につながり、事業以外で思考しやすく向き合いやすい材料である。
・人事異動
組織に波をたてることは、活性化で原則である。
多様な視点や能力を得られることはもちろん、後任育成や抜擢効果が強制的に見込める。ローテーションを日常施策にすれば、多様な側面で会社や組織を理解できる。
もちろん現場に混乱や波乱がやってくるが、それこそ成長の源泉であり、再現性ある組織づくりにも繋がる。
・教育、小集団活動、イベント。
活性化で必要な残りの要素であり、仕組みや設計を行うべき。ただし、『採用』『人事異動』に比べればインパクトは低い。それでも重要な要素だと認識はするべき。
小集団は、対面的小集団(5人以内でお互いを認知できる集団)を指し、自我関与と意思決定の重みをつけることで活性化に繋がる。そうしなければ、モラルやポテンシャルはリーダーに左右されすぎる集団に成り下がるデメリットも存在する。
ーホーソン効果ー
特別に選ばれた集団は、モラルもパフォーマンスも最大化しやすい。
したがって、タスクフォースや新規事業を非連続で行うことは、成長を促進する。
しかし、選ばれなかった人間には負もうまれる事を見過ごしてはいけない。
ーピーターの法則ー
能力や結果主義の階級社会において、誰しもが有能さを発揮できていた地位から、無能ぶりを露呈する限界の地位まで昇進するという真実。「なんであいつ部長にしたんだ」は課長では優秀だったからである。大規模組織では避けられない法則であり、だからこそ抜擢や降格、異動を実行しない組織は破滅する。
▼オハイオ研究によるリーダーに必要な4因子。
「配慮」メンバーを理解・尊重し、友好的で温かな思いやりをしめす。
「体制指導」メンバーの役割を明確にし、指示し、組織化する行動。
「生産強調」目標に対して、集団の生産を高める行動。
「感受性」周囲の状況や圧力に関する、社会的感覚。
生産強調は、基本的にリーダーとなる人材はもつことが大きく、感受性は他リーダー因子よりも寄与率が低いことは明らかになっている。
つまり、「配慮」と「体制指導」がある人材は、偉大なリーダーとして活躍しやすい。
ることは、実務上計り知れない効果がある。
▼プライドは高いのに仕事ができない人材を変える3つの方法
プライドは高いのに仕事の成果が伴わない人材は、組織の雰囲気を硬直化させ、生産性を大きく損なう要因となる。理由は単純で、本人のプライドと実力の乖離が、強い防衛反応や周囲への否定的態度を生むからである。
しかし、このタイプの人材は「プライドが高い」のではなく、「自信が不安定」である。ここを見誤ると管理は失敗する。「自信の5階層モデル」を軸に理解すると、人材育成の道筋が明確になる。特に、自己有能感・自己効力感・自己肯定感という“基礎的心理資本”の不足を補うことが第一歩となる。
このタイプに対して、管理施策を打つ前に、まず本人の心の状態を理解し、気持ちに寄り添う姿勢を持つことが重要である。人間の行動は非合理であり、防衛的になる背景には必ず理由がある。この構造理解が、心理学的経営の出発点である。
ープライドが高い人材に共通する3つの特徴ー
1.指摘を受けると防衛的・攻撃的になる
自分の価値が脅かされると強い反応を示し、合理性よりも感情的防衛を優先する。
2.助言を素直に受け取れない
自身の脆さを認めることを恐れ、外部からの知識や指示を拒否する。
3.変化を極端に拒む
変化は自己価値の崩壊につながる恐怖を呼び起こすため、「これって意味あります?」という否定から入る。
こうした態度は、役職が高いほど組織の萎縮を招く。「いや違います」「でも」は、自分を守るための発言であり、背景には“傷つきやすい自己”がある。
ー自信の5階層モデルからみるマネジメント基本のキー
ステップ1:自己有能感(“できた”の積み重ね)
基礎は、レンガを積むような「できた!」の積み重ねである。
「自分で決めたことを自分で成し遂げた」という成功経験が極端に少ない人材は、自己有能感を培いにくい。親や社会の指示通りに生きてきたタイプは、この土台が不足している。組織ではまず“自分で決めて、自分でやり切る小さなタスク”から設計する必要がある。
ステップ2:自己効力感(“自分はやればできる”という感覚)
タスクはこなしていても、ポジティブなフィードバックを受けていない場合、自己効力感は形成されない。
結果だけを褒められた経験が多い人は脆くなる。「90点取った頑張り」を評価されるか、「95点じゃないと駄目」と言われ続けたか。この差が大きく影響する。
管理者は外的成果ではなく、内的要因──努力・工夫・姿勢──を言語化してフィードバックすることが重要である。
ステップ3:自己肯定感(“うまくいかなくても価値がある”という感覚)
成果主義の強い職場では、「結果が出ない=価値がない」という誤学習が起こりやすい。
「失敗しても価値は揺らがない」「むしろ失敗からの学習こそ評価する」という姿勢を上司が明示することで、自己肯定感は形成される。
このステップが欠落している人材は、挑戦を避けるようになる。失敗=価値の喪失だからである。
ー組織が取るべき3つの打ち手(実務的アクション)ー
1. スモールステップで成功体験を積ませる(自己有能感の回復)
新人・若手・プライド過多の人材に対しては、まず「できたと確認できる仕事」を細かく設定することが重要である。週次で進捗確認し、「できた」を言語化して承認する。ここが最重要であり、ここを飛ばしてはいけない。
2. 内的要因へのポジティブフィードバックを徹底する(自己効力感の回復)
外的成果ばかり褒めると、成果が出ない時に自信は崩壊する。努力・忍耐・工夫・姿勢といった“再現可能な内的要因”を肯定し、それを継続できる本人の力を評価する。これが行動の継続意欲を支える。
3. 失敗の共有と感謝で自己肯定感を育てる
目標未達でも価値が下がらないことを明確に伝える。上司が率先して失敗を言語化し、「その挑戦をしてくれたおかげで、組織は学習できた」と感謝する。
これが、本人の“存在の安定”を作り、挑戦と学習のサイクルにつながる。
「もっと大事なことがある。それは影響力だ。おまえはちゃんと後輩指導もしてくれているから、達成をすること以上に、そっちのほうが我々は尊いと思っている。達成もちゃんとしてね。でも外しても大丈夫。」『それは影響力だ。おまえはちゃんと後輩指導もしてくれているから、』の部分を変えると汎用性高い。
まとめると、プライドが高く仕事ができない人材は「プライドが原因」なのではなく、心理的な基礎資本(有能感・効力感・肯定感)が不足している。その不足を補う設計ができるか否かが、マネジメントの実力である。
ー行動で見極めるー
打ちての初手であるスモールステップにおいて、行動促進を強く幾度か求め、それでも行動しなけば諦めるべきである。行動しないほど偏見や固定概念が多い。やってみればわかることを、自分では動かないので見直されることがない。思考の柔軟性は、実は行動量に依存している。(逆に言えば、思考が柔軟な人間は多角的な行動量を担保している。)