あらすじ
――私の考える心理学的経営とは、いわば経営リアリズムであって、まず、人間を人間としてあるがままにとらえるという現実認識が出発点なのである。――(序章より) 人間をあるがままにとらえる「個性化」と「活性化」のマネジメントとは。江副浩正氏のもと、リクルートで30年にわたり組織における人間の「感情」や「個性」を深く追求した著者の、実務と研究に基づく全く新しい経営論。1993年に刊行された本書は今なお、「人材経営」の原点として求める声が多い。四半世紀の時を越え、電子書籍・プリントオンデマンドで遂に復刊。
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Posted by ブクログ
心理学経営、行動心理学のなかでも非常にコアであり、上級者向け。
基礎的な心理学を覚えていないと、振り落とされるハードな一冊だった。ほとんどの説明はすっ飛ばして、深い考察がメインになっている。
▼心理学的経営とは
人間の行動は、いわばノイズとしての無駄な情緒や感情を根底にもつことに本質がある。矛盾に満ちた不合理な存在としての人間を知り、心理的事実を受け入れることから心理学的経営は始まる。
「心理学的経営にとって大切なのは、キレイごとではすまない現実の世界でアシビバレントなコンフリクトを受容し、それを乗り越えるヒューマニズムではないだろうか。何人も人間の真実を避けては通れないのである。」
『不合理と不条理に満ちた人間』『どろどろとした現実』を直視する現実認識が出発点。
そして組織と個人の関わりのなかで、各人の『自我関与』を可能な限り高めることに鍵があると主張する。
自我関与とは、心理学用語である事柄を自分のもの、もしくは自分に関係するものと捉えること。つまり、仕事や組織のことを『我がこと』と感じるようにする、ということです。
▼心理学をあるがままに受け止めない。
有名な心理学は、まま受け止めるのは本質からずれている。学ぶことは重要だが、十人十色である。
XY理論のような有名なモチベーション理論はあるが、それは人間をあるがままに捉えていない。人間は多面性を持ち、どちらの性質ももっている。
▼とはいえ動機付けの本質はアカデミック通り
仕事において、人々を内発的に動機付けるのは、ハーズバーグのモチベーション理論「二要因論」と、ハックマンとオルダム「職務設計の中核五次元」を基礎として抑えておきたい。
・自分に仕事を自分なりのやり方でと取り組み、
・枠組みの中でも、自分なりのチャレンジを行い、
・自分でスタートからゴールまで統制している気分をあじわえ、
・責任を持たされ、
・成長を実感できる
・それが上司や同僚に認められる
ーリクルートの動機付けー
リクルートの若者の優秀さはハーズバーグの動機付け要因や5つの職務次元の中に見出せる。自由な風土のなかに心理学的な仕組みがある。
(1)自己有能性:仕事を通じて自分の効力を実感できる
(2)自己決定性:自分で考え計画し実行する
(3)社会的承認性:職場の仲間や上司に理解され認められる
▼職務特性モデル
人々を強くモチベートするのは、仕事の環境的条件ではなく、仕事そのものにあり、特に内発的動機付け設計にある。その設計と、達成感・成長感、他者からの承認が得られる仕組みがあることが重要である。
ー職務設計の中核的5次元ー
(1)スキルの多様性
その仕事を遂行するために、どれくらい様々なスキルが求められるかという観点。
そなわち、ほとんどの誰にでもできるような仕事ではなく、必要とされる能力や技能が多いほどに内発的動機が高まる。
(2)業の一貫性
自分の仕事が大きな流れの1つに過ぎないか、はじめから終わりまで一貫して携われる一定のまとまりのある仕事なのか。
自分の仕事はこういう仕事である。と自覚を持てる仕事は内発的動機が高まる。
(3)仕事の有意義性
自分の仕事は、いかほどの意味のあるものなのか。周囲にどれほその影響を与えているのか。
組織にとってなくてはならぬ仕事なのか、とるに足らないしごとなのか。
自分の仕事は価値があり重要だと感じるほどに、内発的動機が高まる。
したがってマネージャーは、それがどのようにチームや組織、会社や社会に影響を与えているかを話し、示す必要がある。
(4)自律性
自分の仕事を、どれほど裁量をもって自分で進められるのか。
人からあれこれ言われずに、自分の考えや意思によって段取りできるか。
自律性をもつほど内発的動機が高まり、さらにその効用は責任感を生み、責任感が高まるとさらに内発的動機が高まる。
(5)フィードバック
他者からの称賛や評価はもちろん、自分自身で、自分の仕事の成果を確かめられるのか。
ー職務事象の満足・不満足要因ー
・職務事象の満足度は「達成→承認→仕事そのもの→責任→成長」が要因となり高まりやすい。会社の制度や上司、給与などは大きく起因しない。
・職務事象の不満度は会社の制度→上司→上司との関係性、作業条件の順に高まる。
・最強の動機付けは、仕事に自分なりのやり方で取り組み、達成し、さらに重い仕事を任され、自分の成長を体験。結果を上司や同僚に認められる、人事上の評価につながる、成長のフィードバックを受ける という一連のループ。
▼組織活性化の5原則
固定化した階層組織、型にはまった役割、規則・制度・ルールなどの「管理」された組織をつくることはとても重要、そしてそれを壊そうとする状態こそが最も組織が活性化している状態である。
ルールやマニュアル、ビジネスビジョンなどを自分たちで創らすことが秩序を良い意味で壊す無秩序であり、この秩序と無秩序のループこそカオスであり、カオスは活性化を生み出す。
・まず「採用」
採用こそが、組織活性化の要である。
採用するという行為だけではなく、リクルーティング活動そのものが組織にとってまたとない活性化につながる。
必要な人材の洗い出しは、課題や強みのわかりやすい再認識に繋がる。さらにリクルーティング活動は、あらゆる方法論の検討につながり、事業以外で思考しやすく向き合いやすい材料である。
・人事異動
組織に波をたてることは、活性化で原則である。
多様な視点や能力を得られることはもちろん、後任育成や抜擢効果が強制的に見込める。ローテーションを日常施策にすれば、多様な側面で会社や組織を理解できる。
もちろん現場に混乱や波乱がやってくるが、それこそ成長の源泉であり、再現性ある組織づくりにも繋がる。
・教育、小集団活動、イベント。
活性化で必要な残りの要素であり、仕組みや設計を行うべき。ただし、『採用』『人事異動』に比べればインパクトは低い。それでも重要な要素だと認識はするべき。
小集団は、対面的小集団(5人以内でお互いを認知できる集団)を指し、自我関与と意思決定の重みをつけることで活性化に繋がる。そうしなければ、モラルやポテンシャルはリーダーに左右されすぎる集団に成り下がるデメリットも存在する。
ーホーソン効果ー
特別に選ばれた集団は、モラルもパフォーマンスも最大化しやすい。
したがって、タスクフォースや新規事業を非連続で行うことは、成長を促進する。
しかし、選ばれなかった人間には負もうまれる事を見過ごしてはいけない。
ーピーターの法則ー
能力や結果主義の階級社会において、誰しもが有能さを発揮できていた地位から、無能ぶりを露呈する限界の地位まで昇進するという真実。「なんであいつ部長にしたんだ」は課長では優秀だったからである。大規模組織では避けられない法則であり、だからこそ抜擢や降格、異動を実行しない組織は破滅する。
▼オハイオ研究によるリーダーに必要な4因子。
「配慮」メンバーを理解・尊重し、友好的で温かな思いやりをしめす。
「体制指導」メンバーの役割を明確にし、指示し、組織化する行動。
「生産強調」目標に対して、集団の生産を高める行動。
「感受性」周囲の状況や圧力に関する、社会的感覚。
生産強調は、基本的にリーダーとなる人材はもつことが大きく、感受性は他リーダー因子よりも寄与率が低いことは明らかになっている。つまり、「配慮」と「体制指導」がある人材は、偉大なリーダーとして活躍しやすい。
リーダーシップとは影響力であり、4因子に起因してリーダーシップが発揮される。
▼プライドは高いのに仕事ができない人材を変える3つの方法
プライドは高いのに仕事の成果が伴わない人材は、組織の雰囲気を硬直化させ、生産性を大きく損なう要因となる。理由は単純で、本人のプライドと実力の乖離が、強い防衛反応や周囲への否定的態度を生むからである。
しかし、このタイプの人材は「プライドが高い」のではなく、「自信が不安定」である。ここを見誤ると管理は失敗する。「自信の5階層モデル」を軸に理解すると、人材育成の道筋が明確になる。特に、自己有能感・自己効力感・自己肯定感という“基礎的心理資本”の不足を補うことが第一歩となる。
このタイプに対して、管理施策を打つ前に、まず本人の心の状態を理解し、気持ちに寄り添う姿勢を持つことが重要である。人間の行動は非合理であり、防衛的になる背景には必ず理由がある。この構造理解が、心理学的経営の出発点である。
ープライドが高い人材に共通する3つの特徴ー
1.指摘を受けると防衛的・攻撃的になる
自分の価値が脅かされると強い反応を示し、合理性よりも感情的防衛を優先する。
2.助言を素直に受け取れない
自身の脆さを認めることを恐れ、外部からの知識や指示を拒否する。
3.変化を極端に拒む
変化は自己価値の崩壊につながる恐怖を呼び起こすため、「これって意味あります?」という否定から入る。
こうした態度は、役職が高いほど組織の萎縮を招く。「いや違います」「でも」は、自分を守るための発言であり、背景には“傷つきやすい自己”がある。
ー自信の5階層モデルからみるマネジメント基本のキー
ステップ1:自己有能感(“できた”の積み重ね)
基礎は、レンガを積むような「できた!」の積み重ねである。
「自分で決めたことを自分で成し遂げた」という成功経験が極端に少ない人材は、自己有能感を培いにくい。親や社会の指示通りに生きてきたタイプは、この土台が不足している。組織ではまず“自分で決めて、自分でやり切る小さなタスク”から設計する必要がある。
ステップ2:自己効力感(“自分はやればできる”という感覚)
タスクはこなしていても、ポジティブなフィードバックを受けていない場合、自己効力感は形成されない。
結果だけを褒められた経験が多い人は脆くなる。「90点取った頑張り」を評価されるか、「95点じゃないと駄目」と言われ続けたか。この差が大きく影響する。
管理者は外的成果ではなく、内的要因──努力・工夫・姿勢──を言語化してフィードバックすることが重要である。
ステップ3:自己肯定感(“うまくいかなくても価値がある”という感覚)
成果主義の強い職場では、「結果が出ない=価値がない」という誤学習が起こりやすい。
「失敗しても価値は揺らがない」「むしろ失敗からの学習こそ評価する」という姿勢を上司が明示することで、自己肯定感は形成される。
このステップが欠落している人材は、挑戦を避けるようになる。失敗=価値の喪失だからである。
ー組織が取るべき3つの打ち手(実務的アクション)ー
1. スモールステップで成功体験を積ませる(自己有能感の回復)
新人・若手・プライド過多の人材に対しては、まず「できたと確認できる仕事」を細かく設定することが重要である。週次で進捗確認し、「できた」を言語化して承認する。ここが最重要であり、ここを飛ばしてはいけない。
2. 内的要因へのポジティブフィードバックを徹底する(自己効力感の回復)
外的成果ばかり褒めると、成果が出ない時に自信は崩壊する。努力・忍耐・工夫・姿勢といった“再現可能な内的要因”を肯定し、それを継続できる本人の力を評価する。これが行動の継続意欲を支える。
3. 失敗の共有と感謝で自己肯定感を育てる
目標未達でも価値が下がらないことを明確に伝える。上司が率先して失敗を言語化し、「その挑戦をしてくれたおかげで、組織は学習できた」と感謝する。
これが、本人の“存在の安定”を作り、挑戦と学習のサイクルにつながる。
「もっと大事なことがある。それは影響力だ。おまえはちゃんと後輩指導もしてくれているから、達成をすること以上に、そっちのほうが我々は尊いと思っている。達成もちゃんとしてね。でも外しても大丈夫。」『それは影響力だ。おまえはちゃんと後輩指導もしてくれているから、』の部分を変えると汎用性高い。
まとめると、プライドが高く仕事ができない人材は「プライドが原因」なのではなく、心理的な基礎資本(有能感・効力感・肯定感)が不足している。その不足を補う設計ができるか否かが、マネジメントの実力である。
ー行動で見極めるー
打ちての初手であるスモールステップにおいて、行動促進を強く幾度か求め、それでも行動しなけば諦めるべきである。行動しないほど偏見や固定概念が多い。やってみればわかることを、自分では動かないので見直されることがない。思考の柔軟性は、実は行動量に依存している。(逆に言えば、思考が柔軟な人間は多角的な行動量を担保している。)
▼大沢武志氏について。
リクルート社の組織文化の骨格を築いた創業メンバーの1人。
江副浩正氏のもと、組織人事担当の専務取締役としてリクルート社を30年間支える。
グループ会社である人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)にて代表取締役を務め、適性検査「SPI」や組織開発「ROD」などのサービスを開発。
MBTIなどで有名なユングを強く辛抱し、様々な発言の参考となっている。
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第1章 モチベーション・マネジメント
仕事のなかで満たされるべき人間的要素、そしてそれが満たされることで仕事への内的動機づけが高まる職務の要素を、ハックマンとオールダムは職務設計の次元として整理している。これが、「職務設計の中核的五次元」といわれるもので、職務特性理論としてなかなかよく整理された解りやすい枠組みとなっている。
第一の次元はスキルの多様性。これは、その仕事を遂行するために、どれくらいさまざまな能力や技能が求められるかという観点である。ほとんど誰にでもできるような、これといった能力を要求されない単純な職務もあれば、様々な能力を求められる複雑なあるいは高度な仕事もある。必要とされる能力や技能が多様であればあるほど自分の仕事は有意義で価値があり、重要だと感じる。つまり内的な動機づけが高まるとされる。これが第一の次元である。
第二は、タスクアイデンティティといわれるもので課業の一貫性と訳される。自分の仕事が大きな仕事の一部にすぎないのか、はじめから終りまで一貫して携わることのできる一定のまとまりのある仕事なのか、当然、自分の仕事としてまとまりのある自覚を持てる仕事の方が、アイデンティティが高まるであろう。そして自分の仕事はこういう仕事というアイデンティティがはっきり自覚されるほど、内的な動機づけは高まることになろう。
第三は、仕事の有意義性といわれる次元である。自分の仕事はいかほどの意味のあるものか、周囲の人びとにどれほどの影響をもっているものなのか、組織にとってなくてはならぬ仕事なのか、とるに足りない仕事なのか。要するにやっている仕事の意味がどれほど自分にはねかえってくるのか、こうした仕事の意味が自覚され、自分の仕事は価値があり、重要だと感じるほど、内的動機づけは高まるであろう。
第四の次元が自律性といわれるもので、これは自分の仕事をどれだけ自分の裁量によってすすめることができるかという点である。一つ一つ上司からの細かい指示にしたがってすすめなければならない場合と、人からあれこれ言われずに、自分の考えや意志によって自由に段取りを決め進める場合とでは、仕事への動機づけに格段の差が生じることになる。この自由裁量の範囲が大きければ大きいほど、自分の仕事の結果に責任を感じることにもなり、内的な動機づけが高まるというのが自律性の次元である。
そして第五がフィードバックと呼ばれる次元である。自分の仕事の成果を確かめることができるか否か。極端な場合言われた仕事をただこなすだけ、その結果について何も知らされないような状況で、仕事に張り合いが出るわけがない。これは当然のことだが、自分のやった仕事がどの程度うまくいっているのか、仕事の成果を上司や周囲を通じて知ることができるかどうかという問題で、フィードバックのある状況であれば、内的な動機づけにプラスに働くというのが第五の次元である。
これらの五つの職務次元、すなわち技能の多様性、課業のまとまり、仕事の有意義性、自律性そしてフィードバックが職務設計の中核的五次元といわれるものである。注意すべきは、ハックマンとオールダムによれば、これらの職務次元のどれを高めても、内的動機づけを高める効果がない場合があるという点である。それは、当人の能力と技能が著しく低い場合、あるいは当人の成長への欲求が弱い場合、また当人が現在の給与や作業条件などの環境条件に不満をもっている場合であり、これらの追加的要因を配慮しなければならないという。
フィードバックの効用についての心理学的な研究から割り出されたいくつかの結論について触れると、第一は、その時点で進歩の早い者、中程度に遅い者、そして極めて遅い者に分けると、 最も効果的なのは、中程度に遅い者に対してということが明らかになっている。つまり、フィードバックされて、「このままでは目標達成は難しい」「しかし、このあとがんばれば達成の可能性はある」と思い直す人に最も効果があるわけで、あまり遅れ過ぎている人には、フィードバックの情報が、あきらめにつながる場合もあり、また、あまり早過ぎる人には、さらなる努力を喚起する効果は期待できないことになる。
第二はフィードバックは、早めに与えた方がよいという原則である。要するに進み具合の遅れ気味の人に途中で警告を発して、それまで以上の努力をよび起こすことがフィードバックの効用なのだが、タイミングを間違えると、遅きに失して効果に結びつかないということである。
第三は達成欲求との関係についてみると、フィードバックによる業績改善効果が顕著にあらわれるのは達成欲求が高い場合ということが明らかにされている。達成欲求のレベルが高いということは、自らの業績に対する不満が大きいということになり、フィードバックがなされると、さらなる努力へとモティベートされる効果に結びつき易い。
第2章 小集団と人間関係
昨今は、人材経営の時代と呼ばれ、人間尊重を当然のように経営者が語り、一人ひとりの個性を尊重する姿勢を多くの企業が打ち出している。しかし、その真の意図を理解し、実現している企業組織がどれほどにあるだろうか。単なるかけ声に終ってしまうおそれも多分にあるが、心理学的経営という観点からすれば、筆者は、自律的小集団運営にその一つの原点があると主張したい。
組織に参加し、仕事に従事するなかで、個性を発揮し尊重するとはどういう意味なのか。それには何よりもまず、組織と個人の関係において、個人の側の意志の関与がある程度なくては話にならない。つまり、仕事がただ単に組織の指示によって与えられたものではなく、自分の仕事、 自分の職場という自我関与の意識がなければならない。自ら目標を定め、あるいは目標設定に参加し、自らの発想で仕事をすすめ、その過程での自己決定の範囲も保証されている自律的組織であればこそ、自己責任の意識も育まれよう。さらに、対面小集団のなかで相互に介入し、ときには相互批判を交わすことで、われわれ意識 (We-feeling)という相互の絆が形成されることも重要である。
これが、自発的に各人の当事者意識に支えられた当事者集団をつくり上げることにもつながってくるであろう。日本的経営の特質といわれる集団主義を、さらに自律的小集団主義といいかえるならば、その帰結するところは、組織と個人の関わりのなかで各人の自我関与を可能な限り高めるところに鍵があると考えられるのである。
今世紀最大の発明
こうしたグループプロセスのなかで、人びとは仮面やみせかけに隠れている自分や他者の姿に気づき、そうした状態から抜け出そうともがきはじめる。そういえば、日常の職場や組織のなかでは、それが当り前になっていることが多いのだろう。当らずさわらずの態度、如才なさ、適当なイエスのストローク、礼儀正しい言葉づかい、こうした型どおりの、あるいは表面的な人間関係から何かが生れるだろうか。
自らも仮面をとり、相手の仮面も剝ぎとる、あえて相手の心のなかに踏み込んでいく人間関係の深い絆を体験するには、乗り越えなければならない何かがある。そのとき、相手を傷つけることも、あるいは自分が傷つくこともあるだろう。他者への真の思いやりとは何だろうか。自己との耐えがたい葛藤を乗り越えたところに真の自己受容があるのだろうか。
集中的グループ体験を通して学び得るものに、人間の根源的価値に触れる何かがあるのではないか。このエンカウンター・グループの発明は今世紀社会科学の生んだ最大の貢献であり、最も急速に拡大している社会的発明とさえ、ロジャースは言っているのである。こうしたグループプロセスを発明した心理学者に最大級の尊敬と賞讃がおくられてしかるべきであろう。
このグループプロセスを通しての人間行動へのアプローチは、組織のなかでの人間回復を願う人材経営を志向するとき重大な視点と知恵を提供していると言ってよいであろう。
第3章 組織の活性化
前二節では、やや抽象的な活性化の考え方を述べてきたが、これからの二節では、企業組織における具体的な活性化の方策について論じてみたい。
筆者のリクルート専務時代、人事教育事業と管理部門全般を担当していた昭和五十年代の後半、リクルートは超活性組織として世間の耳目を集めていた。事業上の必要から、私は昭和五十八年にリクルートのなかに「組織活性化研究所」を設立、一方リクルートという企業集団のいわば活性化担当として、企業活性化のまさに渦中に身をおいていた。
活性化とは、きれいごとで実現できるようなテーマではない。汗と泥にまみれた、ときには血のにじむ葛藤の世界のなかにこそ活性化の原動力がある。心身の病弊もときには避けて通れない修羅場に身をおくことではじめて、一皮も二皮もむけた新しい局面が開かれるものである。
組織活性化研究所の機関誌「大童」(現在は「CRUIT」に改題)の企画で、一橋大学の野中郁次郎教授と対談したとき、私は企業の戦略的活性化のポイントを「一に採用、二に人事異動、三に教育、 四に小集団活動、五にイベントにまとめられます。これに共通しているのはカオスの演出です」 と述べた。これはのちに野中郁次郎氏の著書「企業進化論」のなかでも引用されたりしたが、当時リクルート社の組織人事担当としての自ら実践の論理をストレートに表現したものであった。
第4章 リーダーシップと管理能力
要するに、組織において管理者が発揮すべきリーダーシップは、二つの要素に集約されると考えて大きな間違いはない。一つが組織の目標達成に向けて、メンバーに役割を与え、指示し、督励する機能であり、もう一つが、個々のメンバーを理解し、人間関係に配慮し、集団を維持する機能である。
PM論では、PM両機能とも十分に発揮されているタイプが最も望ましいリーダーシップのタイプとして位置づけられ、グリッドでは、業績への関心、人間への関心がともに高い、いわゆる九・九型のマネジメント・スタイルが最も望ましいタイプとされる。
さて、見出されたリーダーシップ行動四因子はつぎの通りである。
第一因子は「要望性」と名づけた。これは部下に指示を与え、能力の最大限の発揮を求め、生産性を高めることを指向した行動である。オハイオ研究の「体制指導」、PM論のP機能に明らかに対応している。
第二因子は、「共感性」である。部下の気持ちを受容し、部下の行動に思いやりと支持を与える機能である。良好な人間関係や自由な雰囲気を醸成することに結びつく行動である。オハイオ研究の「配慮」、PM論のM機能に対応している。
この二つの機能が、リーダーシップの二大機能であることが、筆者らが行なったわが国の管理者を対象に行なった独自の研究でも確認されたのである。
要望性が不十分だと、部下からみて、上司から何が期待されているのか不分明になってしまう。 しかし、要望性ばかりが高いと、部下は上司を恐れて近づきにくくなる。要望性が高ければ高いほど共感性がそれを補わなければならない。自分は理解され、支持されているという信頼関係の基盤を共感性機能がつくり上げる。しかし、要望性に乏しく、共感性のみが高いと、緊張感に欠けたぬるま湯的な職場になってしまう。
要望性と共感性はまさに車の両輪であって、状況に応じたこの二つの機能のバランスこそが大事なのである。
さて、この二つの機能に続く、第三の因子が「通意性」である。仕事を進めていく上で必要な意味のある情報を十分に提供すること、これは、上司に求められた第三のリーダーシップ機能である。「寄らしむべし、知らしむべからず」ではダメで、大事な情報を上司と部下とがしっかりと共有することの必要を、この第三因子は教えている。まさに新しい時代の、情報化時代のリーダーシップとして肝に銘じなければならない。
第四の因子が「信頼性」の機能である。第一次研究ではこれを職務能力の因子と名づけたが、 これを信頼性と命名した根拠は、部下からみて、上司を管理者として能力的に、あるいは人間的に信任に値するか否かを問うているからである。もともとこの機能が不十分な場合は、リーダーシップの基盤が揺らぎ、他の機能の発揮を妨げる可能性がある。
著者らが実証的な研究によって見出したリーダーシップの四つの機能とは以上の四因子に裏づけられたものである。オハイオ研究に代表される二大機能論を補うものとして、一歩前進したりーダーシップ論と考えている。
因みに、第二次大戦における日本海軍司令官・山本五十六元帥の言葉として有名な「やってみせて、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」という人を動かす要諦に表現された四つのリーダーシップ行動と、この四機能論は見事な符合を成している。
つまり、「やってみせる」は信頼性、「言って聞かせる」は通意性、「させてみせる」は要望性、そして「褒めてやる」は共感性とそれぞれ対応していることはあえて解説を要しないだろう。
LDPにおける行動変容の流れ
これまでの行動→「自己概念」の確認→「自己概念」の動揺→「自己概念」の再構成→新しい行動の反復練習→新しい行動による成功あるいは失敗体験→新しい行動の定着
第5章 適正と人事
職務適応、職場適応、自己適応
筆者は、企業人適性の三側面を、職務適応、職場適応、自己適応という企業人の適応行動の三つの場面との関連においてとらえる考え方を提唱してきた。職務適応は、仕事に対する能力によって左右される側面が大であるから、能力的適性の概念に対応する。したがって、人材の使用価値という側面につながる。職場適応は、対人的能力、対人的適応性に関連が強いが、この適応に関連する要因は、性格特性が大きなウェイトを占める。そして職場の人間関係的風土にどんな影響をもたらすかという意味で、人材の存在価値という側面とのかかわりが強くなる。
さて、三番目の自己適応という概念が、経営的な観点から適性論に一つの転換を迫る意味合いをもっている。つまり、能力中心の適性の考え方から一歩前進して、対人的な適応の要素を取り入れ、性格的な適性が論じられるようになることで、企業人評価の二大次元、対仕事と対人間という軸が定着した。組織の側からみれば、この二つの側面をおさえれば十分のはずであったが、 個人の側に立って、果たして本人が内的な価値基準や情緒的な適応、さらには、自己本来の価値の実現という点で、どの程度満たされ、自らに適応しているか、という個人の主体的適合性の側面が、この自己適応の概念である。
第6章 個性化を求めて
河合隼雄教授との対談での言葉を引用してみよう。
「自己実現という意味での個性化の問題は、ユングは人生後半の課題であると言っていますね。 前半はとにかく世の中で成功しなきゃいかん。あるいは社会での自分の地位を自分なりにきちんと見つけなきゃいかん。そして人生後半になって眠っていたもう一人の自分、もう一つの才能に気がつく。ところが今の若い人には人生の前半から、この人生後半の問題が押しかけてくる。困ったことに人生後半の問題に若者が取り憑かれると何をするのも面白くなくなるんです。就職したって、金儲けにしたって、何だ、というわけで無気力になる。これからは人生後半の問題に前半にして取り憑かれた若者の問題がますます大きな問題になってくるでしょうね」
これからの企業は多様な価値観を包含した、したがって矛盾に満ちた全ての世代の発達課題に応えうる「個性化」の途に主要な問題意識を持たなければならないのではないか。それには相矛盾する様々な状況に耐えうる柔らかなマネジメントが求められるが、タイプ論でいえば、自分のなかのシャドウを意識化し、同時に顕在化させることに通じるだろう。
性格類型検査TIを用いたマネジメント研修は、アメリカでは、たとえばMITビジネススクールのヒューマンリソースマネジメントのコースに導入され、そこでは主として問題解決スタイルの演習としてカリキュラム化されているが、わが国の経営風土を考えると、むしろ「個性化」 という観点から、研修を展開することに大きな意義を見出せると思う。
つまり、日本的経営の変貌が喧伝されているが、組織の人間関係のなかでの自分の定位という問題が重要なのは変らない。企業人でいる限り「個性化」も自分の所属する組織との関係を無視しては実現しえないだろう。そして「個性化」は世代的にみても、あらゆる年代において自分を見つめ直し、自らの生き方を問い直すという点で、それぞれ固有の発達課題を包含している。T Iをフィードバックし、タイプごとにあるいはシャドウのタイプ同士を組み合わせ、このグループを編成して、グループワークを行なう。この形式の研修は、トップマネジメント層をはじめとするあらゆる階層別研修としてすすめることが可能であり、さらに職場ぐるみ、組織ぐるみの研修としてもチームビルディングの上でもTIならではの効果が期待できる。
そして、職場の人間関係のなかで各メンバーがTIを通して「自己開示」をはじめて経験し、 それぞれの「個性化」の問題を共有できることが新たな人間関係へと発展する契機ともなるのである。