【感想・ネタバレ】人類最年長のレビュー

あらすじ

江戸が東京になって、日露戦争、関東大震災、東京大空襲、そして平成の終わりまで、たったひとりで生き抜いた男がいた。
男は1861年3月13日、横浜で生まれた。
とても成長の遅い子どもで、3歳になるまでまともに歩けず、ゆっくりと時間をかけて成長してからは、人並みに結婚もした。
何度も死に損なったけれど、それなりに人生を楽しんで、あらゆるものを見てきた。
五千円札の女と懇意になったり、朝鮮人狩りから少女を救ったり、ヤミ市の少年たちに自活の道を施したり、不死化細胞の研究に協力させられたり、数奇な運命とともに生きた。
この男、159年にも及ぶ人生最後の望みとは?
30歳の女性看護師に何を託すのか。
さあ、夢見るようなタイムスリップが始まる!
文壇の鬼才が世に問う、圧倒的なイマジネーションと構築力による衝撃の書。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

読み始めて最初は、なんだー、明治維新のころから、現在までを、もしその間ずっと生きて、時代の変化を目の当たりにした人がいたとしたら、どう見えていたか、という感じで歴史を書いただけかな?と思ったけど、違った!150年以上生きて、時代の変化をつぶさに見続けた老人(老人の域を超えてるけど!)が、もうなんというか、悟りの境地に達して、日本の近現代史を庶民の目線で語る。それを、たまたま出会った看護師の女性(ソメイヨシノさん)に語る、という設定で物語が進む。主に老人の語り、ときどきヨシノさんとの対話が挟まるのだけど、それがまた、面白い。
老人(何度も名前を変えているのだけど、最初の名前は鱗太郎さん)は、明治維新の前に生まれたので、まだ侍が刀をさして歩いていた頃のことを覚えている。生まれた時から異常に成長が遅く、成人しても少年にしか見えなかった。人よりずっとゆっくりとしか年をとらないらしい。日清・日露戦争も、大東亜戦争も経験し、しぶとく生きぬいた。人よりずっとゆっくりとしか年をとらないため、それらの出来事を、俯瞰的に捉え、分析し、正しく生きようと努力する。しかしあくまで、無力な庶民なので、生きるためにあきらめることもあれば、ずるいこともする。その辺が絶妙で、正義感溢れる英雄の物語でもなければ、無力な庶民の物語でもなく、あくまで庶民目線だけれど、特別な人生を歩んだ頼もしい物語になっていて、面白い。普通の庶民なので、女郎屋に通ったりして、性風俗も描写されていて面白い。幾人かの女性とのやりとりも生き生きと描かれている。
太平洋戦争で、従軍記者として大陸にいく羽目になり、九死に一生を得た時に現地のシャーマン的な人から”精霊”を移される場面が私にはとても面白く感じました!
その人物も150歳とか、とにかく長生きしているわけだが、後釜を見つけた!てな感じで、鱗太郎氏に精霊を譲って、自分は息を引き取る。もちろんその時点では、鱗太郎氏は「そんなバカな」と信じておらず、自分が本当にそんなに長生きすることになるとは思わない。しかしなかなか老けず、娘からも「その顔でパパとか呼ばせないで」と言われてしまう。妻や娘、孫が普通に年をとっていくのに、自分は若いままで、どうなっていくの?というのも、ドキドキして読み応えがあります。もちろん悲しい別れを経験しなくてはいけないわけで、泣けます。でも、ながく、ながーく生き続けることで、そういう哀しみも、少しずつ超越していくような感じ。
そんなあれこれを、ヨシノさん相手に語り、語り終えたとき、どんな矜持を語るのかと思いきや、おっぱい触らせてくれ、とかいうのがとっても面白いです。ヨシノさんの手を握り、精霊を移した、とか言うのですが、え!?本当に!?と思ってまたドキドキ。果たして精霊が本当にヨシノさんに移ったかどうかは最後にわかるのですが、とにかく面白い展開でした。
最近、近現代史を見直すような動きもあるし、そういう著作も多く、私もいろいろ読みましたが、これはまた新しい角度で明治維新から日清・日露戦争、二度の大戦やアメリカとの関係を描き、日本がいかに劇的に変化してきたのか、いや変化していないのかを考察していて、興味深く、勉強にもなりました。
装丁や、途中の挿絵も素敵です。

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2021年08月31日

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