あらすじ
テロ、難民、EU離脱、核・ミサイル、北朝鮮……
元外交官・東大教授×現役東大生が
「批判的思考」で世界の最重要課題に挑む!
* * *
◆僕が東大でゼロから国際政治を考える理由――「はじめに」より抜粋
あなたは、この日本がいま、平和だと思うだろうか。
ありきたりな質問だと反射的にページを閉じようとする前に、
少し立ち止まって、次のことを想像してみてほしい。
小さな海を隔てた向こう側にある国では、いくつもの核兵器関連施設が存在し、
今この瞬間にも核兵器の開発が着々と進められている。
74年前に広島・長崎を襲った核爆弾の何倍もの殺傷能力を持つ核ミサイルが、
1発や2発ではなく何十発も、僕らのいる日本列島を含む
世界に向けて発射できる態勢が整えられつつある。
気まぐれな指導者が発射スイッチを押さないという保証はない。
観光客で賑わう別のある国では、3つのグループに分かれた過激派組織が
コンサート・ホールやレストラン、カフェを次々と襲撃。
銃の乱射や自爆によって130人以上が死亡、300人以上が負傷した。
姿の見えない敵は、サイバー世界でも増殖を続けている。
ある国のハッカー集団は、国家の情報機関と関係を持ち、
日本も標的として、官公庁、防衛・ハイテク産業、
通信・交通・エネルギーなどのインフラ部門を攻撃している。
超大国の大統領はこれに対し、核兵器で応戦すると警告する。
さて、あなたはこれを聞いて、背筋が凍るような恐怖を覚えただろうか。
あるいは、不穏な時代の空気に、底知れない不安を感じただろうか。
それとも、お決まりの警句だと、いつものようにうんざりしただけだっただろうか。
もしそうだとしたら、本書はあなたのためにある。
世界の危機を伝えるニュースは毎日のように報じられ、
僕らはいとも簡単に感覚を麻痺させてしまう。
慣れてはいけないと言われても、同じようなことを何回も言われたら
誰だって慣れてしまうものだ。
でも、今この瞬間だけでもいいから、考えてみてほしい。
1930年代、昭和はじめの日本。大きな戦争もなく、
日々穏やかに暮らしていた人々は、数年後に日本が
大国アメリカと無謀な戦争を始めるなどとは思いもよらなかっただろう。
そして、見慣れたいつもの平和な街並みが
絶望的な焼け野原に姿を変えるとは、想像もしなかっただろう。
平和は、失われて初めてその大切さがわかると言う。
裏を返せば、僕らは目の前にある平和が当たり前のもので、
ある日突然失われてしまうなどとは思わずに今を生きているということだ。
しかしあなたは、平和を失ってもいいと思っているだろうか?
明日にも戦争が勃発して、1分先の未来もわからないような人生を送ってもいいと、
本気で思っているだろうか?
ノーと答えたのならば、あなたがやるべきことははっきりしている。
民主主義国家の一国民として、常日頃から世界の動きをフォローし、
平和や安全の問題を考え、外交はどうあるべきか、周りの人々と議論し、
小さくても何か具体的な行動につなげていくことだ。
ただでさえ忙しい毎日。仕事や人生に関係しそうにないことに
時間と労力を割くなんて億劫かもしれない。興味を持てないかもしれない。
それでも、少しでも考えること、「なぜ」と質問することから始めてみてほしい。
今の平和を続けていくためにも。
そして、そんな批判的思考がこれからのあなたの人生にも
きっと役に立つと、僕は信じている。
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Posted by ブクログ
用語の解説に終始している本とは違い、
政治とは何なのか?
軍事力はどうあるべきか?
国益とは何かなど基本的な考え方から対話形式で紹介されていて読みやすい上に分かりやすかった。
曖昧模糊としていた国際政治の一端に触れたきがした。
Posted by ブクログ
国際政治学の初歩
とても読みやすい本だった。
民主主義を善として構築された国際社会・秩序は中国にとってはスタンダードではなく、納得できない部分もある。いくら中国が発展しパワーを得ようと、その国際秩序は容易に覆すことはできない。
上記を要約。
自由や民主主義、人権の尊重や法の支配と言った普遍的価値を掲げることで、同じ価値観を持つ国々と連携していこうという姿勢を外交に生かしたものが、価値観外交である。
この普遍的価値がなくなると、第二次世界大戦以前のような、言論弾圧、独裁、全体主義など弱肉強食が支配する世界が生まれるという危険性を孕んでいる。そんな歴史を繰り返さないために、僕たちが支持し擁護しなければならない価値である。そして、人道に立った国際機関が作られたりして、普遍的価値がまさに広く国際社会で受けいられる共通の価値になっていった。
しかしこの価値観外交は慎重になるべきという意見もある。なぜなら、世界は多様であり、価値は1つではないからである。世界人口75億人のうち、中国が14億人。つまり2割近くの人々が民主主義という価値を共有していないということになる。そう考えると、民主主義という価値は普遍的なものとは言えないだろう。だから価値観外交で自分が普遍的だと思う価値観を押し付ける価値観外交には一定の反発、反対派がいる。
北朝鮮の立場、中国の立場を考えると、私たちにとってのスタンダードは彼らにとってのそれではなく、押し付けは見当違いであるのでは。
外交において、相手の面子を保つことも重要。つまり互いに負け、互いに勝つという精神を共有することが大切。
フィリピンと中国の国際仲裁裁判の判決は効果をなしていないが、中国がフィリピンに巨額の経済オファーしたことで、フィリピンも歩み寄る形となった。この事実は現代の国際社会が単なる弱肉強食のジャングルではないことを意味している。つまり世界には国際秩序があることを示している。
正義は国家の数だけあるが、そんな正義を一つの正義に収斂(しゅうれん)させていく努力、それこそが国際秩序を構築するということなのだ。
日本の国益は1国家・国民の生存と安全2国家・国民の繁栄3普遍的価値に基づく国際秩序の支持・擁護である。この順番は意味のあるものであり、安全?繁栄?価値の序列である。国家の安全が確保されて初めて、繁栄があり、経済活動に取り組める。経済成長が実現し、国民の所得水準が上昇することで初めて、人権や民主主義などの価値を求める動きが広がるのである。
Posted by ブクログ
1.最近、国際情勢が悪くなっており、武器を持たない戦争に陥っていることに不安を感じています。そこで、なぜこのような情勢になってしまったのか、ふと興味を持ったため、考えてみることにしました。
2.この本では、1つの事柄に対してこれだという答えを決めつけるものではありません。法や経済政策、戦争について、人によって解釈が異なっているなかで、どのようにして自分なりの答えを探せばいいのか、日常の情報をうのみにせず、批判的な思考で本質に迫ることを目的としています。
国際政治を学ぶ意義としては、国家間の平和を保つための手段を考えるということに尽きます。ただ、それだけではなく、政治を学ぶ意義は、「プレイヤーを見極める」つまり、今誰が世界を動かしているのか、誰が中心なのかを見極めるためではないかと思います。
対話形式で書かれているため、著者の都市に対して、自分も生徒と一緒に考えていくことで、世界情勢について真摯に向き合うことができるのではないかと思います。
3.協調から自己利益を目的として政治を扱うようになってしまった現代では、対立が深まる一方です。例えば、米中間と考えるとどうか。互いに負ければ世界の覇権を奪えるということのみに注力し、戦争の一歩手前まで来ているのではないでしょうか。行き過ぎた競争主義のお手本といっても過言ではないと思います。No.1をプライドとするがゆえに引き下がれない米国と、大きな力をつけ、覇権を奪いたい中国が引く姿が想像つきません。実に怖いことだと思います。国益といえば全てを正当化される世の中当たり前になった今、国民として、どのように生きていかなければならないのか、悩みどころです。
Posted by ブクログ
異なる立場や主張の学生を立てて、それを模擬的な授業形式で進行していく本。
だからこそ分かりやすい。
平和主義はいいが、それだけで果たして日本の国益は守れるのか?
国防をどう考えるのか?
経済が発展すればそれだけでいいのか?
国際協調路線はいいが、世界はそんなに甘くない。
自国の利益が優先され、友好国を守ることすら約束を出来ない状態だ。
中国は強くなり、アメリカは世界の警察の役目を果たせなくなっている。
EUはここに来て地政学リスクが出てきた。
日本は一瞬平和かと思いきや、まったくそんなことはない。
北朝鮮は今でも核開発とミサイルで威嚇してくる。
南シナ海の領海次第では、日本のシーラインが脅かされる。
答えは一つじゃない。
だからこそ多様な意見を取り入れて、議論を重ねることが重要だろう。
その中での「今現在での最適解」を探して、ハードな交渉に臨むことが大事なのだと思うのだ。
単純な話ではない。
だからこそ、きちんと勉強をして、議論をまとめ上げるスキルが必要なのではないだろうか。
社会人でもこういう訓練をしていきたい。
(2019/11/30)
Posted by ブクログ
対話形式の入門書。国際政治を価値(=リベラリズム)と力(=リアリズム)の織り成す世界ととらえる。面白かったのは、スイスで銃乱射が少ないことからアナロジーを展開して軍事力を国際平和の為に使うという発想。その支持者にはなれないが、逆転の発想ではあった。恐怖の論理と理想のギャップはなかなか埋まるものではないが、筆者は人間の気高さに解決を求めていた。交渉の技術としては、イエス(譲歩)とノー(仕切り直し)の組み合わせ、事前の信頼関係、質問、言語選択。国益についてはモーゲンソーを読めとあったのでいつか
2022/2