あらすじ
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震は、富士山の様相を決定的に変えてしまった。津波や原発に隠れてこのとき、富士山内部のマグマだまりに「ひび割れ」が生じたことに、火山学者たちは青ざめた。以後、富士山は「噴火するかもしれない山」から「100パーセント噴火する山」に変容してしまった。そのとき何が起こるのか。南海トラフ巨大地震との連動はあるのか。火山の第一人者が危機の全貌を見通す!
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Posted by ブクログ
2019年発行の本書は、「自分で知識を得て、自分で守る」意識を持つように説明されている。富士山は現在、噴火スタンバイ状態になり、南海トラフ地震は2030年代に高い確率で発生すると予測し、警戒と準備を呼びかけている。
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富士山が噴火したら?その影響を淡々と予想していく。富士山噴火は単体では起きず、その前後に南海トラフ地震も起きる、という認識から富士山噴火が起きたら、という内容にもなかかわらずこのタイトルになっている。
【火山灰】富士山が吹き上げる火山灰は風に乗り遠くまで届く。成層圏まで達すれば偏西風に乗り地球を一周する。灰と名がついているので誤解されるが火山灰は灰ではない。軽石などが砕かれた、細かいガラスのかけら、が実態。このため人間の肺に入れば呼吸障害を起こす。目に入れば炎症を起こす。マスクやゴーグルが必須となる。
パソコンなど精密機器に入れば故障の原因となる。車両や航空機も火山灰の中では動けなくなる。工場の機械類、電力会社の発電機なども動かせなくなる。
火山灰がつもり固まるとコンクリートのように硬くなる。また水で流そうとしてもドロドロになるだけで流れていかない。屋根に火山灰が積もると重みで家屋は倒壊する。これに雨が降り、水の重さが加わるとほとんどの家屋はひとたまりもない。
火山灰や泥流、などで高速道路や新幹線が分断される可能性も高い。
富士山が噴火すれば相当期間に渡り首都圏は機能を失う。
【溶岩流】富士山から流れ出す溶岩流の範囲は比較的狭いが、流出してから数ヶ月から1年は熱が冷めない。噴出したてであればほとんどのものを発火させる温度がある。狙ったところに流す、という制御は非常に難しい。
【噴石と火山弾】噴火の形態(ボルカノ式、ストロンボリ式、プリニー式)により飛距離が変わってくるが予測が難しい。火口付近にいた場合避けるは困難である。
【火砕流、火砕サージ】形成原因はいくつかあるが高温の火山ガス、火山灰が時速100キロ高速で山肌を下っていく、というのが特徴。富士山山頂を中心とする半径7ー8キロのほぼ円形の範囲が被害を受ける可能性がある。
【泥流】一旦火口付近に堆積した火山灰などが雨や噴火の熱で溶けた氷雪を伴い斜面を下るのが泥流。これは噴火後数十年もリスクが続く。これが到達する可能性のある範囲は富士山の裾野を超え、富士吉田市、富士宮市、御殿場市などにもかかる。
【噴火予測】噴火の前には火山性微動や山体の変化(マグマが吹き上がってくるときに山を押し拡げるため傾斜が変わる)、水蒸気が漏れ出すなどの前兆が必ずあり、それは観測できる。
【富士山が特異な理由】
世界でも珍しい、3枚の大陸プレートが重なるところに位置している。このため、平坦な場所がひらけ、そこに地下からふんだんにマグマが供給されることであの山体ができた。
【地震と噴火】地震で火山直下のマグマだまりに水が入ったりマグマに溶け込んだ二酸化炭素が気泡化することで火山噴火が誘発される。富士山もその法則が当てはまる。宝永の富士山噴火は2週間続き江戸に5ー10センチの火山灰を降らせたが噴火の数十日前に宝永の大地震があった。地震で倒壊した家の立て直しをしようとしていた矢先に富士山噴火があったということになる。この関連は現在にも当てはまる。南海トラフ自身は2030年代までには必ず起こる、と言われている。それが高い確率で富士山噴火を引き起こすことになる。
【短期の災いと長期の恵み】このように富士山噴火は日本に甚大な被害を与える。しかし、最後の噴火から300年、我々が富士山から受けていた恵み、も厳然としてある。癒しのある美しい外観。火山性の細かい穴の空いた地層を年月をかけて通ってくる澄んだ水。泥流も厄介だが扇状地を形成し農業の発展に寄与した、という側面もある。被害を恐れるだけではなく長い目で自然と付き合うという目線も必要である。