あらすじ
死刑存続論者の多くは、「死刑制度がある理由は被害者遺族のため」と言う。しかし、著者は問う。「自分の想像など被害者遺族の思いには絶対に及ばない。当事者でもないのに、なぜこれほど居丈高に、また当然のように死刑を求められるのか?」本書は、死刑制度だけでなく、領土問題、戦争責任、レイシズム、9・11以後、原発事故、等々、多岐にわたる事象を扱う。日本に蔓延する「正義」という名の共同幻想を撃つ!
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Posted by ブクログ
筆者は「売国奴」や「非国民」などと嘲笑され、誹謗中傷されることが多いといいます。
たしかに、そういった批判は浴びるだろうという主張ではありますが、筆者の主張に共感できる部分がとても多く、刺激的な1冊でした。
筆者の主張の根幹にあるものは、「暴力に暴力で対抗してはいけない」「いたずらに危機意識を煽るメディア(また、事件報道をはじめ危機感を要求する視聴者)を無批判に受容してはいけない」といったことだと思います。
近年の日本社会に溢れる「治安が悪化している」という雰囲気は、事件報道を見たがる視聴者と、それに応えたマスコミの相互作用で醸成されてきたという筆者の指摘は正しいように思いますし、具体的なデータ(数字)にもとづかない印象による議論も多いと感じます。
たしかに、「理想論」と批判されるようなことも述べられていますが、その”理想”を「現実」のものとするために、何ができるのか、また何をすべきなのかということを考え、また世の中で起こっている事象の”原因”は何なのか、一面的な報道だけでなく多角的な視点から情報を得て考察すること(それにより「恐怖」や「不安」の根源を明確にすること)の必要性を改めて強く感じます。
Posted by ブクログ
だいぶ前に買って読みかけていたのがいつのまにか積ん読の山に紛れ、このたび発掘されたので続きを読んだ。
森達也さんの書くものは常に葛藤にまみれている。揺れている。自分が正しいとは決して思わず迷いながらそれでもご自分が見たもの聞いたこと経験したこと調べたことを真摯に書いている。
ショッキングなタイトルは本書に収録された一コラムのタイトルだけど、この中でも筆者は躊躇なく「自分がその立場に置かれたら」と書きつつ迷う。
疑問を持ち続けること。自明とされている、報道されている、今目の前に見えるもの、それらを(自分を含めて)疑い続けること。その上でバイアスを排して物事をあるがままに認めようともがき続ける著者の姿勢に共感する。
Posted by ブクログ
著者は、一般の人やメディアが無自覚に持つ信念に潜む偽善や虚勢に、敏感でその無自覚に恐怖すら感じるのだろう。死刑に関する著書を読んだ時も、納得し、自分の無自覚を反省したはずだが、だらだらとニュースと新聞を受け取っているうちに、いつの間にか死刑容認を身につけている。人間は、錯覚を持つことで自己を保っているところがある。そんなどうしようもなさへの警鐘は、明らかにし続けなければならないでしょう。地下鉄サリン事件にかかわる死刑囚が、全員執行されたことを、著者はどう思っているのでしょう。