あらすじ
「売れないものかき」の松下センセは書くのも遅い。過去の著作はどんどん品切れ重版未定の絶版扱いになり、病を押して散発的な注文原稿をこなしても生活は綱渡りだ。そんな作家が一番大事にしているのは夕方の妻との散歩。身の回りの自然、季節の移ろいを全身で体感し、河口に集まるカモメたちに餌をやる日々。子供たちや仲の良い友人たちと時間も楽しみの一つ。安上がりだけど満ち足りた幸福がここにある。
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Posted by ブクログ
「一年の内で今日が一番美しい日ではないだろうかーと、そんな思いに駆り立てられる」日、パートナーと犬たちとの大事な日課の散歩。川沿いを歩き、駆け回り戯れ合う犬たちを眺めながら草むらに座る。風や草々にも美しさを感じる。シンプルにスムーズに描かれるうっとりするような至福の時間。
少し寒いけれど快晴で気持ちに良い午後に、わたしも近所の川沿い、土手の上の道とその先にある広場のベンチを思い浮かべながらそんな時間を想像してみる。絶対に最高じゃないか。憧れる。ビンボー(not貧乏)でも綱渡の生活でもそんな時間があれば理想の暮らし、生活、LIFEと言えるのではないか、という気がしてくる。
勿論そこに書かれていることが全てではないし、書けないことも書かないこともあるのだろうけれど、それでもそんな至福の時間を美しい文章で書き残すことが出来るということ自体でも素晴らしいLIFEと言えるのではないか。そんなことを考えている今のわたしにはそんな余裕もない気がしてしまうけれど、“松下センセ”のように、笑いながら流れ星に「イキノビタイ!」と叫ぶような心持ちでやっていきたい。たしかに心にしみいった。
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ひとつの視点から描かれた幸福というのには、もしかしたらその影で苦しんでいる人がいるのかもしれない、という想像はどうしてもしてしまうけれど、そのある意味でのノイズも、わたしの理想のLIFEには必要なはずだから、大切にしておきたい。