あらすじ
山高帽にこうもり傘、優美なマナーとさりげないダンディズム。英国紳士たちの悠揚せまらぬ精神から大英帝国を彩るユーモアが生まれた。当意即妙、光る知性、グロテスクなまでにブラック、自分を笑う余裕。ジョンソン博士、イヴリン・ウォー、チャーチルほか、帝国最上の産物たる紳士の最高のユーモアを味わいつつ、英国流人生哲学の真髄にせまる。(講談社学術文庫)
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Posted by ブクログ
紳士の定義、ライフ・スタイル、時代による紳士像の変遷などを、筆者の実体験をまじえながら軽妙な語り口で紹介している。現代の貴族は着古した服を普段着にしていることや、紳士の集まる会員制のクラブなど、どれも興味深いものばかりだ。
筆者は、イギリス人の特徴として「我慢強さ」と「余裕」を挙げている。バス亭やスーパーのレジ、チケット売り場など、時間がかかる場合でも文句ひとつ言わずに並んでいるという。そして、感情を爆発させたくなるような場合でも、自分自身を外側から見つめる冷静さと余裕ある態度を失わず、そこから独特のユーモアが生まれてくるとしている。
第二次大戦中に首相を務めたウィンストン・チャーチルは、名家の生まれというだけでなく、ユーモアの才能もずば抜けていた。彼の発言は、本のなかでもいくつか紹介されている。汽車や飛行機によく乗り遅れる理由を尋ねられると、こう答えたという。
「私はスポーツマンだから、フェア・プレイ精神を尊重するんだ。だから汽車や飛行機にも逃げるチャンスを与えてやるのさ。」
(p.147、148)
また、余命いくばくもないときに、若い新聞記者からインタビューを受けた。インタビューのあと、「来年再びお目にかかれれば、たいへん光栄に存じます」と記者が丁重に礼を述べると、
「君ィ、来年会えないはずがあろうか。見たところ君は健康そのものだ……、せめて来年までは生きておるじゃろう」
( p.152)
ひと筋縄ではいかなそうだけれど、とても愉快な言い草だ。つらい状況や悲しい場面に直面しても、イギリス紳士は平然とした顔でユーモアをくり出すそうだ。
「紳士」を意味する「ジェントルマン」は、もともとは「生まれがよく、礼儀正しい人」という意味だった。つまり、「紳士」と「貴族」は非常に近しい関係だった。自分は身分的にも資産的にも貴族ではない。豪邸に住んでいるわけではないし、使い切れないほどの貯えがあるわけでもない。でも、気が利いて、ちょっと皮肉めいた冗談を言えるよううな、紳士的、貴族的な心の余裕はいつも持っていたい。