【感想・ネタバレ】立志・苦学・出世 受験生の社会史のレビュー

あらすじ

明治初期「勉強立身」の言説が高まり、学校の序列化も進むと、青少年の上昇移動への野心は新たな「受験的生活世界」を生み出す。怠惰・快楽を悪徳とし、受験雑誌に煽られて刻苦勉励する受験生の禁欲的生活世界を支えた物語とは何なのか。受験のモダンと、昭和四〇年代以降の受験のポストモダンを解読。(講談社学術文庫)

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Posted by ブクログ

教育社会学者・竹内洋による、近代日本の「受験生の素顔」と「受験制度の実相」を剔抉した快作。文庫本なので読み易さが売りなのだが、内容は硬派でアカデミック、加えて作中の指摘は芯をついたものばかり。
竹内氏の著作や論考は、大きく分けて三種類ある。①出身地、階層、学歴そして文化資本(byブルデュー)から見た人物プロファイリング②明治から昭和前期における立身出世を目指すロマン溢れる受験物語の素描③左翼・右翼の政治闘争とその人物像の紹介
①に関しては、どの著作で読んだのかは失念したが、「丸山眞男(山の手・正統エリート)vs吉本隆明(下町・傍流エリート)」や「姜尚中(九州のバンカラ高校・左寄りvs鈴木邦男(東北のミッション高校・右寄り」といった人物像の対比図式を大変鮮やかに整理し直していて、すごく興味深かった覚えがある。人物のチョイスも上手い。
そして、忘れてはならない本作は当然、②の範疇に入る。特に個人的に感銘を受けたのは、大正期前後にピークを迎える「通信教材(講座)」が実は、苦学生にとっては最後まで修了するのが極めて難しく、実質これらは立身出世を目指す野心溢れる彼らへの「クーリング装置」として機能していたのではないかという指摘だ。確かに、勉学や入学試験は一見、「平等」な競争システムに見えるが、本当のところ、経済的にも学歴的にも豊かな家庭で生まれ育った受験生の方が有利だろうし、それに――不都合な真実だから、あまり誰も声を大にして言わないが――生まれながらの能力で成否が決まる部分も大きい。だから、当時の通信講座は、そんな「夢見る熱い受験生」の頭を冷やす、巧妙だが現実的な装置として働いていたと、竹内氏は看破する。
さて、③にあてはまる著作といえば、具体的な書名は挙げないが、「丸山真男」・「清水幾太郎」・「蓑田胸喜」らを扱った一連の伝記ものや論考がある。これらは単に人物批評だけでなく、彼らを取り巻く時代背景なんかにも目敏く焦点を当てていて、人と時代を丹念に読み解く労作揃い。
それにしても今、竹内氏の著作群を大雑把に3種類に分類したが、自分が最も気に入ってるはずの彼の『教養主義の没落』(中公新書)が、その3つのうちどれにもあてはまらないことに気づいてしまった!往々にして、レッテル貼りやカテゴリー分けというのは、上手くいかないものである(というより、範疇や枠組みから逸脱するものは必ず存在するものだし、そういうものにこそ意外と光る何かがあったりするから、この世界は面白い)。

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2025年04月27日

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