あらすじ
惨事・戦争・虐待と心的外傷。大事故・世界大戦・性暴力。大事件のたびに存在を示唆されたトラウマは、なぜ「発見」が20世紀後半まで遅れたのか? フロイト、フェレンツィらの苦闘からPTSD成立までトラウマ発見の歴史をたどり、同時に、トラウマをつねに否認しようとする社会の「秘められた欲望」を暴く。(講談社選書メチエ)
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Posted by ブクログ
心理学においてトラウマという症状がいかにして認知されていったかを歴史的に追った話。単にトラウマという症状が発見されるだけでなく、軍事研究での戦士リカバリーという側面でないと豊富な研究資金は確保できないこと、敗戦国では戦後復旧がたいへんでトラウマに触れる余裕がないこと、研究者がユダヤ人が大部分だったことからユダヤ人が迫害された第2次世界大戦ではユダヤ人自身が世界中の第三国に迫害を逃れて離散して研究が進まなかったこと、子供の虐待などは医療の発達によって骨折などが客観的に大量に発見できるようになってやっと公に子供の虐待が認められるようになったこと、原爆のようなトラウマは心理学で扱える域を超えていて文学などがもっぱらトラウマのテーマとしていること、阪神大震災でトラウマが受け入れられたのは被災地の周りに成熟してかつ平穏な地域があったという条件があったことなど、トラウマがトラウマとして認められるには様々な条件が整えられることが大切だということ。最初読み続けるのには退屈だったが、読み終えると、いっきにトラウマの発見の歴史が俯瞰できて感じる面白さが増した。