【感想・ネタバレ】花祭のレビュー

あらすじ

修験者たちによって天龍川水系に伝えられ、中世に始まるとされる民俗芸能「花祭」。湯を沸かし神々に献じ、すべてを祓い清める冬の神事に、人々は夜を徹して舞い続け、神と人と鬼とが一体となる。信仰・芸能・生活・自然に根ざした祈りを今に伝える奥三河地方の神事を昭和初頭、精緻に調査し、柳田や折口にも影響を与えた、日本民俗学の古典的名著。(講談社学術文庫)

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Posted by ブクログ

 民俗学者早川孝太郎による、長野県天龍川沿いの村々に行われている奇祭「花祭り」に関する研究書。ただし、本書は1930年に岡書院から刊行された上下二巻になる同名書籍の抄録である。しかし抄録とはいえ読み応えのあるもので、素人が囓るにはこれで十分だろう。
 「花祭り」とはいえ別名霜月神楽といい、11月から12月の夕刻から翌朝にかけて、夜を徹して行われるのである。祭りの構成は複雑で、種々の神事と舞とが連続して執り行われ、しかも各所に相違があって概要を述べるだけでもかなりな労力を要する。
 しかし、本書の特徴はこうした複雑な祭祀のあれこれを叙事的に記述するだけでなく、ところどころ叙情的で文学的で、格調高い名文で語られているところであろう。

 『天龍川  昭和二年の夏のある日、八月の午後の太陽をあびて、自分は遠江の秋葉山の麓にいた。』
 こんな冒頭文を突きつけられたら、ページを繰らずにはいられないだろう。
そして、一軒の農家の老人から聞かされた天龍川という名の特徴について語られる。
『天龍という名は、川の名としては珍しい名で、しかも水上の諏訪湖から海にそそぐ、いく十里の間に、国をことにして流れていたにもかかわらず一様にひとつの名でよばれてい
る。しかも天龍という地名は、沿岸のどこにも見当たらぬ、これはただの川ではないと。』
 そして天龍川の流れる土地土地の有りようについてのべ、いよいよ祭りの概要に入っていくのである。
 花祭りの細部については本書を始め研究書がいくつも出版されているので割愛する。
 本書が出版されてから早80年を過ぎた。土地によっては祭りが重要無形文化財に指定されているものもある。当時と比べて、ひとびとが暮らしを営んだ山奥の経済は随分変容し
ているだろう。経済がなければひとの暮らしは成り立たぬものである。祭りもまた、ひとの暮らしの有りように従って変わり、受け継がれ、あるいは廃れるものである。
 どのような形であれ本祭りが末永く存続すること、一方祭りの存在がひとびとの暮らしを圧迫せぬことを祈らずにいられない。

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2011年04月03日

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