あらすじ
老いは死へ近づいてゆく生の下降である。老いを生きるとは、衰退と喪失、不安と理不尽を体験することである。長い歳月をかけてつくり上げた自己像の変更を余儀なくされ、私たちは自問する。老いの価値はどこにあるのか、と。それは、ひとの傍らにあり、ひとと共にあって、移ろう時のなかで互いの存在を肯定し合う関係を紡いでゆくことにほかならない。いのちへの思いに立ち返り、老いのあり方を考える思索の書。
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Posted by ブクログ
これ、むずかしい部分も多かったけど、かなり好き。
鷲田清一さんに似てるなあと思って著者略歴を見たら、生まれた年、勤務していた大学もいっしょ。おもしろいもんだと思った。
「為す・する」ではなく「ある」を評価できること。そんな見方がもっとなされればいいなぁと思う。
自由についての章、死についての章はむずかしい。ぜひ時間が経ってから、また読みたいです。
Posted by ブクログ
「老い」や「介護」「死」といった問題に、倫理学の視点から考察をおこなっている本です。人間存在の時間構造から「生」と「死」の問題に迫ったマックス・シェーラーや、かけがえのない他者との人格的な交流を通じて、みずからを「死」に臨む個性的な人格として了解するようになると論じたランツバーグらの思想が手がかりにされていますが、学説の紹介にとどまらず、日常的な「老い」や「死」の経験につきしたがいながら、流麗な文章で著者の思索が綴られています。
中井英夫は、死を前にした寺山修司から「人は死んだらどこへゆくのか」とたずねられたといいます。寺山の死後、この問いを抱えつづけた中井は、やがて「人は死んだら、残された者の心に行く」と考えるようになります。小松美彦の本で紹介されているのを読んでこのエピソードを初めて知ったのですが、そのときの感銘を倫理学的な仕方でより深く考えるための手がかりを、本書から与えられたように思います。