あらすじ
■安倍政権の政策の目玉になった「生産性革命」。生産性は「働き方改革」の焦点でもある。それだけに生産性については、世の中の関心は高まる一方だ。だが、実は生産性についての巷間の論議には多くの誤解があり、俗説もまかり通っている。
たとえば、「企業収益が高まれば生産性が上がる」「生産性向上には価格引き上げが必要」「高いサービスに見合った価格付けがされていないのが低生産性の原因」「設備投資を促進すれば生産性は上がる」「日本の生産性は欧米と比べて低い」等々。
しかも企業経営者や政策担当者も俗説を受け入れているのが実態だ。安倍政権の教育費用無償化も「生産性革命」論の一環だが、その費用対効果は明確でない。これでは、本当に効果のある政策が実行されるのか怪しい。
■本書は、日本経済、サービス産業の生産性分析で定評のある著者が、生産性に関する正しい理解を解説するともに、生産性を上昇させるために真に有効な処方箋を考察する経済書。
生産性についての正しい理解を解説するとともに、「イノベーション」「教育・人的投資」「働き方改革」「企業経営」「規制改革」「グローバル化」「都市・地域経済」「財政・社会保障政策」「エビデンスにもとづく政策」といった政策と生産性がかかわる論点を整理し、有効な処方箋の考え方を提示する。全体として、1)経済・社会全体の仕組みの見直し、2)生産性向上策と同時に、生産性を抑制する政策の改善、3)相反する効果や副作用をもつ政策の組み合わせの工夫、4)政策の予測可能性を高めること――の重要性を明らかにする。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
本書は、「生産性をキーワードにした日本経済論ないし経済政策論」、生産性を切り口に日本の経済政策が論じられている。
論点は様々。イノベーション、人的資本投資、設備投資、経営の質、グローバル化、マクロ経済政策などと生産性の関係。
論じられ方は、筆者の考えを主張する、ということではなく、上記の論点と生産性の関係に関する学術論文を丁寧に整理して紹介するというものである。
すごい労作。半端ない数の論文の調査と、ご自身の独自調査がベースとなっている。
いわば、調査論文とでも言うべきものであるが、読み物としても、非常に面白い。
経済政策について筆者ご自身の考えも、最後に述べられている。
ただ、メインは個々の経済政策についてではなく、政策を立案、実行する際には、「エビデンスベースに考えるべきこと」「新しい政策など、まだエビデンスが十分でない場合には、事後的にきちんと政策評価を行うこと」ということ。
この主張は、当たり前のように思えるが、実際には、このようには政策は決まっていない。また、企業内の意思決定も、そのようには行われていないこともあるのではないか?
マクロ経済学の面白さも感じさせてくれる。
Posted by ブクログ
生産性について勉強したいと思い本書を購入しました。その意味では当初の目的は十分果たせました。本書は生産性がどのような要因で上がる/下がるのかを通説ではなく実証研究をもとにしたエビデンスをベースに網羅的に解説しています。過去の論文を総ざらいする手法を「メタ分析」と呼びますが、その意味では生産性に関するメタ分析書だと言えるでしょう。冒頭に書かれているように、テーマごとに大事な学術論文を多数参照していますので、より詳しく知りたい人は巻末の論文を見ることで理解が深まるという位置づけです。
リファレンスとしてはほぼ完ぺきだとは思いますが、読み物としては正直後半からきつくなってきました。淡々とした記述が続くため、面白さ、ワクワクさなどを期待すると裏切られると思います。イメージとしては〇〇白書を延々と読んでいるようなイメージです。情報量や内容は完璧だが、読み通すのはかなりの労力がいる、という類の読み物です。ただ繰り返しになりますが、生産性についての辞書のようなものと考えて近くにおいて置く分には十二分の内容かと思います。