あらすじ
「不格好な愛」にどう向き合えばいいのか
継母との秘められた関係。
罪から逃れ出た青年は、新たな人生を求め、ガラス工芸の道に飛び込む。
心から信じた者の裏切り、繰り返される過ち。
千四百度の炎に煽られながら彼が探し続けたものとは。
世の中にあふれている「不格好な愛」への向き合い方を問い直す傑作長編。
装画・塩月悠
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
初出 2017年「オール讀物」
高校生だった元基が20代の継母希帆との肉体関係を持ち、生まれた弟が自分の子供だと仄めかされ、苦しんで家を出る。
雇ってくれたガラス工房の雨宮もまた、自分が兄の子であろうことを、母が兄を愛していたことを知って鬱屈を抱えてきていた。
信頼していたバイト先のカフェの優しいマスター倫夫が事故死し、裏でたくさんの女性関係があって、希帆もその中にいて事故死のきっかけを作ったことに衝撃を受け、希帆への思慕を断ち切って溶けたガラスに向かう。
十代の義理の息子の子を産む二人の母親が登場し、雨宮の方は純愛っぽく描かれるがおかしくないか?
他方の希帆は、子供の頃から男の弱みを見抜いて、欲しいものを与えながら手玉に取る悪女として描かれる。動機は退屈だから。
怖いねえ。きっと元基はトラウマになるだろうな。
Posted by ブクログ
父親の再婚相手、継母の毒牙にかかって思い悩む男子高校生の話。生まれたばかりの弟がもしかしたら自分の息子かもしれない、だなんてとんでもない展開に仰天しました。
これは間違った愛だと、家を飛び出して雨宮というガラス工芸師のところに住み込みで働くようになった元基。継母であるスミレを遠ざけるのに、反面抗いようもなく求め彼女の来訪を待ち続けてしまう姿は可哀想でしかたなかった。
スミレという女は、とことんミステリアスで幻想めいていた。退屈な日常に惓んでトラブルが起こりはしないかと舌舐めずりしながら男を誑かしまくっている悪女。
行くあてのない元基を保護してやっていたカフェ・ヘイナのマスターとの関係が明らかになったところでは本当にその救いようのなさに吐き気がした。
だからこそ、最後まり子さんや雨宮さんの言葉で立ち直る元基の姿は業火に燃える迫力を感じた。
受け入れられなかった愛、諦めきれない幸福、ありとあらゆる無念さを、粉々に叩き割って、そうして炉にぶち込む。千四百度の炎ですべてを溶かし、光を受けてゆらめく自分だけのガラス細工を生み出すのだ。
元基がスミレを愛した事実に変わりはない。それは嘘ではない。