【感想・ネタバレ】アメリカの原爆神話と情報操作 「広島」を歪めたNYタイムズ記者とハーヴァード学長のレビュー

あらすじ

米国民にいまだ理解が広がらないヒロシマ・ナガサキ。五つの原爆神話を信じるからだ。事前に投下警告があった、日米100万の命を救った、放射能の影響は全くないなど、あり得ない神話を作り広めた国・科学者・ジャーナリストの暗躍をあぶり出す。

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Posted by ブクログ

原爆の被害の真相はWilfred Burchettが45年9月に発表したものの,それを打ち消す形でハーバード大学のJames B. Conantの主導のもとにAtomic Billと呼ばれたニューヨークタイムズの記者William Laurenceの提灯記事,MIT学長の論文や戦争長官だったHenry Stimsonの論文で,放射能が発生しないので通常兵器のでかいものだといういわゆる原爆神話が作られた過程を詳細に記載した好著だ.さらに「The Beginning or the End」と題された映画でアメリカ国民に捏造した情報を提供している.よく出てくる原爆で"100万人のアメリカ兵の命が救われた"という説も,casualitiesという語が使われており,通常は2割が戦死者だとされているので,正確には20万人になる.うまいごまかし方を地で言った表現だ.46年6月の戦略爆撃調査では,原爆を落とさずとも日本は通常兵器と海上封鎖で11月には降伏するだろうと米国自体が断定している.それにしても,威力もさることながら放射能の影響を知っていた科学者たちの意見は,政府の巧妙なプロパガンダの中に埋没したようだ.怖い話だ.

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2018年12月02日

Posted by ブクログ

むしろ戦後に本格化したアメリカ版「大本営発表」。その内実を紹介し,解体してゆく本。
米における戦後の原爆報道キャンペーンは見事に奏功。今でも原爆神話(事前警告をした,軍事目標を狙った,終戦を早め何百万もの米兵・日本人の命を救った,放射能障害は僅少)は多くのアメリカ人の心を捉えている。
さらに原爆神話がまさに「神話」であることも印象深い。
つまり,真珠湾で騙し討ちをし,捕虜の虐待など野蛮な仕打ちをした日本は悪である,正義の我々に神は絶大な威力をもつ武器を与えた,そして広島と長崎はソドムとゴモラのように焼き尽くされたのだ。
…絶句である。
ただ世代を経るにつれこういう認識は薄れているようなので,それは良い傾向だと思う。

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2018年09月12日

Posted by ブクログ

アメリカが原爆投下について語ってきた評価、いわゆる「日本を降伏させ、第二次世界大戦の終結を早めた」、「戦争の早期終結、日本本土上陸作戦の回避により日米双方で100万もの戦死者を生まずに済んだ」、「事前に警告をして、一般市民の犠牲を最小限に抑えた」等々が、戦後、原爆という残酷な兵器を使用したことを隠蔽するために、アメリカ政府とニューヨーク・タイムスという伝統ある新聞社が結託して行ったプロパガンダに過ぎないということを丁寧に事実をたどることで示した本。
投下から約一年後にハーシーがニュヨーカーに発表した「広島」がアメリカに及ぼした影響(そのセンセーショナルさと、一過性で終わった理由)や、そうやって独自の取材でそれまでの統制された情報による原爆像に反する姿を伝えようとしたジャーナリズムを、いかに政府とニューヨークタイムスの記事が潰してきたか、ということでもある。
大本営発表はアメリカにもあるし、一方でそれだけを信じるわけではないジャーナリズムもまた存在しているから、こうやって後年の評価、検証が可能になる。
文書を破棄していたらこういう検証ができなくなるんだけどなあ。

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2019年07月02日

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