あらすじ
砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」
【小泉進次郎】「負けて勝つ」農政改革の真相
【植物工場3.0】「赤字六割の悪夢」越え、大躍進へ
【異企業参入】「お試し」の苦い教訓と成功の要件
本書は、これまでの農業関係の本では真正面から取り上げられることの少なかった三つにテーマを絞り込んだ。
「小泉進次郎」「植物工場」「企業の農業参入」。これらをめぐり、意見は分かれている。
ある人びとからすれば、小泉は農業改革の旗手であり、植物工場は未来の食料生産を支える希望の技術で、企業は遅れた日本の農業を再建する立役者となる。一方、別の人たちに言わせれば、小泉は農業のことをよく知らず、植物工場と企業参入は失敗だらけ。
収益性の低さにさらされながらも、これまで黙々と農業を続けてきた農家の努力にこそ未来を託すべきだ、となる。
前者の意見は農業を専門としない人たちに多く、後者は農業のことを長年、地道に観察してきた人たちに多い。そのどちらにも正解はないというのが本書の立場だ。
どっちつかずの議論にするのが目的ではない。まずは先入観を排除し、問題を浮かびあがらせる。植物工場と企業参入は失敗例を詳しく伝え、小泉の農政改革に関しては残された課題を詳述した。そのうえで、過小評価されがちな三者の可能性に光を当てた。
農業に関する本としては、本書は「異端」に類するのかもしれない。だが、将来の食料問題を見据え、農業の課題を点検するためには、農業ジャーナリズムもこれまでの境界を越えてテーマを広げるべきだと思っている。
(本書「はじめに」より)
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Posted by ブクログ
深く切り込んでいて、著者の農というテーマへの執念さえ感じさせた。
表面的な企業礼賛論ならだれでもできる。
でも、著者は農政の歴史、現場の意識、政治、行政、企業経営(大規模も小規模)を知っていて、大局観も持っている。
その上で、地に足のついた、泥臭い取材も重ねていらっしゃる気がする。
既存の農家を「救ってやる」という上から目線的な企業参入ではうまくいかない、とか。
企業の農業参入が始まってから10年余り。考察がすごい。
地道に続けている企業、撤退した企業。それぞれの参入の考え方と戦略を丹念に取材している。
そして、農協改革のことと、農業法人的な家族経営から出発した企業経営なども丹念に取材している。
最後が、なんか清々しいのもすごい。
本の中で紹介のあった方々の、それから著者の方の、こういう大局観と、真摯に個別のことを分析し、そして理念を持ってする仕事観を、自分も持ちたいものだと思う。
Posted by ブクログ
・日本の農地をフル活用した場合、栄養バランスを考慮せずにイモ類などを中心に栽培すれば128%を供給することができるがこれは現実的ではない。栄養バランスのよい食料を供給しようとすると一人あたり必要な量の69%しか提供することができない。
・現在の日本の農業は、企業的な経営感覚を持ち込んで大規模化しようとする流れと、耕作放棄という相反する2つの流れがある。農政としては、作物を選択して競争力のある分野に集中させようとする補助金の出し方と、広い分野に補助金を出して経営安定を図ろうとする出し方と二通りあり、農林族は後者を主張している。
・遅れている日本の農業を自分たちなら改革できると思って参入してくる企業は多いがだいたいうまくいかずに撤退している
・植物工場で低カリウムレタスを作ろうとしたが、歩留まりが悪く成功していない。カリウムは植物の成長には必要な要素で、不足すると生育が遅れる。また、カリウムは厚くて重い外側の葉っぱに多く含まれるため、これを外して出荷することになるが、成長が遅く、トリミングの量が多いという二重の不利を被るため、通常の半分程度の量になる。
・植物工場自体は2016年で191箇所と、5年で三倍に増えた。ただし、ハードやソフトが個々にカスタマイズされており初期投資が割高、作業工程が標準化されていない、販売先の確保ができていないなどの問題がある。人工光型の58%は赤字で25%がとんとん、黒字はわずか17%だという。太陽光型では黒字が48%、太陽光と人工光の併用型では57%が黒字になっている。
・養液に光が当たらないようにしないと藻が繁殖して養分の吸収がさまたげられるなど、ちょっとしたノウハウがなかなか伝えられない