【感想・ネタバレ】世界史を大きく動かした植物のレビュー

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Posted by ブクログ

農作物が文明を支えたのはある程度一般常識だが、それ以外にも様々な植物が歴史に紐づけられていて非常に面白い。古代オリエントはコムギ・オオムギ、インダス文明はイネ、黄河文明はダイズ・ムギ、長江文明はイネ、アステカ・マヤはトウモロコシ、インカはジャガイモ。生産量トップ5は当然入ってくる(トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモ、トマト)、三大穀物がいずれもイネ科なのは必然のようだ。 自然が豊かな地では農業は発展せず、逆に環境が厳しいところでこそ手間暇かけて農業をやる背景になる点が印象的。アフリカ東部で出現した人類が大地溝帯によって森林から草原での生活に代わり、それがどのような淘汰圧を作用させたのか気になる。牧畜をやるにしても食用にするのが難しいイネ科植物が結局必要なので植物の重要性は変わらない。黄河文明と長江文明の激突である春秋戦国時代も結局は寒冷化による農作地確保の争いが原因。その後、敗れた越の人々は山の中に棚田を拓き、日本にも伝わってきた。もともと自然が豊富だった東日本は縄文時代後期の寒冷化後に遅れて農業が広まってきたとのこと。イネは欧州で主流だったコムギなどと比べて収穫できる量が格段に大きく、日本の人口を支える要因となった。畑を休ませる必要もなく、田んぼでは毎年イネを育てることができるのでなおさらだ。ダイズと合わせれば必要な栄養が全部揃うが、ダイズはほとんどアメリカ大陸からの輸入に頼っている状態。戦国武将はそれぞれ山に囲まれた拠点にいるイメージだが、まさにコメの穀倉地帯を巡る争いだったともいえる。その後平和な江戸時代が来ると平野部の開発も進んだ。もともと東南アジア原産だが南国は自然も豊かなため、北限地域である日本ほどイネに依存しなかった模様。逆に欧州では草原を動物に食べさせて家畜肉でも栄養を取る必要があり、保存のためのコショウが重要で大航海時代を迎える下地となった。十字軍がきっかけでコショウが知られたとされるが、世界史はまさに植物というか食糧に支配されているかのようだ。トルデシーリャス条約の分岐点はもっと大西洋東側かと思ったが、ブラジルはポルトガル領となったように結構西側だったのだと再認識した。その後のサラゴサ条約の境界線がちょうど日本とは…結局は布教活動をしないオランダとの国交が確立する形になる。 ところでアフリカとの交易で黒人奴隷が増えて自国の生産性が落ちたとか、富が腐敗をもたらしたからポルトガルが衰退したと指摘しているが、出資元のイタリア諸国について述べておらず、金融という観点から歴史の本質を見れていないのが残念。オランダについても世界初のバブル経済といわれるチューリップ・バブルが衰退の原因と指摘しているが、商売気が強くて海軍力に投資しておらず軍事力でイギリスに敗れた本質が欠如しているのも残念。
各国の料理は古い伝統の印象があったが、大航海時代がきっかけとなっているケースが多いのは驚くべき事実。トウガラシはアメリカ原産でありながら欧州よりも暑さの厳しいアジアで受け入れられ、トムヤムクンやグリーンカレー、四川料理などが発展。韓国でもトウガラシが受け入れられているのは元の支配下で仏教が禁じていた肉食が習慣化したからだった。聖書に載っていないジャガイモが苦労の末に欧州でも普及するが、その結果ジャガイモを食べる唯一の家畜である豚が広まり、欧州の肉食が進んだ。ドイツのソーセージもポテトも大航海時代の結果の一つ。麦類に変わってジャガイモが主食となると、やせた土地でも寒冷地でも収穫ができ保存もきくため余裕ができ、人口が増えることで国力も上がり、産業化への労働力も確保できる。さらにビタミンCを多く含むため航海食での壊血病も防止できる。アイルランドは単一種のみジャガイモを栽培していたので病気によって大飢饉になり、その時の移民がアメリカで活躍する因果もある。イギリスの船乗りが保存食で採用し、後にイギリス海軍や日本海軍にも取り入れられたカレーの由来は、インドの古くから伝わる伝統料理のイメージがあったが違った。
ジャガイモと同様にアンデス原産のトマトも、大航海時代の結果まずナポリで普及し、スパゲティやピザが誕生した。地中海料理のルーツも大航海時代の賜物というわけだ。
食用以外では産業革命のもとになったインドの綿も紹介されている。綿花と奴隷による三角貿易の他に、綿製品とアヘンによる三角貿易も紹介されている。インドの紅茶も中国産に依存しすぎたイギリスがアッサム種を発見したことが起源となるのでそれほど古い話ではない。
ほかには、中央アジア原産のたまねぎのおかげで古代エジプトが栄えた事例や、戦国時代の軍用食としての味噌なども取り扱われている。

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2024年04月04日

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高校生の頃、オリーブの研究をしている先生が「ローマ時代のオリーブの役割と交易にもたらした影響」といったテーマで講演をしてくれた。とても印象に残っていて面白い講演で、まさにこの本のはなしに通じるな、と。
そしてこの本も面白かった!
普段食べているものだからこそ歴史を身近に感じる。

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2023年12月16日

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今年度はどうやら「社会科」に興味があるようで、歴史、地理、政治、経済などにまつわる書物を主に読み耽っております。
こちらは、いくつかの食材になる植物を題材にザッと「社会科」が学べる作品でした。
イネとかコショウとか…どのような質で、どこから来たのか、どんな国を渡り歩いてポピュラーになったのか。この植物たちと人間の関わりとは、など。
とても身近な食材ばかりなので、改めて見直す機会にもなりました。

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2023年10月21日

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ネタバレ

13種類の植物を取り上げ、それぞれの植物と人類との関わりの視点から世界史を紐解いている。
植物という自然側からの視点で、世界史を見るのは新鮮で、より立体的に世界史を感じることができた。そして何より、人類の生活に対する考え方が変わった。

特に興味深かったのは、イネやコムギ、トウモロコシといった穀物の章。人類の文明には、それを支えた作物があり、それぞれの大きな文明と主要な穀物の農業はセットだった。
人類は、砂漠に水路を引き、そこに種子を播いて育てることで農業をスタートさせ、保存が可能な穀物は、「富」を生み出し、社会や争いを生み出していった。
現代では、その植物の起源地ではない場所に運ばれ、栽培されている作物が多い。和食に使われる食材も、もとを辿れば、海外にルーツをもつものばかりだ。一見人類が好き勝手に植物を支配しているようにも感じるが、実は支配されているのは人類の側なのだと思えてくる。


「恵まれた地域の方が、農業は発達しやすいように思うかも知れないが、そうではない。農業は安定した食糧と引き換えに、重労働を必要とする。農業をしなくても十分に食糧が得られるのであれば、農業をしない方が良いに決まっているのだ。」

「栽培作物は、人間たちに世話されて、何不自由なく育っている。そして人間は、せっせと種をまき、水や肥料をやって植物の世話をさせられているのである。そのために、人間の好みに合わせて姿形や性質を変えることは、植物にとっては何でもないことなのだろう。人間が植物を自在に改良しているのではなく、植物が人間に気に入るように自在に変化しているだけかも知れないのだ。」

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2023年01月10日

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世界史を植物の切り口から見ると、あんなこともこんなことも植物が作用して大激動!という本。
個人的にはじゃがいもととうもろこしの章が気に入ってます。とうもろこしは宇宙からきたのかも…で一番笑いました。

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2022年02月07日

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ネタバレ

p32
イネ科植物はタンパク質や脂質を種子に持たせる余裕がないから、光合成で得た炭水化物をそのまま種子に蓄えた。 
人間の胃袋には限界がある。保存出来る種子は財産であり分配できる富である。

p43
15世紀コムギの収量はわずか3〜5倍、17世紀の江戸時代の米は20〜30倍だった。現在でもイネは110〜140倍もの収量があるのに対して、コムギは20倍前後の収量しかない。

p50
戦国時代は、価値が安定しない小判より、米の方がずっと信用できた。徳川幕府の時代には米本位制が完成。田んぼを作るのは投資。しかし米の生産量が増加すると米の価値が減少し、米以外の物価が高くなる。つまりインフレが起こる。
徳川吉宗は米の価格を上げるために享保の改革を行った

p62
スペインやポルトガルは自国の貿易の独占を守るためにオランダ人は野蛮であるとアジアの諸国に伝えていた。悪評を払拭するためにオランダは現地の君主と友好深めると務めた。また乱暴な征服や強引な植民地支配によりスペインやポルトガルといった大国が瞬く間に凋落していく様子を目の当たりにしたオランダイギリスは丁寧な植民地支配を心がけたのである。
オランダでは複数の商社が競ってコショウを入手しようとしたため現地でのコショウの価格は高騰した。さらにオランダ国内では競ってコショウ売ったのでコショウの価格が下落した。そのためオランダは複数の商社をまとめて東インド会社を作り貿易の権限を独占させた。航海技術が進み、大量供給でコショウの価格は下落した。
コショウはむしろステータスを表すシンボル的な存在だったのだ。そのため金と同じと言われたコショウの価格は急激に下がっていった。

p76
カプサイシンは舌を強く刺激しそれが痛覚となっている。人間の体は痛みの元となる唐辛子を早く消化分解しようと胃腸を活発化させ食欲が増進する。カプサイシンを排出しようと体の機能が活性化され血液の流れを早まり発汗もする。(暑い地域での体力維持に適している)
エンドルフィンも分泌される。辛ければ辛いほどエンドルフィンは分泌される。

p82
日本と韓国の料理の辛さの違い。
日本では「唐辛子」と呼び、韓国の古い書物では「倭辛子」と記されている。
日本では仏教で肉食を禁じていたが、韓国では騎馬民族の元の支配下で肉食が習慣になり、ヨーロッパと同じように肉を保存するため香辛料が必要になった。

p89
じゃがいもの葉のソラニンは有毒で、その致死量はわずか400ミリグラム。
じゃがいもは種子でなく芋で増える。聖書では神は種子で植える植物を作ったとされ、じゃがいもは悪魔の植物であると言うレッテルを貼られ裁判にかけられた。刑罰は火あぶりの刑。
ジャガイモの花を愛したベルサイユのマリーアントワネットは、ギロチン台でバラの花びらのように散った。

p97
ジャガイモさえあればたくさんの豚を一年中飼育することができる。さらにジャガイモが食料となったことによってそれまで人間が食べていた麦などを牛の餌にすることができた。こうしてヨーロッパの国々は冬の間も新鮮な肉を食べられるようになった。

p106
イギリスの船乗りたちは日持ちのしない牛乳の代わりに保存性の高いカレーパウダーを利用してシチューを作った。このシチューに航海食として欠かせなかったじゃがいもが入れられた。こうしてイギリス海軍の軍隊食となった。インドではカレーはスープ状だが、イギリス海軍では船の揺れに対応するためにカレーにとろみをつけるようになったと言われている。1902年に日英同盟が結ばれるとイギリス海軍を見習って日本軍もカレーが食べられはじめ、日露戦争が終わると家庭へ普及した。
肉じゃがはカレー粉を砂糖と醤油に変えたもの。

p113
リンゴは紫色のアントシアニンと橙色のカロチノイドの二つの色素を巧みに組み合わせて赤い色を出している。対してトマトはリコピンという真っ赤な色素を持つ。

p116
ケチャップは古代中国で作られていた「ケツイアプ」という魚醤だったと言われている。ケチャップは今でも調味料を指す言葉でマッシュルームケチャップもある。
トマトの生産量は1位中国、2位インド。
植物学的にはトマトは「植物の果実」でフルーツ。
一般欧米人的にはデザート的に食べないので野菜。
日本で「果物」は木になる実なので、トマトは野菜。

p127
工業が主産業であったアメリカ北部の人々はイギリスから輸入される工業製品に高い関税をかける保護貿易を行いたかった。しかしイギリスにワタを輸出している南部の人々は自由貿易を推進していく必要があった。
北部と南部は利害を対立させ、南北戦争が起こる。
イギリスの援助を阻止したかったリンカーン大統領は奴隷解放宣言を出しイギリスの支援を難しくさせた。南北戦争は北軍の勝利で終わりを告げる。

p131
アラル海を干上がらせたワタ畑
ワタは塩害に強くまた海に近い干拓地は海運に都合がよかった

p133
秦の始皇帝が不老不死の効果があると信じて飲んでいた、茶。
唐代には座禅の眠気覚ましとして煎茶が用いられ、宋代になると抹茶が飲まれるようになる。臨済宗の栄西はこの抹茶の技術を日本に広めた。
ところが、明の洪武帝が富裕層の飲み物であった茶を庶民に広めるために散茶を広めたため、中国では抹茶は廃れてしまった。
名誉革命後、イギリスの上流階級にチャが広がった。チャが広まる前はコーヒーが飲まれていたが、コーヒーハウスは男性の社交の場だったため、女性のためにティーガーデンが作られた。独立戦争 アヘン戦争 

p144
現在チャは中国種とアッサム種の2種類。
緑茶はアミノ酸の旨味を楽しむ飲み物で、紅茶はカフェインの苦味を楽しむもの。

p171
味噌は軍事食。ダイズのみで作ると赤味噌、米麹を加えると白味噌。

p179
タマネギのオニオンはラテン語のユニオ、真珠に由来。
建造物の擬宝珠(ぎぼし)はタマネギではなくネギ坊主を模している。

p196
織田信長が愛した花は、トウモロコシの雌花、絹糸


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2022年02月05日

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タメになる。

普段読まないようなジャンルで、専門書的な雰囲気だから与し難い印象もあったが、全く問題なし。分かりやすい文章、興味深い記事、博学な著者によるトレビアが満載。読後、少し賢くなった気がする。

目次も秀逸。コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ワタ、チャ、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、チューリップ、トウモロコシ、そしてサクラ。これらの植物としての性質のみならず、歴史に関わるエピソード、言語学的考察までのおまけ付き。

例えば、トウモロコシ。マヤ文明では、人間はトウモロコシから作られたと言われ、トウモロコシは、黄色、白、黒や橙色など、人間の肌の色に似ている。マヤの人々がその時代、何故、地球にそれらの肌の色の人間がいる事を知っていたのか。また、トウモロコシは、作物として食べられるための構造をしており、初めから食糧として地球に齎されたのではという話もある。そして今、トウモロコシはビールやかまぼこ、工業用アルコール、ダンボールにも使われている。…とまあ、トウモロコシの一部だけでも、お腹いっぱいの知識。へー、へー、面白い!

チャやワタ(綿花)なんかは、戦争にも関係してくるし、イネは稲作によって貯蔵、富の概念が生まれたという話は、ジャレドダイヤモンドを読んでいるみたい。一読の価値あり。

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2022年01月15日

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1ページ目からずっと面白い!
「生き物の進化の理由」や「歴史のなぜ」を12の植物の視点から説明する

ジャレド・ダイヤモンドの「銃•病原菌•鉄」と同じように知的好奇心をくすぐられる。歴史という大きな物語を、ひとつの視点で見つめることの面白さを味わえた

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2021年12月12日

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ネタバレ

とても面白かった。
学生の頃、こうゆう本と出会っていたら世界史の見方ももっと面白くなったかもしれない。
人間が植物を利用しているようで、植物に利用されているのかもしれない。

読書メモ
・熱帯に香辛料が多いのは、病原菌や害虫の多い熱帯で、植物が身を守るために蓄えていた辛味成分こそ香辛料だから。
インドのお茶は抗菌作用のカフェインが多い。
・原産地ではなく輸入経路で唐から日本へ輸入されることが多く、トウガラシやトウモロコシなどの名前が付いた。カボチャがカンボジアを語源としているのと一緒。
・辛味は味覚にないから、痛覚で感じ取っている。
・肉を食べる韓国では肉の保存の香辛料としてトウガラシが受け入れら、仏教国の日本では逆に肉を食べないので受け入れられなかった。
・牛はジャガイモを食べないが、豚は餌としてジャガイモを食べる。こうしてベーコンやハム、ソーセージが食卓を彩ったのがドイツ。
・ナス科は有毒植物が多い。
・抹茶は中国から伝えられたが、中国では廃れたため、日本独自の文化となった。
・アメリカでもかつては紅茶を飲んでいたが、イギリスの植民地となり茶の規制が開始。アメリカの人々は紅茶の代わりにコーヒーを飲み始めた。紅茶の味に似せ浅く焙煎したのがアメリカンコーヒー。
・戦後アメリカの農業政策により、アメリカの重要輸出品目のダイズは日本では生産が縮小された。自給率が低い要因のひとつ。
・私たちが食べている玉ねぎは葉っぱの部分。
・明治時代、コレラが流行した際、玉ねぎが効くという噂が広がり、玉ねぎが受け入れられていった。
・世界最初のバブルはチューリップバブル。
・トウモロコシはガムや栄養ドリンクなど、さまざまな食品に入っている。
・園芸で盛んだった江戸の染井村が吉野のブランド力にあやかって作った桜がソメイヨシノ。

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2021年10月10日

Posted by ブクログ

トウモロコシの章で強い衝撃を受けた。
あまりにも万能すぎる植物…
知らぬ間に植物に依存し、身を粉にして働く人類の歴史について詳しく語られている。

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2021年03月09日

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今私たちの周りにある植物と人類の関わりを世界史の流れから見ている。一つの植物によって歴史が進んでいくことがとても興味深く読むことができた。

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2021年01月01日

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非常に興味深く楽しめた一冊。
普段何気なく口にしている植物に対して、人間側からは勿論食べるために生産をし、いわばコントロール、支配しているものと捉えがちだが、植物側からしたら、人類を利用し、自身の子孫を世界に広げることに成功し、まさに人類、世界史をも動かしたことを思い知らされるという、視点の切り替えの大切さも考えさせられる一冊。
コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ワタ、チャサトウキビ、ダイズタマネギ、チューリップを紹介している。
それぞれがせいぜい原産国くらいしか知らないが、そこに何故繁栄したのか、どう人類と関わり、人類がどう変化したのかを簡潔にまとめられている。
どれも面白いが、中でもトウモロコシが宇宙からやってきた植物と言われ、いまだ謎が多いことには驚きを隠し得ない。

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2020年10月24日

Posted by ブクログ

1.植物については暗記するだけのイメージを持ってたので、違う視点から読みたくなった

2.世界で有名な植物が、どのような歴史を辿ってきたのか、今もなお明らかになっていない部分もありますが、簡潔にまとめられている一冊です。
植物を栽培する過程では、人間の生活が変化することも同時に述べています。人間の生活の変化と一緒に学んでいける一冊となってます。

3.植物の歴史は、原産地ぐらいしか気にしたことがありませんでした。なぜ、コショウが人気だったのか、チューリップバブルがなぜ起きたのか、教科書に書いてある表面的なことしか覚えてなかったのです。しかし、この本を読んだことで人間の生活が関わることで植物の存在意義は大きく変わっていくことに面白さを感じました。

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2020年03月09日

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ネタバレ

タイトルにもある通り、本作は主に食物(植物)を取り扱います。

やや劇的なタイトルではありますが、確かに歴史にインパクトのあった食物がフィーチャーされています。

列記しますと、コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ワタ、チャ、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、チューリップ、トウモロコシ、サクラ、となります。

・・・
何が良いかというと、やはり稲垣先生の徹底的な植物好き、植物に関する深く広い知識が面白くてよいですね。

植物の生態だったり形状だったり進化の理由とかを説明しちゃう。そしてそれがまた非常に合理なのでついつい「へぇー」となる、という感じです。

例えば、イネ科の植物について。イネ科の葉は全般に繊維質が多く、消化しづらいそうですが、これは葉っぱを食べられにくくするためだそう。また成長点が地面スレスレにあり、それより上の茎が動物に食べられても成長点から再び生えてくることが出来るそうな。
って、世界史とは関係ないのですが、こういう「ちなみに、」的な話の方が印象深かったりします笑

こうした実った種は、単なる食糧であるに留まらず、将来の収穫を約束してくれる財産、分配可能な余剰、富ともいえるとし、貨幣経済の黎明とも連結していることをほのめかしていらっしゃいます。これまた「大きな」はなしなのですが私はこういうのが好き。

・・・
それから、農業についての逆説的な説明も面白かったですね。

農業は重労働で、食物が豊かなところでは行われないという話。例えば稲作は弥生時代に九州に伝わり、東海地方まで瞬く間に広がったとされますが、東北地方にはあまり広まらなかったそう。これは稲垣先生がいうには「縄文時代の東日本は稲作をしなくても良いほどゆたかだったから」(P.35)とのこと。

東日本では西日本の10倍の人口密度があり、それを賄える豊かな食物が自然の中で手に入れられたとのこと。確かに東北や北海道に多くの縄文時代の遺跡がある話を思い出しました。

なお上記イネについての話が印象に強かったのですが、それ以外にもピーマンとかトウモロコシの話も面白かったですね。

・・・
ということで稲垣先生の著作でした。

途中、あっという間に終わってしまう章もあり、何だか編集者に乗せられて書いたのか?みたいな素人の勘繰りをしてしまう所もありますが、植物についてはどれも詳しく、面白かったです。

故に、広く浅くで読むのには丁度よい書籍かと思います。

逆にもっと深堀りして歴史の移り変わりを知りたいかたは、よくある「〇〇の歴史」「○○の世界史」みたいな本を購入されたらよかろうと思います。

食べ物好き、うんちく好きにはお勧めできる一冊。

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2023年12月20日

Posted by ブクログ

そもそも世界史をよくわかっていないので、世界史の入門として面白く読めた。切り口が身近な植物ということで生き物や自然に興味のある人の世界史入門書です。amzon primeでサクッと読めます。

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2023年05月27日

Posted by ブクログ

身近な農作物である麦やイネなど歴史との関わりを解説。トウモロコシ怖い。樹木よりも草の方が進化した生物なんですってよ。
不連続な歴史知識が、植物で繋がるのは快感。お金、お酒、科学技術とかこういう切り口は色々ありそうなので手を出してみたい。
コショウ、トウガラシ(大航海時代)、ジャガイモ(フランス革命〜アメリカ独立戦争)チャ(アヘン戦争)あたりはさらに深く調べたい。

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2023年01月02日

Posted by ブクログ

「世界史を変えた50の植物」という本があるけど、あれより全然面白い。やはり日本人は日本人が書いた本を読んだ方が感覚が合うんだな。
著者の別の作品と被っている内容も結構あったけど。
歴史の勉強にもなった。

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2022年10月30日

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14種類の作物のお話。
小麦、稲、胡椒、唐辛子、じゃがいも、トマト、綿、茶、サトウキビ、大豆、玉葱、チューリップ、とうもろこし、桜。

アンデス原産のじゃがいもがヨーロッパで広まるときの君主の奮闘ぶりが意外や意外でおもしろい。
マリー•アントワネットの『パンがなかったらケーキを食べなさい』発言が、話者も(本当は叔母)対象物も(本当はブリオッシュ)相対価格も(本当はパンの半分の価格の食べ物)、全てがでっち上げの捏造あおりネタで、実際のマリーは、コスパのいいじゃがいもの普及に努め、国民を飢饉から救おうとしたのだとか。

P217 あとがき
もし、地球外から来た生命体が、地球のようすを観察するしたとしたら、どう思うだろう。地球の支配者は作物であると思わないだろうか。そして、人類のことを、支配者たる作物の世話をさせられている気の毒な奴隷であると、母星に報告するのではないだろうか。
人類の歴史は、植物の歴史かも知れないのである。

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2022年08月31日

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植物に惑わされ続けてきた人類の歴史。これらの植物は古代文明のきっかけでもあり、産業革命のきっかけでもある。

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2022年03月30日

Posted by ブクログ




 この本を読むと人類の生活、文化、力関係などを大きく変えた植物の凄さに驚かされます!
 私達が普段食べているお米やジャガイモ、服の材料の綿、調味料のコショウなどといった日常で見られるごく普通の植物が歴史の中では大きな竜巻を起こします。
 ・食糧難を救うきっかけとなると同時にある一国が滅びかけたきっかけとなったもの
 ・皆が欲しがって値段が高騰していった結果人類が経験するはじめてのバブル経済の要因となったもの
 ・それが原因で国同士の戦争を起こしてしまったものなど
 このように本書を読み進めていくと驚きの連続でとても楽しめます。

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2021年05月06日

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原産地アジア、新大陸の小麦、トウモロコシ、コーヒー、茶、砂糖、ジャガイモ、トマト、綿花などがどう欧州に伝わり影響を与えたがわかりやすかった。食糧戦略はいつの時代も争い事になるようです。

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2020年11月15日

Posted by ブクログ

サックと読める.

人間は植物を支配しているように見えるけど,人間を利用し植物は世界中に生息域を広げ繁栄している.
一方人間は植物を求め,それを栽培し,余剰が富となり,それをさらに生み出すための技術,守るための国家,軍が生まれた.歴史を学ぶ時に植物を意識することはあまりないけど数珠つなぎで見ると植物の影響のデカさがわかる,



ご飯(おそらく玄米 )と大豆の組み合わせは完全栄養食

戦国時代ではお米は通貨。

大航海時代、なぜ人々はインドを求めたのか→胡椒が欲しかった。肉を美味しく保存するのに欠かせない。
胡椒はかつて富の象徴、ステータス

タバコはナス科。

なぜ日本で肉食が発達しなかったのか(する必要がなかったのか )、なぜ海軍といえばカレーなのか、なぜ唐辛子はレッドペッパーというのか

辛味はただの痛覚。しかしそれが脳に快楽物質(エンドルフィン、脳内モルヒネ )の分泌を促し消化の加速による食欲増進を招く。一種のストレス

哺乳類は赤色を認識できないが猿だけは認識できる→熟れた果実を見つけるため
→肉食のライオンとかも!?

アメリカンコーヒーは味の薄いコーヒーではなく焙煎が薄いコーヒーのこと。紅茶に似せるために

南北戦争はイギリスから経済的自立をしたい北部とそれを阻止したい(イギリスとの商売が必要不可欠だった )南部との争い

大豆から味噌を作ると赤味噌になる。これに米麹をいれると白味噌になる

果糖ブドウ糖糖液はトウモロコシの澱粉から作られる

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2020年10月21日

Posted by ブクログ

コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、
トマト、ワタ、チャ、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、
チューリップ、トウモロコシ、サクラの14章からなる。
それぞれに興味深かったが、なかでも
「植物学者が怪物と呼ぶ」トウモロコシが面白かった。
また、調べてみようと思う。

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2020年08月28日

Posted by ブクログ

世界史、というタイトルだけ見て読んでみた

マヤ文明とトウモロコシの話が面白かった
植物が人間に操られているのか、それともその逆なのか、という考えも

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2020年06月17日

Posted by ブクログ

トウモロコシは怪物なんだという記載が一番頭に残っている。
人の歴史はつくづく植物に、動物に振り回されて作られているのだなと思う。それは工業時代になり、石油というものがそこに名を連ねても、社会における動植物、特に主食となる作物を含む植物群の扱いは変わらず、彼らに一喜一憂され続けるのはこれからも変わらないだろう。
彼らは人を利用して広がっていると言うのも、あながち間違っていないと感じられるほど、我々は植物に翻弄されるのだ。

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2024年02月06日

Posted by ブクログ

【感想】
もし「重要な植物ランキング」があるとすれば、文明を形作った「穀物」がエントリーするのは間違いないだろう。実際、世界で最も多く栽培されている作物はトウモロコシであり、二位がコムギ、三位がイネだ。トウモロコシ、コムギ、イネは「世界三大穀物」と呼ばれており、やはり穀物が植物界の中心にいる。四位にジャガイモ、五位にダイズと続き、食料として重要なこれらの主要な作物に次いで生産されているのが「トマト」とのことだ。

本書には上記のほか、大航海時代を作った「コショウ」、アヘン戦争を生み出した「チャ」、糖のもととなる「サトウキビ」、産業革命を引き起こした「ワタ」など、重要な植物を様々に取り上げている。植物一つひとつの原産地や生育方法といった「生物学的知識」はもちろん、その植物を通じた世界史上のできごとも学べる、一粒で二度おいしい本となっている。

各植物の紹介も非常に面白かったが、私が一番印象に残ったのは、「おわりに」の記述だった。そこには人間を介した植物の生存戦略が書かれている。
人類ははるか昔から災害と飢饉の間を生き抜いてきた。病気や干ばつに見舞われても生き残れるよう、植物を品種改良することでより安定した収穫を目指してきたのだ。ムギで言えば「非脱粒性」という性質を持つ変異株を選別し、交配させてきた。イネで言えば病害虫に強い新品種を開発し続け、増え続ける人口をカバーできるように進化させてきた。
こうした取り組みを目の当たりにすると、ともすれば「人間は自らの都合のいいように植物を飼いならし続けてきた」と思うかもしれない。しかし、筆者に言わせれば逆だ。植物が自らの生存範囲を世界中に広げるため、人間を飼いならし続けてきた、というのである。

――作物は、今や世界中で栽培されている。種子を広げることが植物の生きる目的であるとすれば、世界中の隅々にまで分布を広げた作物ほど成功している植物はない。そして、一面に広がる田畑で、栽培作物は、人間たちに世話をされて、何不自由なく育っている。そして人間は、せっせと種をまき、水や肥料をやって植物の世話をさせられているのである。 そのために、人間の好みに合わせて姿形や性質を変えることは、植物にとっては何でもないことなのだろう。人間が植物を自在に改良しているのではなく、植物が人間に気に入るように自在に変化しているだけかも知れないのだ。(略)
人間の歴史は、植物の歴史かもしれないのである。

なるほど、考えてみれば確かにそうだ。世界中のどこを見渡しても、ここまで植物の世話に熱心な生き物は人間しかいない。そう考えると、今まで人間に食べられてきた植物の数々が、実は人間に食べさせるよう誘導し、裏で支配し続けてきたように思える。実は全てが植物の掌の上だったなんて、何とも面白い視点ではないだろうか。
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【まとめ】
0 まえがき
人類は植物を栽培することによって、農耕をはじめとした文明を生みだした。植物は富を生みだし、人々は富を生みだす植物に翻弄された。人口が増えれば、大量の作物が必要となる。作物の栽培は、食糧と富を生み出し、やがては国を生み出し、そこから大国を作りだした。富を奪い合って人々は争い合い、植物は戦争の引き金にもなった。

人々の営みには植物は欠くことができない。人類の歴史の影には、常に植物の存在があったのだ。


1 コムギ
イネ科植物は、乾燥した草原で発達を遂げた植物だ。
イネ科の植物は、ガラスの原料にもなるケイ素という固い物質を蓄えて身を守っている。 さらに、イネ科植物は葉の繊維質が多く消化しにくくなっている。こうして、葉を食べられにくくしているのである。

イネ科植物は、他の植物とは大きく異なる特徴がある。普通の植物は、茎の先端に成長点があり、新しい細胞を積み上げながら、上へ上へと伸びていく。
ところが、これでは茎の先端を食べられると大切な成長点も食べられてしまうことになる。
そこで、イネ科の植物は成長点を低くしている。イネ科植物の成長点があるのは、地面スレスレである。イネ科植物は、茎を伸ばさずに株もとに成長点を保ちながら、そこから葉を上へ上へと押し上げるのである。これならば、いくら食べられても、葉っぱの先端を食べられるだけで、成長点が傷つくことはない。

じつは、イネ科植物の葉は固くて食べにくいだけでなく、苦労して食べても、ほとんど栄養がない。イネ科植物は、食べられないようにするために、葉の栄養分をなくしているのである。

人類は、葉が固く、栄養価の低いイネ科植物を草食動物のように食べることはできなかった。人類は火を使うことはできるが、それでもイネ科植物の葉は固くて、煮ても焼いても食べることができない。
それならば、種子を食べればよいではないかと思うかも知れない。現在、私たち人類の食糧である麦類、イネ、トウモロコシなどの穀物は、すべてイネ科植物の種子である。
しかし、イネ科植物の種子を食糧にすることは簡単ではない。なぜなら、野生の植物は種子が熟すと、バラバラと種子をばらまいてしまう。何しろ植物の種子は小さいから、そんな小さな種子を一粒ずつ拾い集めるのは簡単なことではないのだ。

ところがあるとき、私たちの祖先の誰かが、人類の歴史でもっとも偉大な発見をした。それが、種子が落ちない突然変異を起こした株の発見である。種子が落ちる性質を「脱粒性」と言う。自分の力で種子を散布する野生植物にとって、脱粒性はとても大切な性質である。しかし、ごくわずかな確率で、種子の落ちない「非脱粒性」という性質を持つ突然変異が起こることがある。人類は、このごくわずかな珍しい株を発見したのだ。

恵まれた場所の方が、農業は発達しやすいと思うかも知れない。しかし、実際にはそうではない。自然が豊かな場所では、農業が発達しなくても十分に生きていくことができる。たとえば森の果実や海の魚が豊富な南の島であれば、厳しい労働をしなくても食べていくことができる。農業というのは重労働であり、農業をしなくても暮らせるのであれば、その方が良いに決まっている。そのため、自然が豊かな場所では農業は発展しにくいのだ。
厳しい環境の中で、多くの人々が生き抜くための術を身につけたのである。それが「農業」だった。

そして、農業が生み出すのは、単に食糧だけではない。種子は食べるだけでなく、保存することができる。保存しておけば翌年の農業の元となるが、残った種子は、人類にある概念を認識させる。それが「富」である。
植物の種子は、そのときに食べなくても、将来の収穫を約束してくれる。保存できるものだから、たくさん持っていても困るものではない。また、保存できるということは、分け与えることもできる。
つまり、種子は単なる食糧に留まらない。それは財産であり、分配できる富でもある。こうして富が生まれていったのだ。


2 イネ
農業を行うためには、水を引く灌漑の技術や、農耕のための道具が必要である。
必要は発明の母というとおり、農業によってさまざまな技術が発展した。農業は「富」を生みだし、強い「国」を生みだした。そして、技術に優れた農耕民族は、武力で狩猟採集の民族を制圧することができるようになった。
稲作はコメだけでなく、青銅器や鉄器といった最先端の技術をもたらしたのだ。

イネはムギなどの他の作物に比べて極めて生産性の高い作物である。イネは一粒の種もみから700~1,000粒のコメがとれる。これは他の作物と比べて驚異的な生産力である。十五世紀のヨーロッパでは、コムギの種子をまいた量に対して、収穫できた量はわずか3~5倍だった。これに対して十七世紀の江戸時代の日本では、種子の量に対して20~30倍もの収量があり、イネは極めて生産効率が良い作物だったのである。現在でもイネは110~140倍もの収量があるのに対して、コムギは20倍前後の収量しかない。
さらにコメは栄養価に優れている。炭水化物だけでなく、良質のタンパク質を多く含む。さらにはミネラルやビタミンも豊富で栄養バランスも優れている。そのため、とにかくコメさえ食べていれば良かった。
唯一足りない栄養素は、アミノ酸のリジンである。ところが、そのリジンを豊富に含んでいるのがダイズである。そのため、コメとダイズを組み合わせることで完全栄養食になる。ご飯と味噌汁という日本食の組み合わせは、栄養学的にも理にかなったものなのだ。かくしてコメは日本人の主食として位置づけられたのである。

十六世紀の戦国時代の日本では、同じ島国のイギリスと比べて、すでに6倍もの人口を擁していたとされている。それだけの人口を支えたのが「田んぼ」というシステムと「イネ」という作物である。 
ヨーロッパの三圃式農業に対して、日本の田んぼは毎年イネを育てることができる。一般に作物は連作することができない。しかも昔はイネを収穫した後に、コムギを栽培する二毛作を行った。ヨーロッパでは三年に一度しかコムギが栽培できないのに、日本では一年間にイネとコムギと両方、収穫することができたのだ。


3 コショウ
コショウは肉を保存するために必要なものであった。しかし、贅沢な食生活をする貴族であれば、金さえ出せばいつでも新鮮な肉を食べることもできる。じつは、コショウは実用的な保存料というだけではなく、むしろステータスを表すシンボル的な存在だったのだ。

どうしてヨーロッパの人々に必要な香辛料がヨーロッパにはなく、遠く離れたインドに豊富にあったのだろうか。
それは、気候に関係がある。香辛料が持つ辛味成分は、もともとは植物が病原菌や害虫から身を守るために蓄えているものである。冷涼なヨーロッパでは害虫が少ない一方、気温が高い熱帯地域や湿度が高いモンスーンアジアでは病原菌や害虫が多い。そのため、植物も辛味成分などを備えているのだ。


4 トウガラシ
カフェインはアルカロイドという毒性物質の一種で、もともとは植物が昆虫や動物の食害を防ぐための忌避物質であると考えられている。このカフェインの化学構造は、ニコチンやモルヒネとよく似ていて、同じように神経を興奮させる作用があり、依存性がある。他にいくらでも植物はあるのに、世界の人々が魅了されているのは、すべてカフェインを含む植物なのである。

それでは、トウガラシはどうだろう。トウガラシの辛味成分はカプサイシンである。このカプサイシンも、もともとは動物の食害を防ぐためのものである。ところが、人間がトウガラシを食べるとカプサイシンが内臓の神経に働きかけ、アドレナリンの分泌を促して、血行が良くなるという効果がある。カプサイシンを無毒化して排出しようと体の中のさまざまな機能が活性化され、血液の流れは速まり、発汗もする。
しかし、それだけではない。カプサイシンによって体に異常を来したと感じた脳が、ついにはエンドルフィンまで分泌してしまうのである。結果的に私たちは陶酔感を覚え、忘れられない快楽を感じてしまう。こうして、人々はトウガラシの虜になるのである。

こうしてヨーロッパからアジアへと伝わったトウガラシだが、アジアでは瞬く間に広まっていき、ごく自然に現地の食事の中に取り入れられていった。高価なコショウを求めていたヨーロッパの人々にとって、新しい大陸の見慣れない植物よりも、アジアの香辛料こそが本物で価値あるものである。そのため、トウガラシもヨーロッパの人々に次第に広まっていった。


5 ジャガイモ
ジャガイモの原産地は、南米のアンデス山地だ。
現代のヨーロッパ料理には、ジャガイモは欠かせない。土地がやせていて麦類しか作れなかったヨーロッパにとって、やせた土地でも育つジャガイモは、まさに救世主のような存在だった。今でもドイツ料理に代表されるように、ヨーロッパではジャガイモは欠かせない食材となっている。

しかし、見たことも聞いたこともないアメリカ大陸の作物が、簡単にヨーロッパの人々に受け入れられたわけではなかった。
もともとヨーロッパには「芋」はない。芋は、雨期と乾期が明確な熱帯に多く見られるものである。雨期に葉を茂らせながら貯蔵物質を地面の下の芋に蓄えて、その芋で乾期を乗り越えようとしているのである。

冷涼な気候のドイツ北部地域にとって、飢饉を乗り越えることは大きな課題であった。しかも近隣諸国との紛争の多かった中世ヨーロッパでは、食糧の不足は国力や軍事力の低下を招く。そのため、ジャガイモの普及が重要な課題だったのである。
ジャガイモはコムギが育たないような寒冷な気候や、やせた土地でも、たくさんの芋を得ることができる。しかも畑が戦場となってコムギが全滅することがあっても、土の中のジャガイモはいくらかの収量を得ることができる。
ジャガイモは保存が利き、冬の間も食糧とすることができた。そして、豊富にとれたジャガイモを家畜の餌にすることができた。その家畜が豚だ。

ジャガイモの普及によって食糧供給が安定したヨーロッパの国々では人口が増加した。そして、この労働者の増加は、後の産業革命や工業化を下支えしていく。

ジャガイモは食文化にも革命をもたらした。ジャガイモによってヨーロッパは肉食が可能になったのだ。
ヨーロッパは牧畜文化圏ではあるが、安易に肉食を行うような余裕はなかった。馬は馬車を引いたり、荷物を運ぶためのものであったし、牛は鋤で畑を耕したり、農耕に利用した。牛乳を得ることはあっても、殺して肉にすることはできなかったのである。また、アジア原産のワタが伝わる以前のヨーロッパでは、衣服を作るために羊毛が重要であったから、ヒツジの肉も得られない。
保存が利き、あり余るほど豊富に得られるジャガイモは豚の餌になる。ジャガイモさえあれば、たくさんの豚を一年中飼育することができる。さらにジャガイモが食糧となったことによって、それまで人間が食べていたオオムギやライムギなどの麦類を牛の餌にすることができる。こうして、ヨーロッパの国々は冬の間も新鮮な豚肉や牛肉を食べられるようになった。そして、さまざまな肉料理が発達し、肉食文化の国となっていくのである。


6 ワタ
ワタはワタの実から採取される。ワタの実は種子を守るために、やわらかな繊維で種子をくるんでいる。このやわらかな繊維が「ワタ」となるのである。

産業革命のきっかけとなった植物の一つがワタだった。イギリスは、材料のワタのみをインドから輸入し、綿布の国内生産に努めるようになった。そして、マニュファクチュアによって綿織物が作られるようになっていく。
布を織る作業が効率化すると、今度は糸をつむぐ作業が間に合わない。やがて糸をつむぐ紡績機が発明され、作業が効率化していく。作業が効率化すれば、生産工場は大規模化していく。大規模化すれば、作業は分業化され、都市がどんどん大きくなっていく。
そして十八世紀の後半になると、安価な綿織物を求める社会に革新的な出来事が起こる。石炭を利用した蒸気機関の出現により、作業が機械化され、大工場での大量生産が可能になったのである。これが「産業革命」である。産業革命によって安価な綿織物が生産されるようになると、伝統的なインドの織物業が壊滅的な打撃を受けてしまったのだ。


7 サトウキビ
それまでの農業は奴隷を必要としていなかった。
ところが、サトウキビは違う。なにしろサトウキビを栽培し、収穫するのは重労働である。それまでの農業にも重労働はあったが、鋤で畑を耕すような単純な作業は、牛や馬を使うこともできた。
しかし、サトウキビは三メートルを超える巨大な植物であり、収穫という、家畜ではできない作業が重労働となる。二十世紀になって機械が開発されるまでは、サトウキビの重労働は人力で行われるものだった。
これがプランテーションである。


8 ダイズ
中国の農耕を支えたイネとダイズは、自然破壊の少ない作物である。イネは水田で栽培すれば、山の上流から流れてきた水によって、栄養分が補給される。また、余分なミネラルや有害な物質は、水によって洗い流される。そのため、連作障害を起こすことなく、同じ田んぼで毎年、稲作を行うことができる。
また、ダイズはマメ科の植物であるが、マメ科の植物はバクテリアとの共生によって、空気中の窒素を取り込むことができる特殊な能力を有している。そのため、窒素分のないやせた土地でも栽培することができ、他の作物を栽培した後の畑で栽培すれば、地力を回復させ、やせた土地を豊かにすることも可能である。


9 トウモロコシ
世界で最も多く作られている農作物は、コムギでもなく、イネでもなく、トウモロコシである。
じつは、トウモロコシはさまざまな加工食品や工業品の原料としても活躍している。
さまざまな加工食品に用いられるコーン油も、コーンスターチも、トウモロコシを原料としている。トウモロコシのデンプンからは、「果糖ぶどう糖液糖」という甘味料が作られるため、チューインガムやスナック菓子、栄養ドリンク、コーラなど、さまざまな食品に入っている。私たちは知らず識らずにトウモロコシを食べているのだ。
一説によると、人間の体のおよそ半分はトウモロコシから作られているのではないかと言われるほどである。まさに神がトウモロコシから人を作ったという、マヤの伝説そのものだ。

現在では工業用アルコールや糊もトウモロコシから作られており、ダンボールなどさまざまな資材も作られている。また、限りある化石資源である石油に代替するものとして、バイオエタノールがトウモロコシから作られている。二十一世紀の現代、私たちの科学文明は、トウモロコシ無しには成立しないほどだ。

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2022年11月10日

Posted by ブクログ

判りやすく面白いけれど、キッパリさっぱり明快すぎる感じも。そんなに全て植物で説明つくものだろうか?という。
植物に着目して世界史を見るとこういう感じに見えます、ということなんだろうけども。
そこさえ肝に銘じて読めば、大変興味深い内容と思う。

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2022年08月15日

Posted by ブクログ

自宅で観葉植物や花を育てているだけでも、毎日土を触り水をやり、肥料や日当たりに気をつけて世話をしているとどっちが主人なのだろうと思う時がある。農業革命によって権力や国が生まれ社会や文化は成長してきたのは事実だが、狩猟採集を行っていた時よりも、人間の働くしんどさは格段に増えている。そんな歴史を13の作物と1つの花で語る本。生まれ故郷から遠く離れた場所に運ばれて食文化として根付いたり、神の宿る木と信じられていたりなど、人間とは切っても切れない強い絆で結ばれた植物が愛おしく感じる。

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2022年05月05日

Posted by ブクログ

世界史の流れを植物に注目して辿っていく。1章ごとにひとつの植物をあげ、それにまつわる話が説明される。全14章で、下記の植物が登場する。

第1章 コムギ
第2章 イネ
第3章 コショウ
第4章 トウガラシ
第5章 ジャガイモ
第6章 トマト
第7章 ワタ
第8章 チャ
第9章 サトウキビ
第10章 ダイズ
第11章 タマネギ
第12章 チューリップ
第13章 トウモロコシ
第14章 サクラ

学生時代の授業を別の視点で復習しているようで、懐かしく面白かった。
ある植物の、ある特性がなかっただけで、今現在の世界の状況は全く違ったものになっていたかもしれない。そもそも、人類の繁栄はなかったのかもしれない。歴史は単に植物だけの話ではないけれど、現在というのは色んな偶然が積み重なって、やっとのことで成り立っている危ういものだという気になってくる。

人類誕生や文明の発展に絡めた「コムギ」と「イネ」、大航海時代の「コショウ」、そして日本人の精神性に絡めた「サクラ」が特に興味を引いた(世界史と銘打っているのにサクラが選ばれている違和感はあるけれど)。

桜は散り際が美しい。ぱっと咲いてぱっと散る。本書の第14章では、そんな桜の姿と日本人の精神性について触れられている。古くは鎌倉時代、『平家物語』では桜の儚い美しさが記されている。諸行無常、死の美学、わびさびの精神。そういったものの裏に、実は桜の花の特性があったようだ。

この勢いで、次は『銃・病原菌・鉄』を読んでみたくなった。こちらも、壮大な人類の歴史を感じることができそうだ。

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2020年07月26日

Posted by ブクログ

人間という生き物がその生息範囲を広げるにあたり、過酷な環境下でも適応できてしまう能力が植物への依存度を上げ、
翻弄されていく。
人間の都合に振り回されているようで、しかし植物の生存戦略の道具として使われているようにも思える。
単なる花に価値を見出し、病気の花に希少性をもたせてしまうのは、ウイルスのさらなる戦略かもしれない、などと妄想が膨らむ。
単一作物が整然と並ぶという田圃や畑に美しさすら見出してしまう人類、その美的感覚がどこから始まったのだろう。
トウモロコシの章でもあった「体のほとんどがトウモロコシでできている」からだろうか?
荒蕪な土地を作り変えた達成感からだろうか?
本書を読んだきっかけは、品種改良への一連の取り組みと反穀物文明において智慧の一端にでも触れられればと考えたからであるが、
入門書としては良かったと思う。
人類史に関してはいささか疑問に思うところもあったが、軽い読み物としては及第点だろう。

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2020年01月26日

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