あらすじ
2017年にはじまった「#MeToo」ムーブメント。数々の有名人、権力者たちが糾弾・告発される中、フランスでは女優カトリーヌ・ドヌーヴら100人の女性たちが反対声明を発表した――。この時代にいったい、なぜ? 出生率2.01人の子どもを産み、育てやすい国。たとえ高齢者であってもセックスレスなどあり得ない国。大統領も堂々と不倫をする国。「性」におおらかな国・フランスの現在を、在仏ジャーナリストが描く。
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Posted by ブクログ
友人とお薦め本を交換した結果、巡り合った一冊。
とても読みやすい文体で、サラッと読むことができた。
特に序盤は、カルチャー・ショックを感じることのできるキャッチーな事例が多く、飽きない内容だった。
そんな本書は、二つの捉え方から全く別の評価をすることができる。
一つは、異文化理解という大きい括りの一例というたてつけで、フランスという地域/性というテーマをピックアップした本として。
もう一つは、タイトルから最初にイメージされる通り、フランスの視点からジェンダー論に切り込む本として。
前者の場合はとても高く評価できる一方、後者の場合は賛同しかねる部分もそこそこあった。
最初に述べた通り、序盤はカルチャー・ショックの連続である。
フランスは欧州の先進国で、200近い国々の中では、比較的日本と感覚が近い国だと想像しがちではないだろうか。
でも、この本を読むと(特にどこかが言及はされているわけではないが)アフリカの奥地や、名前も知らない島嶼国の方が、ある側面においては日本と似てるのではないかと思わされる。
誰かにとっての普通/当たり前/常識が、自分とは大きく異なる可能性に、想像力をはたらかせるきっかけとなるような良書だ。
一方で、ジェンダー論の視点に立つと、首を傾げざるをえない部分も散見される。本書(及びフランス)は、性に関する自由をかなり尊重しているが、その陰で苦しんだ人の声に関する記述はごく僅かである(終章のレイプに関する節の数頁など)。
その意味では少しだけ不安を感じる一冊でもあった。
さて、副題である「なぜ「#MeToo」への反対が起きたのか」という問いに関しては、本全体で徐々に明らかにしていくというよりは、フランスにおける性文化を様々な事例から理解していくことで、ふわっと納得するようにし向けているような構成だ。
ただ、答えっぽいものを強いて挙げるなら以下の部分だろう。(少し長いがご勘弁...)
「フランスでは、男女という違った性を持つ存在が、同じ時間を過ごすことで起こる行き違いやちょっとしたアクシデントを法律で一掃するのではなく、酸いも甘いも噛み分けた大人になるためのステップの一つだと考えてきた。そして、時にそれを楽しむこともあった。だから、その「違い」がなくなることを恐れる。男女平等教育に対して簡単に「いいね」とは言わないし、少々の不平等やセクハラだって我慢する。そういったことよりも、「遊び心のある色気のある社会」をこれまで求めてきた。それゆえ、「セクハラ」「ちょっとエッチな冗談」「ナンパ」「真剣なアプローチ」の線引きが難しくもある。そのようなまさに男女関係のグレーゾーンを、法で規制しにくい国でもある。」
(134-135頁)
このように抜き出されても、は?ってなるかもしれない。特に、欧米における主流のポリティカル・コレクトネスに触れてる身としては。
でも、本書全体を通して紹介される事例が、じわじわと自分の中に蓄積していくと、同意はしなくても一定の理解を示すことはできるようになる。
これが、他者を知るということなのだろう。
(なお、第1章から終章まで、全5章構成だが、個人的にはフランスの性教育について書かれた第1章が最も面白かったし、日本も見習うべき視点が多かったように思う。
一方で第2章以降は、歴史的視点を交えて、上述したフランスにおける性文化の背景を説明している内容が多いのだが、少し言い訳っぽくも聞こえてしまったのが正直なところ。)